風邪ならば@


【芦川様リク/狛苗/苗木ご奉仕】




「あぁ、苗木くん…僕はもう、だめかもしれない…」


何を言ってるんだろうかこの人は。ベット脇にある椅子に腰掛け僕は半眼になりながら今現在ベットで苦しんでいる狛枝くんを見た。
首筋には汗が伝い、ハァハァと呼吸が荒く、まあ苦しそうである。苦しそうではあるのだが、その実熱は37度6分という、まあ平熱より少し高めの温度であって。
彼のこの熱が風邪から来ているのは承知の上で何も治らぬ病で彼は苦しんでいるわけではないのだ。
なのにこのように熱に浮かされ僕はもうだめかもしれないとは。呆れながら剥いた林檎を皿の上に乗せ狛枝くんに言った。

「発汗もしてるし、大丈夫だって狛枝くん」
「いや、苗木くんがお見舞いに来てくれたんだ。その代償はきっと恐ろしいものだよ…」
「…」

眉間にしわを寄せかつてない程真剣な眼差しで言うが、そう言って彼や僕に不幸が訪れたことなど一度もない。
狛枝くん曰く幸運が訪れた際それと同じだけの不幸が近辺に起こるそうだが(中には死んだ人もいるらしい)僕はこの通りピンピンしている。元気である。
不幸なんてものは狛枝くんの思い込みでは?毎度ながらに思うが「それは君が超高校級の希望だから…」とお馴染みの言葉を頂くからあえて黙っておこう。

「ほら、熱も少しずつ下がってるみたいだし…」

なんとか彼を安心させようと額に手を当てれば先ほどより温度は低くなっていた。
なので弱気な彼を少しでも励ましたい思い一心で言ったのだが狛枝くんはまったく別のところで感激しているようだった。

「…狛枝くん?」
「っああ、苗木くんの手、冷たくてとっても気持ちいいよ…!」
「そ、そう?」
「うん…」

どうやら熱で熱くなっている額に僕の冷たい手が気持ちよかったらしい。ぽや、とした顔で微笑む狛枝くんの顔はなんとも心地よさそうで、それに普段とは違いなんだか。

(…かわいい)

それこそ情緒不安定で危ういところもあるが、今の狛枝くんはそんなところがまったく見られず、ただただ手のひらに額を擦りつけまるで猫のよう。
思わず可愛いなんて思ってしまいそのまま手を額に当て続けてやる。
その度にへにゃへにゃとした笑みをこちらに向けてくるものだから、うん、正直言ってほんと可愛い。

「ああ…なんだかとても満ち足りた気分だ」
「そ、そうかな…」

こんな狛枝くんは見たことがない。しおらしく猫みたいに擦り寄ってくるだなんて。
少しどきどきしながらそんなに喜ぶんであれば、ともう片方の手も彼の頬に当ててやれば余計に嬉しそうな顔をした。

「きもちいい…」
「……」

恍惚ともとれる表情でそんなことを言われてしまい、ついこの間狛枝くんと体を重ね合わせた時のことを思い出してしまった。うわ、と顔を真っ赤にする。
やばい何思い出してるんだ自分。一人で心臓を高鳴らせ馬鹿みたいではないか。
しかし一度そう思ってしまうと中々狛枝くんに視線を向けられず、気まずげな顔で俯いた。そんな僕を狛枝くんが見ていたことなど知らずに。

「…ねえ、苗木くん」
「な、なに」
「もうちょっとこっちに来て」
「あ、うん」

狛枝くんに手招きされたので椅子から腰をあげ彼に近付いた。普段の僕だったらもっと警戒するのだが、その時の狛枝くんに危険などないのだろうと思い素直に従ってしまった。
しかし忘れてはいけない。どんな状態であろうと彼は狛枝くんである。人懐こい顔して中身は計算高くいつだって僕はその罠にはめられているのだから。
それを一瞬でも忘れてしまった今。


(、あ)


やばい、と思った瞬間それはもう遅くて。


ぐい、と引っ張られ狛枝くんの上に伸し掛るような形になりながら抱きしめられていた。
ぎゅううと暑苦しい体温がすぐそばにあるのを感じ顔を真っ赤にして離れようとしたが狛枝くんの力は強い。どれだけ暴れたってその腕から逃れられることは出来なかった。

「ちょ、ちょっと狛枝く、ひうッ!」
「あぁ、苗木くんだ…」
「ッ、ちょ、と」

そして鎖骨に顔を埋めふんふんと鼻を蠢かせる。思わずびくっと肩が揺れた。
狛枝くんと体を重ね合わせた時のことを思い出してしまったためその些細なことでさえ今の自分には大きな波となる。
すぐに体が熱くなり始め狛枝くんに力なくもたれかかってしまい、じわじわと中心に集まってくる熱に目を瞬かせた。

なのに、そんな中途半端に熱を上げておき狛枝くんはというと。

「―――あぁ、だめだ、思うように体が動かない」
「…え」
「ごめん、苗木くん」

本当に申し訳なさそうな顔をして僕を抱きしめていた腕を下げる。え、え、え、と戸惑う僕だったが確かに狛枝くんは病人。
そんな彼に何を欲情しているのだろうか、と恥ずかしさで胸がいっぱいになった。直ぐ様飛び起きる。

「本当にごめんね、抱きしめることすら出来ないだなんて…」
「い、いや、僕こそごめん…狛枝くんも無理しないで、熱あるんだか、ら……?」

飛び起きて腰に乗っかったまま彼に謝れば、ふとお尻に違和感が。なんだこれは、訝しげに後ろを振り向きその正体を確認すれば、そこにあったものに思わず言葉を失った。
狛枝くんの、それ。簡単に言えばそうだ。だがそれが通常通りの形ではなく、何故か勃起していた。

「…」
「…」

一体いつの間に。驚きで硬直する僕に狛枝くんは困ったように笑った。

「苗木くんの匂い嗅いでたら、さ。ごめんね、こんな汚らしいものお尻に当てちゃって」
「い、いや…」
「苗木くんはもう帰っていいよ。これは一人でどうにかするから」

一人でどうにかする?そのまま彼の上からどこうと思っていたが、その言葉を聞き思わず足が止まる。
それは僕がいなくなった後で一人その手で慰める、ということだろうか。僕がいるにも関わらず。
きっと今の自分じゃ満足に体を動かすことも出来ず僕に愛撫などが出来ないからそう言っているのだろうな、なんとなく彼の心情を察しながらぎゅっと手を握る。
なんだろう、とても今の言葉がとても不愉快であった。何故かは分からないが僕がいるのに自分で、と言われた瞬間すごく嫌な気分になった。






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