ラブベントー




「あーお腹すいたー!」
「ようやく飯の時間だな!」
「パン買ってくるわ」


お昼休み。生徒たちはそれぞれ昼食を取るため、売店に向かったり机を動かしお弁当を広げたりする時間帯。
僕も体育終わりでお腹がぺこぺこ。すぐにお馴染みのメンバーでお弁当を広げる準備をした。霧切さん十神くん朝日奈さん大神さん葉隠くん、とだ。
いつもなら舞園さんがいたり桑田くんがいたりその時により少しばかり面子は入れ替わるのだが、生憎仕事だったり大会で公欠だったり、今日はこのメンバーだけでご飯を食べるようだ。
お腹すいたねーねーと笑いながら朝日奈さんはもうすでにお弁当を開けて箸を握っていた。



「あ!今日ハンバーグだ!やった!」
「ハンバーグ如きで騒ぐな愚民め」
「そういう十神くんもハンバーグなのね」
「こいつの冷凍食品と一緒にするな。俺のは一流のシェフに作らせた一品だぞ」
「ちょっと!冷凍食品じゃないわよ!」



わいわいぎゃあぎゃあ。楽しげな会話を聞きながら、ハンバーグいいなあ僕も今日のご飯なんだろう狛枝くんが作ってくれたようだけど、とお弁当箱の蓋を開ける。





「……」




すぐに蓋をした。


今見たものが信じられなくて、ちょっとこれは嘘だろうという疑惑の念でいっぱいになりながら、僕はお弁当の中の現実から必死に目を逸らした。
だって可笑しいだろう。男子高校生のお弁当箱の中がこんなものであっていいのか。狛枝くん、これ本当に君が作ったの?
いや、ありえそうだけど、ありえそうなだけに、ほんとこれはどうしたものか。



「ん?苗木っち食わないんだべ?」



お弁当を食べ始めない僕を葉隠くんは目ざとく気づき、もぐもぐとご飯を食べながら不思議そうな顔を向けてきた。
そう言うと朝日奈さんや大神さんなんかも反応し「あ、ほんとだ」「どうしたのだ、苗木よ」と言ってくるものだから、もはや苦笑しか出来ない。



「いや、食べるよ」
「じゃあ早く食べなよ。時間なくなっちゃうよ?」
「…あー、うん、そうだよね…」



昼休みの時間は限られている。早く食べなければ朝日奈さん達も食べ終わってしまうだろうし、早く食べなければいけないのは分かる。
しかしだな、このお弁当を広げるというのは少しばかり抵抗がいる。今まで自分でお弁当を作ってきたのもあり、このお弁当との差に戸惑いしか感じられない。



「何を躊躇っている。早く食べろ」
「た、食べるよ」
「蓋を開けなければ食べられないだろう」
「…うん」
「…」



十神くんも怪訝そうな顔で僕を見ているし、あああ、もう、やだなあ。



「苗木くん、お弁当の中に嫌なものでもあった?」



流石だよ霧切さん正解。いや、正確には嫌なものというか、戸惑いを隠せぬものというべきか、恥ずかしさというものがある。
まぁせっかく作って貰ったのだしここで文句を言うのはちょっと失礼かもしれない。兄がせっかく作ってくれたもの、美味しく食べるのが礼儀のはず。
そう無理やり思い込むようにして僕はため息を一つつき、恐る恐るお弁当箱の蓋に手を伸ばす。あぁ、皆の反応が怖いなあ。

でももしかしたら見間違いだったという可能性もあるし、もう一度ゆっくり見てみなければ……ぱかり。






「…えっ」
「…苗木っち…?!」
「む…」








『苗木くん大好き』







あ、やっぱ見間違いじゃなかった。







「なにそれー!彼女?!彼女の手作り?!」
「苗木…貴様、に彼女だと…?!」
「可愛らしい弁当だな」
「…女の手作り、ね」
「うわー!苗木っち裏切りだべー!」




のりで器用に作られた文字ののり弁。たこさんウィンナーや綺麗な色の卵焼き。一口サイズに切られた野菜達。可愛らしい猫や犬の形の爪楊枝。ハート型のハムなんかもある。

母親や自分が作った物ではないことが見てすぐ分かるお弁当に僕の周りの人達、更にクラスの皆にも「苗木に彼女?!」と詰め寄られその日のお昼休みは非常に面倒なことになった。
実際彼女がいるでもなく、これを作ったのは実の兄ですとは流石に言い難く、僕はひたすら曖昧な笑顔でごまかすので必死であった。




「素敵な彼女だねー!」
「羨ましいべ!苗木っち!」




彼女、か。こんな可愛らしいお弁当作ってくれる彼女とか、うん、実に欲しいよ。
これが実の兄の作ったものだなんて思いたくないくらい。あははは、もう狛枝くんに作ってもらうのやめよ。


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