ざく!どろり!




「いたっ」



ざく、という嫌な感触と共に感じた痛みに思わず呻けば、指先に赤い線ができているのが目に入った。
その赤い線はじわじわと真っ赤な液体を零し指伝いに流れていくのを見て、やってしまった、と一人苦々しげな顔をする。
一人暮らしをしてもう長い。料理にも慣れてきたと思ったのに、まさかこんなヘマをしてしまうとは。
暫くその血を眺めてからはぁとため息を落とし、止血をしようと包丁をまな板に置く。ついでに指先を持ち上げ口元に運び、ちゅう、と血を吸えば鉄臭い変な味が舌先に広がった。美味しくなかった。









「苗木くん?!?!?」



椅子に座り絆創膏を貼っていると、ちょうどコンビニから帰ってきた兄が僕の姿を見つけ真っ青な顔で近付いてきた。
どさ、と重みのある袋が途中で投げ捨てられるのを見て、あれまずいんじゃないか、心配になる。
中身がチラリと見えたけどあれケーキとかそういう部類のものだよね。絶対今ので崩れたよ、狛枝くん。
だけど彼はそんなことはどうでもいいらしく「う、うわあ!」という悲鳴じみた声で絆創膏が貼られた僕の指先を見る。薄い絆創膏に血が滲んでいた。



「どうしたのこれ」
「包丁でやっちゃった」
「もう、やっちゃったじゃないよ」



兄はひどく狼狽えた様子で僕の指先を撫で上げ、まるで自身の痛みかのように痛々しげな顔をしている。
痛いのは僕なのに、その顔をじいと見ているとぱっと僕の方を見た兄と目が合った。わ。



「ごめんね苗木くん」
「え、なにが?」
「僕が料理をしていれば、こんなことには…」
「なにそれ、大げさだよ」
「大げさなんかじゃない!僕は悔しいよ…君を傷付けるものから守れなかっただなんて…」



なにやら熱くなっている兄は真剣な眼差しで僕の手をがっしと掴み熱弁する。ぎゅう、と力を込めて掴んできたもんだからずきりとした痛みが指先に。ちょっと痛いんだけど、ねえ。



「本当にごめんね、苗木くん…」
「狛枝くんのせいじゃないから、そんな謝らないで」
「…」



うわ、狛枝くんがぎゅって握るもんだから血がいっぱい出てきたじゃないか。絆創膏にこんないっぱい滲んでる。ちょっとぐろいぞ。



「あー…これはひどい。あ、ねぇ苗木くん」



いい加減そろそろ離してくれないかなあ、血絞られてるような気がしてちょっと嫌なんだけど、と思っていると狛枝くんがふいに僕の名前を呼んだ。
今度は真剣味を帯びた声音というよりは何やら期待を持ったような明るい声音で、一体なんなんだと思い顔をあげる。
そして「なに?」と聞けば、彼は引き締まった薄い唇を緩やかに開き、言った。



「この血、舐めていい?」



何言ってんのやめてこわい。



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