早く色を




ちくたくちくたく、ぼーんぼーん。



「…まだかなあ」



苗木くんはいつ学校から帰ってくるのだろう。テレビもつけずに居間で一人彼の帰りを待つが、一向に玄関のドアが開く音は聞こえず寂しい思いでいっぱいになる。
僕はこんなにも彼の帰りを心待ちにしているというのに、こういうときこそ時間は怠け、苗木くんがいつも帰宅する時間にはならない。
いつも楽しいときこそ働き時間を早めるというのに、卑劣なやつめ。
苦々しげな顔をしてそっとため息をついたが、それに対し誰も返してくれる者がいないというのだからやはり退屈だ。
この寂しさを何かで紛らわしたいが洗濯物はもう取り込んだし買い物はしたし、やるべきことは終えている。あとは趣味に費やすべきか、例えば読書だとか、うーん、微妙。
あぁ、早く苗木くん帰ってきてくれないかなあ。君の体温をこの腕で感じたいよ。その柔らかな頬も、鳥が囀るような声も、優しげな笑顔も、全部全部僕のものなんだから。
僕にこんな感情を抱かせるだなんて苗木くんもひどい。いつもそうなんだ、僕ばかりが彼を想い、追いかけて、焦がれて、一方通行にも程がある。
しかしそれでも僕は全然構わない。彼の想いがどこに向いていようと、僕に向いてまいと、そんなことは大した問題になりはしないのだから。
幼い頃から苗木くんという存在が僕の傍にあるべきことなのは、当たり前のことだと思っていたし、今でもそう。僕はただ彼に世界を捧げるだけ。



「なえぎくーん」



だけど彼がいない僕の世界はとても醜くて薄暗くて、死んでしまいたいくらいの感情が湧き上がってくるからさ、早く帰ってくんないかなあ、あー、くるしい。




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