会いたい




今日はラストまでバイト。いつものこととはいえやはりそれなりに疲れる。
ふらふらとしながらようやく入った休憩に安堵しスタッフルームへと迎えば、途中パートのおばさんとすれ違った。
おばさんは僕と目が合うと「あ!」と声を上げ近付いてくる。なんだろう。


「苗木さん」
「は、はい」
「たーたたたーたー、っていうメロディ、あれ確か貴方の携帯よね?ずっと鳴りっぱなしだったわよ」


にこにこと人の良さそうな笑顔と共に教えてくれたが、真っ先に思い浮かんだことはおばさんが何故僕の携帯の着メロを知っているのかということだった。
まぁ教えて貰ったことは感謝しなければならない。とりあえず「教えてくださり有難うございます」と笑って足早にその場を去った。鳴りっぱなしだったという携帯。なんだか気になる。









「うわ」


携帯を見たとき、真っ先に目に入った着信履歴の数とメールの数に目眩がしそうになった。
何十件という単位で僕の視界に広がるそれは全て同じ人物からのもので、流石に予想外のことにため息すらつきたくなる。



『今どこにいるの?』
『今日帰り遅くなるかも』
『と思ったけど案外早く帰れそう』
『お出かけしてる?』
『何時頃帰ってくる?』
『苗木くん?』
『連絡頂戴』
『あまり帰りが襲いのは関心しないな』
『未成年なんだから夜遊びは程ほどに』
『ねえ無視?』
『電話出て』
『もしかして何か事件に巻き込まれた?』
『お願い連絡頂戴』
『誠くん、誠くん、誠くん』



ずらあと並んでいるメールを一つ一つ見ていると、最後に送られたメールに目が止まった。
苗字ではなく、名前で僕の名前を呼んでいる兄のメール。まったくあの人は、という呆れの気持ちもあるが、何より感じたものは、懐かしさ。


「…名前」


兄が僕の名前を呼ぶだなんていつぶりだろう。記憶を遡ったがつい最近のことではないはず。それに呼ばれたといっても直ではなくメール越し。
それほどまでに参っているのかあの人は。はぁと今度こそため息を落とし僕は彼にメールを返信することにした。
何を勘違いしているのか知らないが僕はただのバイト。夜遊びでも事件に巻き込まれたでもない。自身の生活費の確保をしているだけなのだ。
相変わらず心配性だなあ。今度からはしっかりバイトのシフトは教えておかなければ。
携帯に指先を置き文字を打とうとすると、再び携帯が震えメロディーが鳴り出す。今度はなんだ、と思っているとそれはメールで、やはり彼からであった。


『誠くん、会いたいよ』


だからバイトだってば。



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