愛は世界だ




兄が持ってきてくれたお土産は所詮駄菓子というもので、最近では見なくなったお菓子がたくさん詰まっていたのでつい目を輝かせた。宝の宝庫か、これは。


「あっちで友達が出来たよ」


袋の中から大好きな綿菓子を発見し嬉しさのあまり即袋を開けた。瞬間ふわりと漂う甘美な香りは久々なものでつい口元を緩ませる。
昔はよく兄と食べたものだ。幼稚園の近所に駄菓子屋さんもあって十円玉を数枚握り締め向かったのは今でもよく覚えている。
そんな駄菓子屋も世の不景気とやらに呑まれてしまって駄菓子を食べる機会が減ったのに、あぁ、懐かしい。


「彼女も出来たよ」
「狛枝くんに?」
「うん。こんな僕を好きだと言ってくれてね、嬉しかったなあ」


おお、それは確かに珍しい。綿菓子を頬張りながら頷く。
兄である狛枝凪人は笑顔の似合う好青年だが、性格に少々問題がある。
それは彼の崇めるもののことだったり、卑屈な考え方だったり、色々なところから来ているが大抵の人は兄のことを「おかしい」と言う。僕もそう思う。
ただ長らく一緒にいれば慣れというものも訪れてきて彼の考え方もそれなりに理解を示す部分も出てくるのだから不思議なものだ。
唾液と砂糖で出来た綿菓子を絡ませながら「良かったね」と笑いかければ、兄も笑う。


「別れは名残惜しかった」
「ならそのままあっちにいれば良かったのに」
「どうして?」
「どうしてって…僕は一人でも大丈夫だよ?この暮らしにも慣れたし」


口の中の綿菓子が舌先から消えていく。もうひと切れ食べよう。すっと手を伸ばし綿菓子を千切ろうとしたが、その手を兄に絡め取られ思わず息が詰まった。
な、なに、急に…、戸惑いを含めた視線を送れば、兄は笑顔の中でも笑っていない目で僕を見下ろし囁く。


「僕は大丈夫じゃなかったみたい」


あぁ、やっぱ君は君のままだ。



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