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ダイヤモンドの綺羅星


「……およ?」

自分の荷物の中のスマホが点滅していることに気がついて、俺はそれを手に取った。
午前中にショッピングモールで行われた、『Eden』と『Trickstar』のライブについて百瀬からメッセージが届いていた。ち〜ちゃん先輩から聞いたニュースで知ったが、ちゃんと百瀬からも知らされていたみたいだ。

「なぁんだ……百瀬からちゃんと来てた。やっぱり終わってるみたいだ。俺が気付かなかっただけだね。もう遅いと思うけど、返信しとこ」
「百瀬が現場にいたのか。それなら、最悪の事態は避けられただろうな! 良かった!」
「うん。……ていうか、なんでち〜ちゃん先輩がそんなに百瀬を高く評価してるの?」
「うむ。俺だって、百瀬には今日までお世話になったんだぞ! 『流星隊』のプロデュースはもちろん、曲もたくさん書いてもらったしな……☆」

それはそれは嬉しそうに笑うち〜ちゃん先輩の気持ちが分かってしまう。しかし、先輩の言葉に俺はあることを思い出して、タオルに顔を埋めながら、恐る恐る問いかけた。

「あのさぁ、『流星隊』って、百瀬に曲作ってもらうとき、無償でもらってる?」
「ん? ああ、そうだな……無償というのも悪い気がしてな。最初の頃はともかく、調子が上がってきてからは報酬を渡すようにしてるぞ。最初の分も少しずつ返しているし。出世払いというやつだなっ!」
「えっ、本当そういうとこしっかりしてるよね……」
「『Trickstar』はどうなんだ? お前たちなら、全然無償でも頷けるが」

それなのだ。百瀬は無償でもいいと言っていたけれど、ホッケ〜がそれを認めなかった。なにかを与えなければ気がすまないと言って、些細なものを報酬として与えてきた。

「俺は百瀬の好きにしてあげたかったんだけどね……。ホッケ〜が、『贔屓にしているって疎まれるかもしれない』って不安がって」

だから、ホッケ〜はそこに関しては譲らなかった。
知っているからだ。百瀬は本当はみんなの女神さまなんかじゃない。どこかの誰かには嫌われて、妬まれて、射殺してしまいそうなほどの視線を浴びていることを。

「だから、百瀬を守るために……百瀬が二度と傷つかないように、誤魔化してきた。でも、それじゃあダメなんだよね……」
「……うむ。百瀬も最近は『選ぶ』ようになってきたし、そこはもう、問題ないんじゃないか? 誰彼構わず自分の才能の一部を分け与えず、本当に、愛する人間だけに自分の命を吹き込んだ曲を捧げる。百瀬にとって作曲は、アイドルに歌ってもらってこそ価値がある」

誰にも歌ってもらわなければ、ただのガラクタ同然、というのは言い過ぎかもしれないけど。それほど無価値なものに成り下がってしまうんだ。

「そんなの嫌だ。百瀬の曲は綺麗で、キラキラな宝石みたいなものだから。そんなことさせない。俺たちが……『Trickstar』が、百瀬の夢を叶えるよ」
「あぁ、その粋だ。当然、新曲を作って貰ったんだろう?」
「うん! 今までの想いをたくさんつめこんだ……最高傑作だってさ♪」

興奮ぎみに曲について語りだした百瀬の姿が微笑ましくて、思い出すだけでちょっと笑ってしまう。きっと今までのものとは全く違う化学反応が起こるだろうなんて科学者みたいなことを言い出した百瀬は、少し夏目の影を感じさせた。さすが、幼馴染み。

「……俺だって『幼馴染み』みたいなものなのになぁ」
「うん? むしろお前たちに接点がなかったことに驚きだ。連星さんはお前のお父さんと仲良しだったろう?」
「ち〜ちゃん部長、百瀬のお父さんのこと知ってるの?」
「もちろんだ! 俺の親がファンでな! というか俺がファンだ!」
「……ええっ!? うっそだぁ!」
「む、百瀬にも信じてもらえなかったが、結構傷つくぞ!」

ちなみに何と言い返されたのか聞くと、百瀬は「信じられない!」「そんなの嘘だ!」とち〜ちゃん部長を跳ね退けたらしい。そんな百瀬に信じてもらうために、あの手この手を尽くしたみたいだ。

「変なことしてないよね?」
「何を想像しているか分からんが、普通にあの人の曲を歌って踊った。さすがに百瀬も、信じざるを得なかったみたいでな」

散々謝られたぞ、となぜか嬉しそうに話すち〜ちゃん部長に、俺は安堵のため息を漏らす。父親の話は地雷だろうに、この人はそれを乗り越えて百瀬の側に駆け寄っていったんだなぁ。そういうところだけは、尊敬できるよ。俺は一回、突き放しちゃったから。

「百瀬……哀しんでなかった?」
「複雑そうではあった。本人に聞かなければ、正しいことは分からないが……見方は、変わったんじゃないか」

恐らく、お前たちに真実を語る日も近いだろう、と断言して見せた部長に、俺はそっか、と素っ気ない返事を溢す。良い方向に向いていれば、それでいいのだが。

「ち〜ちゃん部長。俺ね、俺と百瀬はね……本当はむかしに、会ったことあるんだよ」

父さんと百瀬のお父さんが仲良しで、母さん同士も心を許しあって、俺たちが出会った。百瀬は、あまり覚えていないみたいだけど。

「特別なことじゃないよね。『親同士が仲良しだったから、子供同士が一緒に遊ぶ』……なんてことはさ」

当時で言えば、とても仲が良かったと思う。他の子達と何が違かったかと言えば、お互い父親がアイドルだったということだろうか。それがなんだか、俺たちを繋ぐ絆みたいで、嬉しくて、その秘密を大事にしてた。

「父さんが百瀬を褒めたらヤキモチ妬いて……喧嘩もしたっけなあ。父さんを取られたみたいで嫌だったんだよね」

今思い返せば、くだらない子供らしい嫉妬だった。向こうが褒められたぐらいで喧嘩なんて。でも、泣き出しちゃった百瀬見て、俺も悪いことしちゃった気分になって泣き出した。

「そんな感じで、平和だったんだよ。平和すぎて、あんまり百瀬の印象に残らなかったかなぁ……約束、忘れちゃったみたい」
「約束? どんな約束だ?」
「……百瀬にとっての一番のアイドルって、百瀬のお父さんだったんだ」

だから、約束をした。いつか俺もアイドルになって、父さんたちよりももっとすごいアイドルになってみせるから。他の人なんか目じゃないぐらい輝いて、君を振り向かせて見せるから。

「『そのときは、百瀬の一番のアイドルになりたい』。……なぁんて、今じゃちょっと恥ずかしいけど」

その時見せた、百瀬の笑顔が忘れられなくて。

「でも、父さんと百瀬のお父さんは引き離された。父さんたちで繋がれてた俺たちの絆は……あっという間に壊れちゃったんだ」

一緒にいた期間は、どれほどだっただろうか。ほとんど曖昧で覚えていないけれど、あまり長くはなかったと思う。

「顔も大分大人になってて最初は分かんなかったけど……それでも、思い出したんだよ」
「それだけでも凄いことだと思うぞ。子供の頃の記憶なんて、大体朧気でいて俺もはっきりとは思い出せない!」
「そうだよね。だから百瀬が覚えてなくてもさ、ちょっと寂しいけどいいかなって」
「……覚えてなくても、お前はその約束を果たす一歩手前だ。それは、誇って良い」

『SS』で優勝すれば、本当にその約束を果たしたことになるんだろうか。それはまだ、わからないけど。

「それは年末にならなきゃわからないけど。でも頑張るよ。ちゃんと見届けてもらわなくちゃね、『プロデューサー』たちに!」

だって、俺たちを見てくれる百瀬は、キラキラした瞳で、最高の笑顔で俺たちを見てくれるから。それがたまらなく、嬉しいんだ。
『一番のアイドルになるから』、『その代わり、私の曲を世界で一番にしてね』って約束。俺は、思い出したから。胸の奥に、ずっと灯っていた光だから。

果たして見せるよ、絶対に。


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