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突破へ!


「よし、全員集合してくれ」

北斗くんの掛け声に、スバルくんが集まる。【オータムライブ】本番を迎えるにあたって、気合を入れるために円陣を組んで、ついでに誰にも聞かれないように作戦会議を済ます。

「ねぇねぇ、あんずも百瀬も! フッシ〜や青い先輩たち、サポート要員のみんなもおいでよ! 全員で円陣を組もうっ、みんなの夢ノ咲パワーを結集して『Adam』に勝つぞ〜!」
「ふふ。『夢ノ咲パワー』というのが何かはわかりかねますが、仰りたい意味は理解できなくもありません。円陣にお招きいただき、光栄でございます」

ただ、『特待生』ではない人たちが露骨にこちらを手伝ってくれなくなったので、すぐに雑務に向かわなければならない。ライブを行う分には十分なほど準備は終わっているけれど、やることはまだまだあるから。

「百瀬さんの真摯な働きのおかげで、いくらかはこちらに手を貸してくださっていますけどね」
「うん? 私、何かしたっけ……」
「あなたが『特待生』ではない人たちに紛れ込んでいる中で……それとなく、『Trickstar』のことを宣伝したでしょう?」
「百瀬ちゃんの言葉は、人の心を揺さぶりますからね。それこそ、魔法みたいに」
「あはは、私的にはただの自慢でしたけどね〜?」
「それが、すごいんです。ただの自慢が、聞いている人には『良い印象』として残る。不思議なことに、全く不快感がないんですよ」

そんな小さなことがここで繋がってくるとは。何気ない選択が、良い流れにきている。これぞ、バタフライエフェクト。カオス理論にしては、事象が小さいけれど。

「それに、幸か不幸か『Trickstar』の皆さんはあまり普通ではございませんので」

なにも出来ずに状況すら理解できないうちにボコボコにされて、敗北。なんて残念な展開にはならないはずだ。『fine』を倒したときだってそうだったのだから。

「お陰で、敵に一泡吹かせられそうだ」
「ぜんぜん油断はできないけどね」

基本的に『Adam』は格上で、周りは秀越学園や系列校のアイドルだらけで四面楚歌だ。細かい策で戦力は徐々に削られてきている。苦しい戦いになりそう。

「あぁ、ワクワクする」
「そこで『ワクワクする』のは変だろう。と言いたいが、俺も同じ気持ちだ」

やっぱりライブはいいな、と高ぶる気持ちを抑えられない様子でいる二人に、こちらも笑みを溢す。それからふと、思い出したかのように北斗くんがこちらに振り返る。

「そういえば、今回の曲の報酬はまだだったな。順番通りなら、俺の番になるが」
「……えっと、その……ひとついいかな?」
「ああ、何でも言ってくれ。むしろ、もっと弾んでもいいぞ?」
「…………じゃあ、あの、褒めてほしい」
「……は?」

照れくさくて、小さな声で呟くと、私の言葉に集中していた北斗くんは、目を丸くして私を凝視した。【サマーライブ】のときは、真くんにアイスをおごってもらったり、他にもジュースをおごってもらったりで誤魔化してきた。でも、お金なんて要らない。元々、私の曲を舞台で歌ってくれるだけで、十分すぎる。
相手の返事を待つのに黙り込んでいると、北斗くんは「ふむ」とどこか納得した様子で、よしよしと私の頭を撫でる。

「よくやった、百瀬。お前のことを誇りに思う」
「堅苦しいなぁ、ホッケ〜。いいけどねっ、俺もよしよしってしてあげる〜☆」
「おい、頼まれたのは俺だぞ?」
「いいじゃん減るもんじゃないし〜? でも珍しいね? 百瀬がそんなこというなんて」
「うん……なんていうか……思い付くのがなくて。変だったよね? 熱気にやられてるのか、私もこの状況に興奮してるのか……?」
「ううん……可愛いから、もっと甘えてもいいよ♪」

わしゃわしゃと犬を撫で回すみたいにしていた手を、今度は頬に当ててむにむにと弄ってきた。その感触が楽しいのか知らないが、ずっと触られるとちょっと恥ずかしい。

「お〜い、お前らだけ盛り上がるなよ」

真緒くんが横から声をかけてきたが、むしろ今までいなかったのが驚きだ。てっきり北斗くんが集合をかけたときに、みんな集まっていたと思っていたのに。
『全員集合』と呼ばれたのは聞こえたみたいだけど、人混みを掻き分けるのに苦労して、辿り着くのが遅れたらしい。その前は、『Adam』と直接話していたようで。
真くんは会話の中で情報を引き出して、真緒くんは言いたいことを言ってきたという。

「……ねぇサリ〜、あの凪砂ってひとが言ってたことを気にしてるんだろうけど。敵のわけわかんないひとの言ったことより、これまで紡いできた俺たちの思い出のなかで……積み重ねてきた経験や会話を、信じてほしいよ」

一度だって、真緒くんのことを懐中電灯だとか、要らないだとか言ったことがない。信頼して、大好きで、互いに支え合ってきた仲間。絶対に遠ざかったりはしないし、したくない。

「ううん。そう言ってくれるのは嬉しいし、それだけで生まれてきて良かったってぐらいなんだけど。あの人……凪砂さんが言ったことも、一面の事実でもある」

むしろ今、容赦なく攻めてくる敵と出会えてよかった。それは私も、同じように思っていた。先伸ばしにできるような事柄じゃない。ずっと先の未来で突き刺されたら、取り返しがつかなかった。
でも、それって、まだ改善する点があって、まだまだ必死に戦わなくちゃいけなくて、

「俺、嬉しいんだ。だって、少年漫画みたいじゃん」

一生懸命になって、血みどろになって最前線で戦う。後ろから指示を出すのは、私たち『プロデューサー』のやること。

「必死でおまえらに食らいついて、足りないところは努力で埋める。死に物狂いで、輝いてみせるよ」
「真緒くん、」
「うん。お前の言った通り……懐中電灯じゃ本来ありえない熱量を、大爆発させて、おまえらと同じ星になる」

安全圏から飛び出すことは、簡単じゃない。苦しくて、痛くて、それでも後戻りなんか出来ない。でも、そんな星になりたいんだよね。『Trickstar』のみんなと、一緒になって、それで『すごい』って褒めてもらいたい。大人ぶって『偉いね』って言われるんじゃなくて、宇宙で煌めく星になりたい。

「すごく、良い顔してる。あはは、男の子だね。惚れちゃいそうだよ……♪」
「冗談はよせよ。こちとらテンション上がりまくってんだからな!」
「さっきは素敵なプロポーズしてくれたのに、真緒くんつれな……」

私の発言を遮るように、真緒くんが私の口を塞いだが、時すでに遅し。『Trickstar』やあんずちゃんの耳には入り込んでいた。

「プロポーズって、何?」
「あ、いや、みんなが考えているようなことはない!」
「『俺たちと』って言ったんだから、みんなにも話すべきじゃない?」
「あ〜……う〜……後で! 後でな! それよりライブはまだか? 俺待ちきれないんだけど!」
「はぐらかした〜! いいけどね、二人が仲直りしたんなら! ライブが終わったら教えてよサリ〜!」
「はいはい……」

舞台の方に向かっていった四人の背中を見送る。もういつでもライブが始められるように、私たちもそれぞれの配置につかなくてはならない。

(真緒くん……結局、言えなかったけど。君のことを特別視している自覚はあるんだよ)

本当に、単純な話。好奇の目に晒されていた私に、平然とした顔で話しかけてきた。君が声をかけなかったら、他の誰かがそうしていたのかもしれない。

それぐらい何だよって思われるかもしれないけど、変に思われるかもしれないけど、そうやって、当然のように真緒くんがした行為が、私には特別に見えた。

(普通にお互いの名前を名乗って、『お隣さんってことでよろしく』って。それが嬉しかった! そういう何でもないことに、恋い焦がれていた!)

私がどれほどつまらなくて寂れた学生生活を送っていたのか、気づかされたのだ。一人で作曲の海に漂って過ごすよりも。ずっと楽しくて、幸せで。

明日が来るのが、こんなに待ち遠しかったことなんてなかったよ。

(煽てて、誤魔化して、押し付けた。ぶつかり合うことを避けてた。嫌だったんだよ! 嫌われるのが怖かった!)

許しを請うべきなのは私の方なのに、頭を下げたのは君の方だった。狡かったよね。卑怯だった。残酷ですらあったよ。それでも私は、自分が傷ついたからって、生意気にも上から目線で。

(それなのに、君は『一緒に生きよう!』なんて言った。もう私に、『YES』以外の選択肢はなかった。『喜んで』って手を取った!)

元々、この人たちと生きていく覚悟は、【DDD】の時から出来ていたけど、言葉にしたことはなかったのだ。それを、相手の方から言われてしまった。不覚にも、泣いてしまいそうだった。

相思相愛ほど気持ちの良いことはない。そう思ってもいいんだよね。全部受け止めてくれるって言ったのは、君なんだから。

(あぁ、もうあんな遠くに……やる気満々だね、みんな)

舞台にかけ上がった四人は、その勢いのまま踊り始めた。しかし、『Adam』の様子がどこかおかしい。

(気づいたみたい、さすがというべきかな。元『fine』……)

そのまま引っ掛かってくれていた方が、こちらとしては有り難かったのだけれど。しかし、ここで躓くようならば、同世代最強などとも言われてはいないだろう。

(【オータムライブ】に集まる観客は、過去に『Adam』が活動して掴んだファンや、学園の身内だ。つまり、『Adam』の方を贔屓するはずなんだけど……)

宣伝や誘導なども巧みにこなしているであろうに、そんなお客さんの目は、今、『Trickstar』に集中している。みんなが、彼らの歌や踊りに夢中になっている。まるで、ずっと前から『Trickstar』のファンだったみたいに。

「氷鷹さんが宣伝してくれたおかげだね」

ひとの心を掴む術を、誑かす術を持っている北斗くんの両親の前では、呆気なく落ちる。
その上で、外からやってきた『Trickstar』の噂を聞いて、自分達も『特待生』になれるんじゃないかって夢を持って、憧れる。『特待生』じゃない人たちは自然と、『Trickstar』の舞台へと集まってくる。

「七種くんを挑発して、秀越の中であえて目立つように引っ掻き回して、狙いを私に向けるようにはしてきた」

事務所の威光が強い秀越学園じゃ、私たちみたいな力のないぽっと出のプロデューサーは潰される。でも、私は『あの連星』の娘だから。切り札として残される。

「君の行動は一切、疑われていないよあんずちゃん。ねぇ、意外と私、女優のセンスあるかも。スバルくんと北斗くんも騙せちゃった。え? 『私は認めてない』? ごめんごめん、許してよ親友……☆」

親友といえば許してあげるわけじゃない、とふてくされたあんずちゃんに苦笑いを浮かべる。でも、今日までの一週間は辛かったけど、楽しかったんだ。

「それだけでも、すごくうれしい。『共闘』してるって、実感出来た。毎晩、作戦会議した甲斐があったね」

もちろん、今日が最後なんかじゃない。むしろこれからだ。本番である『SS』には、着実に近づいてきている。こんなところで有頂天になっている場合ではないのだろう。『Adam』だって黙っているはずがない。

(……これから先は、君たち『Trickstar』の実力が試されるよ。全員魅了しちゃって、心の底からファンにしてあげてね)

そして、ここで本当のファンになれば、それが『SS』でも力になる。年末の『SS』でも、応援してくれるはず。リスクのない良い戦略だ。といっても、一人では成し得なかった結果。

普段の『Adam』の台本通り、凪砂さんが高圧的な、支配者のように振る舞えば、『特待生』ではない人たち。つまり、今『Trickstar』を見てくれている人たちに反発される。

でも、それに気づいてその台本は破棄したみたいだ。それで少し、スタートが出遅れたみたいだけれど。もう準備は済んだようで、改めて舞台に上がってきていた。『Trickstar』の向かい側にいるため、『Adam』のステージもよく見える。

「きっと、次……『SS』では、全力で潰される。蹂躙されたっておかしくない。殺す気でやってくる」

心臓めがけて容赦なく、撃ち抜かれる。あるいは、抱えている爆弾に火をつけられるかもしれない。

「突撃。侵略。制覇。あぁ、物騒だなぁ。これだから戦争は嫌いだよ」

七種くんの口にしていた三箇条を思い出す。戦争を起こして血塗られた未来に、何も残らないのに。


『♪〜♪〜♪』
「…………!」

何だ、今のは。

ぞわっと背筋に這い上がる何かを感じた。あれは、あの凪砂さんの姿は、紛れもなく──。

(明星さん……? いや、まさか、ね……)

そして、その瞬間に。マイク越しで、スバルくんが動揺したのが聞こえた。振り返れば、観客が、歌うことに集中しているはずの、『Trickstar』までもが気を取られていた。あのスバルくんでさえ、歌を止めてしまうほど。

(切り替わった。時間をかけて塗り替えていったのに、一発でひっくり返された)

さすがに今のは、すごいなって感心してる場合じゃない。聞いているこっちがこれだけ焦っているのだから、『Trickstar』はもっと動揺してる。

(ああもう、しょうがないなぁ。特別だからね! 持ち直してよ!)
(……! びっくりした! いきなり、曲調が変わった!? えっ、同じ曲なんだよなこれ!?)
「……おい、こんなの聞いてないぞ。誰か知ってたか?」
「ううん。でも、百瀬ちゃんが編曲したんだよね、たぶん……?」
「……あっ! そっか! 『百瀬に出来て、バリ〜に出来ないこと』! やっぱり曲のことだったんだね!」

思い出したようにぽんっと手を叩いたスバルくんは、こちらに向かってウィンクをする。それさえも、観客たちにはファンサービスにしか見えないのだろう。

「すごいすごい! 曲そのものは同じなのに、別の曲みたいだね? お客さんもまたこっち見てくれたよ〜? 思わず、鳥肌たっちゃった!」
「人の心を掴んで誑かす……ある意味じゃ、父さんと同じということだな、百瀬は」
「そこで残念そうな顔をするなよ……」
「あはは。でも感心してばかりじゃ、後で怒られちゃうよ。百瀬ちゃんのお望み通り、歌と踊りで返礼しないとね?」

ここからでは何を話しているのか分からないけれど、四人は笑顔でいるので特に問題はないと見た。むしろ先程より、踊りのキレもいいように思える。

「これだから病みつきになるんだよね! 本当に、虜になっちゃうよ! 見ててね百瀬! 最っ高にキラキラ輝いてみせるから……☆」
『♪〜♪〜♪』
(……スバルと北斗はもう、曲に入り込んじまったな。お前らほんと、百瀬の曲が大好きだよな〜? 俺も真も、例に漏れずだけどさ)

歌い出したスバルくんと北斗くんを横目に、真緒くんも踊り始める。

(やっぱすごい奴だよお前! 今ならその才能に嫉妬せず、自慢してやりたいって思える!)

すごいだろって声を張り上げて、全員に見せびらかしたい! 聞かせてやりたい! あの遠くにいる『Adam』にまで!

(即興にだって振り回されないでついていってやるよ! 女の子にリードされっぱなしだなんて、カッコ悪いもんな!)

(……本当に、良い顔。みんなに負けず劣らず、輝いてるよ、真緒くん)

【サマーライブ】の雪辱を晴らすため、かなり積極的な曲になってしまったのだが、お気に召してくれたようで何より。むしろ、観客はこっちの方がお好みのようだ。

(君たちのキラキラ輝く笑顔を、歌を、踊りを、もっとステージでみせて。もはや願いが、誓いになってきたね)

でも、この瞬間が堪らなく好きだ。
まさに、一心同体になっているような、そんな心地になる。

(終わったら、勝利の乾杯をしよう! 反省会なんて辛気くさいものじゃなくてさ!)

お互いを称賛しよう。これは、全員が力を合わせて得られた勝利、まさに『リベンジ』だった。

だから、生きて帰ろうね。夢ノ咲に。



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