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いつか憧れた救出劇

「ガミさ〜ん、こっちにこないで!ぶつかるぶつかるっ!?」

もちろん空中で避けるなんて芸当、ギターを抱えた大神君が出来るはずもない。
ここは生徒会からも大神君からも逃げる方が一石二鳥だろうと判断した氷鷹君は、ここから離れようとしたが、スバルくんは「大神君は自分の飼っている犬のマブダチだから見捨てられない」と言って大神君を受け止めようとした。ぶっちゃけ無謀だし、普通なら怪我は避けられない。
やはり離れた方がいいということをスバルくんに伝えようとしたときにはもう遅く、スバルくんは間抜けな声を発し、大神君に顔面を踏みつけられていた。

「何てことするんだ大神。顔はアイドルの命だぞ、あと明星の唯一の長所だ」
「そうかもしれないけど氷鷹君もなかなかひどいよ。スバルくん他にも長所あるでしょ、きっと」

ホッケ〜もガミさんも百瀬もひどい!とスバルくんは涙目になりながら、踏みつけられた顔を押さえていた。大神君はというと、スバルくんだけでは態勢を立て直すことが出来なかったらしい。不自然に宙を舞っていた。

「ほら、大丈夫?スバルくん」
「うぅっ…ありがとう百瀬〜」

スバルくんに手を伸ばすと、スバルくんはへらっと笑ってその手を取った。
よくわからないが生徒会がいるとまずいみたいだし、もう大人しく負けを認めてリングアウトしたほうがいいのでは、と思っていると、大神君と目があってしまう。

「おい百瀬!テメーそこを動くなよ、歯ぁ食いしばれ!」
「っおい、大神!」
「は!? ちょ、ちょっと待っ……!」

こちらに向かって飛んできた大神君に、私は混乱してその場から動けずにいると、誰かが私の体を勢いよく突き飛ばした。そのまま倒れ込みそうになったところを、ギリギリで遊木君が受け止めてくれる。

「だ、大丈夫百瀬ちゃん!?ってごめん!軽々しく女の子の体に触るなんて…!」
「え?だ、大丈夫だよ、ありがとう。…でも今誰かに突き飛ばされたような…」

元いた場所に視線を向けると、そこには大神君に押し倒された状態のあんずちゃんが倒れていた。どうやら私を突き飛ばしたのは彼女のようで、衝撃により彼女は目を回して気を失っていた。あんずちゃんの上に正座する形で乗っかっている大神くんも、私じゃないことに気がついたらしい。その光景に、私の顔は真っ青になっていく。

「あ、ああ、あんずちゃん…!」
「クソ女じゃねぇがいいクッションになったな。おい女、俺をステージまで運べ!」
「気絶してるんだから無茶言わないで大神くん!とにかくあんずちゃんから退いて。…な、撫でるよ!」
「え、その脅しって効くの?」

遊木君が不思議そうに問いかけてきたが、大神君は撫でられるのが相当嫌みたいで、私をキッと睨みつけて唸りながら威嚇した。

「生意気言ってんじゃねぇぞ女のくせに!上等だ、かかってこい!まずはテメーからブッ倒してやる…!」
「仲がいいのは構わんが…連星、無闇に挑発するな。それと敵を見誤るな大神。俺たちの、ほんとうの敵がお出ましだぞ?」
「敵…?」
「全員静粛に!生徒会執行部である!」

氷鷹君にどういう意味だと尋ねようとしたその時、今度は先ほどの男の子とは違い、見るからに上級生らしき人が姿を現し、そう声を張り上げた。
その声に、言葉に観客たちは動揺する。全員が一斉に生徒会の人達から逃れようと動き出したため、私の体はその波に呑まれ、スバルくんたちと離れていく。
当然周りには男の人しか居らず、ぶつかってしまえば呆気なく倒れてしまった。

「いたた…っうわ!?」
「しっ……静かにしろ」

打ちつけた腰をさすっていると、誰かに腕を掴まれ立たされる。大声を出そうとした瞬間、口を塞がれてしまった。もしかして、生徒会の人に捕まってしまったのだろうか、と恐る恐る後ろを振り向く。

「!(衣更君…!)」
「悪い。スバルが「百瀬がいない!」って騒ぐもんだから…。とにかく、すぐにここから出るぞ。走れるか?」

衣更君の問いかけに私は何度も頷く。それを確認した彼は、私の手を取ってグラウンドに向かって走り出した。私に合わせてくれているのか、引っ張られているような感覚はしない。
どんどん遠ざかっていく喧騒を尻目に、私達はスバルくんたちの待つグラウンドにたどり着いた。
私達の姿を見たスバルくんは、心配そうな顔から一転、ぱあっと笑顔になり、駆け出したかと思えば勢いよく私に突進してきた。支えきれなかった私は地面に倒れ込む。

「よかった無事で〜!!離れ離れになったときは、どうしようかと思ったよ!」
「う、うん…衣更君のおかげでなんとか抜け出せたよ…スバルくん重い……」
「走ってきたばっかの奴に乗っかったら息出来ないぞ、スバル」
「あっ、サリ〜♪ありがとねっ、俺たちをこっそり逃がしてくれて!」

えっ、サリ〜って衣更君のことだったの。
そのこと驚きを隠せないがスバルくんが退いてくれないせいで声が出なかった。魔法使いみたいだね、と盛り上がる皆に、衣更君は痺れを切らしたように不満そうな声を上げる。

「つうか、みょうな渾名つけんなよ。俺はちょっと器用なだけ。ていうか、あぁもう!頼むから俺を巻き込むなっつってんだろ!」

頭を抱えてこちらを睨みつけてきた衣更君に、スバルくんは体を起こす。少しだけ解放された私も、同じように体を起こして衣更君を見た。

「面倒ごとはご免なのに!お前らと関わるといつもこうだっ、ちくしょう!泥沼だよ、お前らなんかと『ユニット』組むんじゃなかった!」
「え?衣更君、『Trickstar』だったの?」

私の言葉にスバルくんは「知らなかったの?」と不思議そうに私を見た。そんなの初耳だ。そういえば今までユニットについては全くのノータッチだった。スバルくんは同じ部活と聞いていたけど、同じユニットとは聞いていない。
ここ数日間一緒だったというのにユニットすら知らなかったというのは、少し残念だ。

それから、生徒会からの包囲から連れ出して助けてくれた衣更君に氷鷹君が礼を言った。

「なんでお前ら、あんなところにいたの?生徒会に叛逆する準備が整うまでは、大人しくしとけって言ったろ?」
(生徒会に叛逆?)

先ほどからの会話を聞く限りでは、まるで生徒会は悪者のようにしか聞こえない。しかも叛逆とまできた。一体、この学院での生徒会は、どんな存在なんだろう。

「それにしても、北斗が焦るなんて珍しいな」
「転校生が来た。俺達のクラスにも」
「ああ。こいつと同じ『プロデューサー』な。もしかして、北斗がおんぶしてる子?」

北斗の背には失神してしまったあんずちゃん。あれほどの騒動の中でも目を覚まさなかったようだ。あとで大神君に文句を言っておこう。

「気絶してしまうのも、仕方ない。女の子だからな。彼女を気遣えなかった。その上連星まで置いていってしまって……これは、俺の責任だ」
「あんま背負いこむなよ、北斗。その転校生の事はともかく、連星とはぐれたのは仕様がない。こいつ抜けてるから」
「うっ…で、でも氷鷹君。ほんとうに気にしなくていいからね。結果的に助かったんだから」

それもこれも衣更君のおかげだが。とにかく氷鷹君を励まそうと必死に言葉を並べると、それが伝わったのか氷鷹君は少しだけ笑みを浮かべた。そのことにホッとし、胸をなで下ろす。

「おっと、あんまり席を外してると怪しまれるな……」
「俺はついでに、転校生を保健室に運ぼう。もうすぐ昼休みが終わる。明星と遊木は先に教室に戻っていてくれ。それから連星」
「うん?」
「話がある。少し、付き合ってくれないか?」

真剣みを帯びた氷鷹君の声色に、私は無意識のうちに、頷いていた。そんな氷鷹君に、衣更君は何か言いたげにしていたけれど、早く戻らなければとステージの方に戻っていった。



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