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全てはあなたたちの為に

一時は、どうなることかと思ったが、結果として、『Trickstar』は見事、緒戦を突破した。
まあ、『Knights』が自爆したようなものなのだが、勝利は勝利だ。私たちは、なんとか生き残っている。

「真くん久しぶり〜!本当によかった!大丈夫?じゃないよね。ごめん、もっと早く助けられていたら…!」
「わわっ!だ、大丈夫だよ僕は!でも、その、そんな熱烈なハグされるとさすがに照れちゃうんだけど!?」

勝利した安堵と帰ってきてくれた歓喜のあまり、真くんに飛びついてしまった。わたわたと行き場のない手を泳がせる真くんに、ごめんごめんと軽く謝って離れる。

「わ〜い!俺もハグする!ぎゅうぎゅうっ☆」
「あ、明星くんちょっと力加減が…!」
「百瀬ともぎゅうぎゅうっ…。……?」
「えっと……スバルくん?どうかした?」

一瞬だけ抱きしめられたかと思えば、すぐに離れてしまった。何やら真剣な眼差しでこちらをじっと見つめてくるスバルくんに、何だか怖くなって問いかけると、彼は肩からその手を動かして。

私の胸元を、ペタペタと触りだした。

「!?!?あ、ああああ明星くん!何して…!?」
「…やっぱり、ない!ぺったんこだ!」

流石にぎょっとして固まりかけたが、どうやら彼は、胸がなくなっていることに違和感を感じていたらしい。ステージで踊るからには、『Trickstar』の衣装ではもしかしたら胸は目立つかもしれないと思い、簡易的に胸を潰していたのだ。純粋に疑問に思っていたんだろう。
そのことを伝えると、スバルくんは納得したように頷いた。

「なるほどね〜!おかしいなって思ってたんだ。だって百瀬、抱き締めた感じだと結構胸おっきめ…あ痛っ!?」
「変態!すけべ!スバルくんでもその発言は許せないよ!セクハラだからね!」
「う〜…今の攻撃容赦なかった〜…!」
「当たり前だろ!いやでも、ちょっと羨ま…痛っ、いたたた!」

スバルくんの発言を遮るために彼の背中をぽかぽかと殴る。更に隣でぼやいた真緒くんの後ろ髪を引っ張ってやった。
そんな私たちの姿を、真くんとあんずちゃんが微笑ましそうに眺めている。

「あはは…みんな相変わらずだね。なんかちょっと安心したよ…♪」

ぎゃーぎゃー騒ぐ私たちに、真くんがぽつりとそう独り言をこぼすと、誰かが私の肩を叩いた。
振り返ってみると、「はぁ〜い♪」と笑顔で手を振る嵐ちゃん。その後ろにはグロッキーになっている凛月がいた。彼らの姿に、私は驚き目を丸くする。

「楽しそうなとこ悪いけど、ちょっとこの子借りるわね〜」
「おいこら!今度は百瀬狙いか!手出したら許さないぞ!」
「ま、待ってスバルくん。嵐ちゃんはそんなことしないから大丈夫だよ…きっと」
「あらあら、随分信用してくれちゃって…。もちろん、この子を…百瀬ちゃんを傷つけるような真似はしないわ。友達だもの」
「……やめとけスバル。一応嵐と百瀬の仲は、俺が保証する」

威嚇するスバルくんを真緒くんが宥めて、私は嵐ちゃんたちに連れられて移動する。近くで話したら、たぶんスバルくんは落ち着かないだろうし。

「全く、あんたがステージに上がってくるなんて想定外よ。すっかり騙されちゃったわ」
「そうせざるを得なかったから。『Trickstar』を【DDD】で優勝させるためにはね」
「そう、そのことなんだけど。本当に気をつけなさい。アタシ、椚先生に『『Trickstar』は早めに潰しておけ』って言われてたから」
「うわっ、なにそれ。教師が言うこと〜?」

厳しい先生だということは理解していたけれど、まさかそんなことを吹き込まれていたとは。

「……あの、鳴上先輩」
「あら、どうかしたの司ちゃん?」
「その方は…?声を聞く限り、まるで女性…」
「そりゃそうよ。百瀬ちゃん正真正銘の女の子だもの。プロデュース科の転校生よ」
「ス〜ちゃんまじで気づいてなかったんだ…」
「初めまして。2年B組プロデュース科の、連星百瀬です〜」

凛月や嵐ちゃんにはもうバレているし、これ以上隠すつもりもないので軽く挨拶する。そんな私に、その子はひどく困惑して、次なる言葉を探していた。

「え?えっと…わ、私は一年B組の朱桜司と申します」
「うん、朱桜くんね、よろしく」
「な、なぜこの方はこんなに悠長なのですか!?」
「それたぶん舐められてるからだよス〜ちゃん。ほんとムカつくよねぇ…」
「違うよ、後輩には優しくしたいの」

誤解を招く言い方はよしてほしい。比較的後輩の子とは仲良くしていたいのだ。戦争なんてほとんどしらないような子ばかりのはずなのだ、大事にしなくてはならない。

「そ、そもそもProducerがIdolとしてStageに立つなんて…!」
「ルール違反かもしれないけど、こっちは監禁なんて犯罪やっちゃってるのよ。アタシたちが何言っても聞かないわ、きっと」
「………。百瀬さん、と仰いましたか」
「う、うん?」

やけに流暢な英語で話していたため、処理が追いつかないところで名前を呼ばれ、反応する。少し言いにくそうに口をもごもごさせていた朱桜くんは、顔を上げたかと思えば私の手を包み込むように握った。

「あなたのperformance、未熟者ながら感激致しました」
「……はい?」
「あのような踊りをする方、『Knights』には居ません。私自身驚くほどに…あなたに目を惹かれ、少し足元が疎かになってしまうほどです」
「…………」
「とはいえ、瀬名先輩を挑発していたのは、流石に肝が冷えましたが」

まさか、そんなに褒められるとは思ってもみなくて固まっていると、最後に付け加えられた言葉に思わず苦笑い。見られていたのか。

「しかし、当然といえば当然ですね。あなた方のお仲間を傷つけてしまった。どうか無礼をお許しください」
「……それは、朱桜くんのせいじゃないよ。それに、真くんは無事戻ってきたわけだし、あんまり気に病まないで?」

謝られるべきなのは私ではなく真くんで、謝るべきなのも朱桜くんじゃなくて、瀬名先輩だ。
申しわけなさそうな表情の朱桜くんに、私はなるべく安心させるように笑って見せた。そんな私を見て、朱桜くんはほっと安堵したように息をつく。

「ともかく、アタシからちゃんと忠告はしといたわよ。泉ちゃんには、アタシから言っとくわ」
「うん、ありがとう嵐ちゃん。…でもいいの?『Knights』にとって、『Trickstar』は敵でしょ?」
「そんな寂しそうな顔して聞くんじゃないわよ。ユニットが敵対してても、あんたとアタシは友達なんだから。これからも友好的でいたいのよ」
「……うん。私も仲良くしたいな。もちろん凛月と朱桜くんもね」
「はあ?俺の言うこと一切聞かなかったくせに生意気〜…」

そう言いつつも、緒戦が始まる前よりは機嫌は直っているみたいだった。そのことに安心しながら、『Knights』の面々と一度別れ、私は『Trickstar』の元へと戻ることにした。

 *

『Trickstar』の衣装を着たまま、院内を駆ける。
先ほど千秋先輩から、『fine』と対戦したという連絡を受けたため、『流星隊』のみんなのもとへ向かっているのだ。

「あ、鉄虎くん、翠くん、忍くん!」
「! 百瀬殿〜!」

見かけた『流星隊』の一年生たちの名前を呼びながら駆け寄ると、3人は振り返って笑顔で迎えてくれた。

「お疲れ様!緒戦どうだった…?」
「どうもこうもないっスよ…完全にボロ負けです」
「でも、取りあえず俺たちの役目は果たせたと思うっス!」
「そっか。でもまさか、緒戦で『fine』と戦うって聞いたときは心臓止まるかと思ったよ」
「それもこれも、隊長殿の作戦でござる。深海殿も百瀬殿の名前を出したら、一発で来てくれたでござるよ!」

『流星隊』の一年生とは、舞台経験が浅いという点で共感したため、特訓の時も一緒に頑張れたのだ。特に忍くんなんて人見知りで、最初は避けられがちだったのに、今ではこうして普通に会話が出来るほど仲良くなれた。

「なんで私の名前…?私、深海先輩と話したの、一回ぐらいしかないけど」
「さあ、それについては本人しか分からないっス」
「…先輩たちの方は、勝てたんスか?」
「あ、うん!苦戦したけど、真くんと真緒くんも戻ってきてくれて、なんとか勝ち進めたよ!今私とあんずちゃんで、交代でステージに立ってる感じ」

本当は二人が帰ってきたいま、私がユニット衣装を着ている意味はあまりないのだが、まだ少し、この衣装を見せびらかしたい気持ちがある。
きっともう、二度と着る機会はないから。もちろんそんな機会、ないほうがいいんだけど。

「あとで『流星隊』のライブ映像、確認しておくね」
「観なくていいっスよ別に。むしろ観ないでほしい」
「まあまあ、そう言わずに。慣れないことして疲れたでしょ。ゆっくり休んでね」

3人と別れを告げた私は、取りあえず『Trickstar』の許へ戻ろうと踵を返そうとした。
しかし、後方から誰かの呼び声がして、ゆっくり振り返る。

「百瀬さ〜ん!」
「ひなたくんとゆうたくん?えっ、どうしたの?」
「話は後!とりあえず逃げろ〜!」
「ええ!?」

そこには『2wink』の衣装を着た2人がこちらに向かって走ってきていた。何事だと声をかけると、二人はスピードを緩めることなく、私の手を引っ張って駆け出した。
背後から、椚先生らしき人物の怒声が聞こえるのは気のせい、ではないみたいだ。

「な、なにやらかしたの2人とも?」
「ひとまず、『Trickstar』のおにーさんたちのところに行こう!全員に纏めて説明しちゃう!」
「う、うん?」

ひなたくんの言葉にとりあえず頷いて、二人に置いて行かれないよう必死に足を動かす。
『Trickstar』は今のステージが終わっていれば、小休止に入っているはずだから、屋台の方にいるかもしれない。そう二人に伝えながら屋台の方に向かうと、案の定四人は屋台のたこ焼きやらホットドックやらを口にしていた。

「おうおう!余裕ですな、勝ち組はっ?」

そんな彼らの正面に立ち、二人は全く同じ行動を取る。腕組みをし、ふんぞり返っていた二人は、露骨に演技っぽく、顔を寄せてひそひそ話を始める。

「聞きました、奥さま?あのひとたち調子こいてますわね〜!」
「奥さまの言うとおりザマスわね〜、失礼しちゃう!」
「何だ唐突に。ていうか、何だその口調は。おまえら、そんなキャラだったか?」
「お〜、『2wink』!百瀬もおかえり!元気〜?」

呆気にとられる真緒くんの横で、スバルくんが嬉しそうに挨拶して、抱擁を求めるように両手を広げる。大歓迎なみんなに、『2wink』の二人は笑顔になって近づいた。

「元気なわけあるかっ、これでも落ち込んでるんだぞ!慰めてほしい!」
「元気は元気ですよ〜、俺たち二回戦で負けたんで。体力、有り余ってます〜♪」
「どっちだよ。おまえらそんな早くから敗退してたのか、可哀想に。ほれ、たこ焼きをあげよう♪」
「むき〜!そんなもんで誤魔化されないぞっ、ちいさな子供じゃないんだからな!御馳走様です……☆」
「食べるのは食べるんだね、アニキ」

てきとうに二人をあやす真緒くんに、ひなたくんは喜んでたこ焼きに食いついた。そういえば、私もずっと走り回ったりなんだりしてて、何も口にしていない。
そんな私に気がついたのか、ひなたくんはたこ焼きを一つ、こちらに差し出した。

「百瀬さんもお腹空いてるでしょ?はいっ、あ〜ん…♪」
「ひ、人前じゃ恥ずかしいんだけど…まあいっか、いただきます☆」
「うんうん、倒れられたら困るんだからね。でもさ〜?あんたたちマジで俺たちに感謝しなよ〜、もぐもぐっ♪」

ひなたくんの言葉に、みんなは不思議そうに視線を向ける。たこ焼きを食べる手が止まらないひなたくんの代わりに、ゆうたくんが説明をしてくれる。

「ちょっと朔間先輩に頼まれましてね、『最終的な勝利』のために俺たち『2wink』は捨て石になったんですよ」
「えっ、どういうこと?」
「『流星隊』が、指針を決めた感じがしますね。とにかく俺たちは『fine』の戦力を削いで、消耗させることに腐心したんです」

舞台上を跳ね回ったり、攪乱したり演奏を邪魔したり、と。体力が弱点である会長さんを、無駄に疲れさせているみたいだ。

「おかげで、しばらくドリフェス出場停止処分になったけどね……。アニキ、はしゃぎすぎ。生徒会長に飛びついたりしたでしょ、ペナルティも仕方ないよね?」
「げっ、あの会長さんに飛びついたの?怖いものしらずだね〜、おっかない。だから椚先生に怒られてたの?」
「いや、おまえも会長につかみかかってただろ。正直あのとき心臓止まるかと…」
「あの時はほんと怒りで我を忘れてたんです〜…。普段ならそんなことしないよ」

ちょっといじけるようにして真緒くんに言うと、ひなたくんが分かるよその気持ち、と同情するように寄り添って、腕を組んできた。すり寄るその様はさながら猫のよう。

「ああもう、アニキさっきから百瀬さんにくっつきすぎ!」
「なぁにゆうたくん、ヤキモチ?大丈夫だよっ、俺にとって一番はいつまでもゆうたくんだから…☆」
「そんなことはどうでもいい。早く離れて」
「うっわ辛辣!お兄ちゃん泣いちゃうよ?」

──ともかく、『2wink』以外にも朔間先輩の息のかかったユニットが、どんどん会長さんに挑んで『fine』を消耗させているらしい。
そして、次の準決勝では、朔間先輩が自ら『fine』に挑むようだ。今回は一般客も招いているから女性の観客もいるので、羽風先輩もサボらず参戦するだろう。

「でも何で、そんな手間のかかったことをするの?」
「そんな質問するなんて、場合によってはブン殴りますよ。天然だなぁ……。まあ先日の『B1』で恥をかかされた怨み、っていうのもあるんでしょうけど」

みんながみんな、『Trickstar』に期待しているのだ。『流星隊』も『UNDEAD』も『2wink』も。
『紅月』を倒して、革命の風を吹かせた『Trickstar』に。応援してくれているんだ、時計の止まった夢ノ咲学院の歴史を、揺り動かした『Trickstar』に。

「……そっか。そうなんだ。俺たちがやってきたことは、無駄じゃなかったんだな。ちゃんと、響いてたんだ。みんなの、心に」
「なおさら、負けられない理由ができちまったな」
「嬉しいよね!僕たち、孤立無援じゃなかったんだっ♪」

可愛い救い主たちに、みんなも感激しているようだった。思いの外真面目に受け取られて、逆に困ったようにゆうたくんがモジモジしている。
とはいえ、腐っても『fine』は学院最強。勝てる保証なんてない。『良い勝負』では、満足なんて出来ないのだ。

「俺たちの分まで、舞台で輝いてください。それだけ、伝えたかったんです」

これから2人は、反省文を書くために椚先生のもとへ戻るようだ。一応ちゃんと然るべき罰は受けるつもりらしい。椚先生のお説教は長いので、ご愁傷様としか言えないのだが。

「ありがとう2人とも。何から何まで」
「お礼は百瀬さんからのちゅ〜でいいよ〜♪」
「ア〜ニ〜キ〜…?」
「あはは、冗談、冗談だって!ゆうたくん目がマジだよ!?」
「はあ…。すみません百瀬さん。んじゃあ、失礼しますね、準決勝、がんばってください♪」
「負けたら承知しないよっ、反省室をこっそり抜け出して応援に行くからね〜♪」
「おう。俺たち『Trickstar』が、最高のステージを見せてやるっ☆」

2人に元気よく答えつつ、スバルくんが身を震わせて歓喜の声をあげた。2人のおかげで、あらためて覚悟も決まったところだろう。
優しく、頼もしい味方がたくさんいるということを、知ることが出来たのだ。

「それにしても、百瀬ちゃん『2wink』の二人と仲良いんだね〜?」
「まあ、【DDD】のための踊りの特訓に付き合ってもらったり、一緒に帰ったりしてたし…。今は一番交流のある後輩だね」
「え〜…なんか百瀬が取られた気分…」
「取られたって…。あんずちゃんまで同意しないでよ。それもこれも、『Trickstar』のためなんだからね?」

全て『Trickstar』を勝利に導くためにしたことだ。もちろん、仲良くさせてもらっているのはありがたい話だし、嬉しいことだけど。

「今は『Trickstar』のことしか頭にないから」
「もうっ、百瀬ってほんと俺たちのこと大好きだよね!」

当然だ。そうでなくちゃ、ここまでやってこれていない。
歓喜の声を上げたスバルくんが、たこ焼きを食べていた私に思い切り抱きついてくる。衣装が汚れてはいけないと、とっさにたこ焼きを避けると、それを見たあんずちゃんがたこ焼きを受け取ってテーブルの上に置き、何を思ったのかスバルくんと一緒になってぎゅうっと抱きしめてきた。
そう、きっとみんな、お互いが大事で、大好きなんだ。
私は2人の好意を受け止めるように、彼らの背中を撫でて、力の限り抱きしめ返した。




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