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あなたという奇跡を守らせて

「それにしても、よくステージに上がろうだなんて思いましたね。百瀬さんもあんずさんも」

今日1日練習に付き合ってくれた2人にお礼をしたくて、お腹を空かせた2人にラーメンを奢ることにした。大食らいの2人が遠慮なく食べ続けているのを眺めていると、ゆうたくんが顔を上げてそう問いかけてきた。

「うん、もう手段は選んでられないし…」
「百瀬さんあんまり目立つの好きじゃないって言ってたから驚いたよ〜」
「あはは…本番になったら逃げ出しちゃいそうだけどね」
「ん〜…あ!そうだ、だったらいい方法があるよ!」

ほんと!?とひなたくんの方に顔を向けると、ひなたくんは箸を置いてにやりと笑みを浮かべ、その両腕で私の体を包みこんだ。理解するのに数秒かかり、漸く把握して身を強ばらせる。
それを反対側から見ていたゆうたくんも、驚きのあまり箸を落としてしまっていた。

「ちょっ……アニキ!?」
「ほら〜ゆうたくんもそっちからぎゅってして!百瀬さんの体包み込んで〜」
「なっ…そんなことできるわけ…!!」
「いいから早く〜」

ひなたくんが一体何を考えてこの方法に至ったのかわからない。ひなたくんの腕の中で混乱していると、さすがにやらないだろうと思っていたゆうたくんがこちらに身を寄せた。

「……百瀬さん、失礼します」
「えっ」

一言そう断りをいれてから、ゆうたくんは恐る恐るひなたくんとは逆方向からぎゅっと抱きしめてきた。さすがにアイドル2人から同時に抱き締められるなんて想像もしてなかった私は顔を俯かせる。
段々熱くなってくる体の熱の行き場が無くて、不思議に思ったのかひなたくんが顔をのぞき込んできた。

「あれ?百瀬さん照れてる?可愛いなぁ、よしよし」
「と、年上をからかうもんじゃないよ!ていうかこれなに!?」

正直照れるどころではないのだけど、ひなたくんは面白がっているのか、よしよしと子供にするような感じで私の頭を撫でてきた。
2人から解放されそう声を上げると、ひなたくんはにんまりと笑みを浮かべる。

「スキンシップ。別にハグじゃなくてもいいけど、これやれば緊張しなくなると思うよ。特に百瀬さんみたいな単純な人は。ね?」
「……ひなたくん」
「えっ、嘘怒っちゃった?あいたたたっ。百瀬さん引っ張らないで〜」

失礼なことを言われた気がしたので、彼の頬をこれでもかと言うくらい思い切り引っ張った。くるっと振り返りゆうたくんを見ると、ゆうたくんはビクッと肩を揺らす。

「もうっ、ゆうたくんもひなたくんのイタズラに乗らないでよ!びっくりしたじゃん!」
「あ、あはは。すみません。まさかそんな驚くとは…でもアイドルにハグされるなんて、こんな機会滅多にないですよ?」
「どうしてゆうたくんが開き直るの!」

夢ノ咲のアイドルはちょっとスキンシップ激しすぎやないだろうか。さすがにちょっと、身が持たなそうな気がする。これにいつか、慣れてしまう日が来るのだろうか。

「ふう、ご馳走様でした〜!」
「は〜い。今日はお疲れ様。遅くまで付き合わせてごめんね?」
「いいんですよ。百瀬さんのお願いですし。代わりに、ステージでヘタな踊りしたら承知しませんけど♪」
「あはは、善処します。それで、2人のお家はどっち?送ってくよ」

私の言葉に、2人はきょとんとして顔を見合わせた。その反応に首を傾げると、2人から呆れたようなため息が漏れる。

「あのさあ百瀬さん。たしかにあんたの方が年上だけど、女の子なんだから。ふつー送るのは俺らの方でしょ〜?」
「別に俺たちは2人だからいいけど、送ったら百瀬さん一人になっちゃうじゃないですか。俺たちが送りますよ」
「あ。あ〜…そっか。ごめん。女の子扱いにあんまり慣れてないんだよね」

それに、女の子だから〜ってちやほやされるのも、なんか違う気がするし。そうなるくらいなら、女の子扱いなんてされない方が気が楽なんだけど。
そう思っていると、ひなたくんとゆうたくんは私の手を繋いで歩き出した。

「百瀬さん。あんた、嫌がらせ受けたんでしょ?」
「…!」
「朔間先輩が言ってましたよ。先輩が色々根回ししてくれたおかげで、おさまってるとは思いますけど」
「…そう、なんだ。ごめん、迷惑かけてばっかだね」
「そんなの、今更すぎます。むしろ「もう大丈夫だから、構わないで」って突っぱねられるほうが寂しいですし、気が気でないですよ」

2人の間を歩きながら、黙ってその言葉に耳を傾ける。申し訳なさでいっぱいなのに、みんなはそんな顔しないでって、笑うんだ。

「明星先輩たちに、負担はかけたくない…。そう思ったあなたは、打ち明けられなかったんでしょう?」
「だから俺たちが代わりに、あんたを守ってあげる。どんな悪意からも、助けてあげる」
「あなたが倒れちゃったら、革命は起こせない。武器職人がいなくちゃ、反逆なんて出来ません」

『S1』の時も、緊張して震えの止まらない私に、2人はこうして手を握って、優しい言葉をかけてくれた。2人に大したことなんてしてあげられないのに、それでも笑って元気づけようとしてくれてる。

「だから笑ってよ、百瀬さん。先輩たちだけじゃない。俺たちもね、あんたの笑った顔が好きなんだから」

情けない先輩で、ごめんね。ありがとう。
出来るだけ、震えないように絞り出した言葉に、ひなたくんとゆうたくんは、困ったように眉を下げて、ぎゅっと握る手に力を込めた。




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