×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

どうか、全てに幸福を

「すごい、すごいです〜!明星先輩、誰よりも輝いてます〜っ♪」
「そっちもすごいけど、うちの北斗先輩もすごいって!難しい曲調の歌を完璧にこなしてるっ、完璧だ!北斗先輩かっこいい〜☆」

感極まって涙ぐむあんずちゃんの横で、しののんがすでに滂沱と泣きじゃくっている。私の横では真白くんが、興奮のあまり頬を両手で握りしめるようにして全身を震わせ、絶叫していた。
難しい曲調を氷鷹くんのパートに回したのは私だが、ここまで完璧にこなしてくれるとは思っていなかったので、正直私も興奮で熱が収まらない。

しののんと真白くんは感情の捌け口を求めているのか、隣にいる私とあんずちゃんに密着し抱きついてきた。さらにすごい力で振り回され、ああ、男の子なんだなぁ、と感心する。

「もぐもぐ。おまえら、転校生のね〜ちゃんたちに抱きつくなよ。2人とも窒息しちゃうぜ」

先ほどまでは無邪気にはしゃいでいた天満くんだけが少し冷静で、呆れたように私たちを後部座席から眺めている。1人席が離れているから、気持ちを共有できないのだろう。こっちへおいで、と手招きすると、なぜかポップコーンを手渡された。

「食べてる場合か〜!?ていうか、うるさい!いま集中して見てるんだからっ、堪能してるんだから!」
「そうですよ光くん!うあぁん、でも感動の涙で前が見えません〜!」
「おおう。創ちゃんも友ちゃんも、人が変わったかのようだぜ……。オレがいちばん落ち着いてるって、こんなの初めてだぜ?」

しかし、異様なテンションの彼らに対し、冷静だった彼もライブを楽しむことにしたのか、赤ちゃんのように笑う。先日の『S2』の痛みも苦しみも何かも塗りつぶすような、明るい声援を『Trickstar』に送った。

「がんばれがんばれっ、『Trickstar』のに〜ちゃんたち!最高に輝いてるぜ……☆」
「ありがとう!声援、届いたよ!おまえは相変わらず、だぜだぜ喧しいな〜?でも元気が出るよ!ありがとう、だぜっ♪」
「オレの『だぜ』をとるな〜っ!でも、応援が届いて嬉しいぜっ☆」

天満くんの声援に応えたスバルくんは、彼の真似をするうに手を挙げ飛び跳ねる。自分のパートではないので、過剰に動きすぎるのはまずいのだけれど、彼は的確に動いて、邪魔にならないようにしている。
まるで、前々から練習していたかのような動きだが、どれもこれもアドリブだ。これを天性の才能と言わず、なんというのだろう。
その姿に思わず見惚れ、呆然としてしまう。紛れもなく、この講堂内の、このライブを見ている人たちを魅了する、アイドルになっている。
笑うことすら忘れてしまっている私に気づいたのか、スバルくんはこそっと囁くように、口元を動かした。

「楽しんでる〜?きみの笑顔、もっともっと見せてよっ☆」

きみの笑った顔が、一番好きなんだ!と、まるで愛の告白をするかのような、いや、私も真緒くんに同じことを言ったけれど。
華のある笑顔で、誰もが惚れ込む素敵な声で、囁く。
そんな彼に応えたくて、私は満面の笑みを浮かべて、サイリウムを振った。

(まるで、この時この瞬間に、あなたと笑い合うために生まれてきたんだって思えるほどだよ)

私もみんなに負けず劣らず、興奮しているということだ。今にも立ち上がって、一緒に踊り出したいくらい。もちろん、『Trickstar』の邪魔はしたくないから、それは控えるが。

(スバルくんだけじゃない。あはは、鉄仮面みたいだった氷鷹くんも、スバルくんみたいな笑顔だ)

特訓の成果がしっかりと出てきている。ガチガチだった彼も、ライブが楽しくて緊張なんてものはどこかに捨てていったのだろう。

(真緒くんも、ああ、最っ高に素敵な笑顔!キレのあるダンス、得意技のブレイクダンス〜なんていって披露してたっけ…。同じクラスだからどちらかというと、『高校生』としての真緒くんが私の中では印象深かったんだけど、負けず劣らずの『アイドル』だ)

スバルくん、氷鷹くん、真緒くんのソロが終わって、最後のソロは真くん。地盤は固めに固めている。どうやら真くんは、本番には強いみたいで、今は落ち着いてるみたいだ。

「これは馬鹿な僕でも歌える曲です、みんなもすぐに覚えられるよ!だから、声をそろえて一緒に歌ってね!」

真くんの曲は、真っ先に思いついた。なぜって、彼の好みは本人から直接聞いたし、すすめられた曲も私の好みの曲だったからだ。
好きこそものの上手なれ。真くんが覚えやすかったのは、そういうことだ。

私が丹精込めて作った曲を、一人一人を想って書いた名曲を、全員がその力強い歌声で観客に届けてくれている。幸せすぎて、死んでしまいそう。

(作曲を続けていてよかった。こうして、求められて、歌ってくれて、誰かを笑顔に出来ている……)

私1人じゃ不可能だった。それを、大好きな人たちが可能にしてくれた。
感謝してもしつくせないけど、私を見つけて、仲間に入れてくれて、本当に、嬉しかった。

(……これが終わったら、ちゃんと謝ろう。全部話そう。嘘じゃないことを、伝えよう)

だからそれまでは、私も観客のひとりとして、このライブを全力で楽しもう。
隣で泣きじゃくるあんずちゃんと一緒に、私は笑ってアイドルたちに手を伸ばす。
届くはずはないけれど、そんな私に気がついた彼らが、まるで側にいるよと言ってくれるように、同じように手を伸ばしてくれた。

「それじゃあ、ラスト一曲!俺たちの代表曲だよっ、これは、『プロデューサー』が作ってくれたんだ!」
「…んっ!?」
「俺たちのソロ曲も、俺たちのことを考えて、想って作ってくれた!最高傑作だ!」

突然話し出したスバルくんに、私は素っ頓狂な声を上げて彼を見る。しかし、彼は思いの丈をぶつけるように話すことをやめない。まるで、自慢するかのように胸を張って、眩しい笑顔を観客たちに向けている。

「最っ高にキラキラした曲!俺たち『Trickstar』の形を、そのままこの一曲に詰め込んでくれた曲!きっとみんなも大好きになれる!…俺たちのために、この曲を捧げてくれて、ありがとね!」

礼を言うのは、間違いなく私の方なのに。
声を大にして返したかったけれど、胸がいっぱいになって、喉がつっかえて言葉が出ない。そんな私に、真白くんが優しく背中を撫でてくれる。まるで介護を受けている気分だ。

歌い始めたみんなの声が、心地いい。目を閉じても、みんながどこでどんな動きをしているのか分かるぐらい、みんなのレッスンを見守ってきた。でもきっと、レッスンのときとは比べものにならないくらい、輝いているはずだから。
せめて、目に焼き付けよう。この光景を、一生、おばあちゃんになっても、忘れないように。

 *

体感時間としては、あっという間。実際には、一時間ほどだろうか。
一応『Trickstar』のライブで、今回の『S1』は終了なので、投票の集計が終わり次第、結果発表がある。その際、各ユニットのリーダーが舞台で待つことになるのだが。

「俺たちのリーダーはおまえだろう、明星」
「えっ、俺がリーダーなの?」

『Trickstar』は、リーダーが誰かというのを決めていない。今まではそんなことを考える余裕があるなら、レッスンをしようという感じだったのだ。ものすごい今更な話だが、リーダーが決まっていないため四人は慌て出す。

「誰でもいいからリーダーになって、結果発表を受けてくれ。暫定的な、仮のリーダーということでもいい」
「ん〜……だったらさ、こういうのはどう?」

いつまでも舞台に居座っては、得票がマイナスとなってしまう。みんなが熟考を始めると、スバルくんがとんでもない提案をぶちこんできた。

「おいでよ、転校生たち!舞台にあがってきて、俺たちのリーダーになってよ☆」

大声でそう呼びかけながら、手招きをする。『Trickstar』のみんなの視線が、同時に私とあんずちゃんに向けられた。

「なる程、転校生たちか……。たまには良いことを言うな明星。だが、どちらにリーダーになってもらう?」
「……あ、あの、あんずちゃん。お願いしてもいい?私…腰抜けちゃって、立てそうにないから」

実はライブが終わってから、足に力が入らない。まるで椅子に腰がくっついているかのようだ。
私のお願いに、あんずちゃんは戸惑いながらも頷き、舞台へと向かう。スバルくんに手を引かれ、舞台に上がるあんずちゃんを見守っていると、私たちの会話を聞いていたのか、真くんと真緒くんが、舞台から降りて、私を立ち上がらせた。

「えっ、な、なになに!?」
「リーダーじゃなくていいから、せめて一緒に舞台にいようぜ」
「一緒にここまできたんだもの!隣で見守っててよ、『プロデューサー』!」

足が震えて覚束ない私の体をしっかり支えて、あんずちゃん同様2人は私を舞台へ引き込んでいった。

「皆さぁん、そこに並んでください!」

舞台上から見ると、意外にも遠い場所にある特等席で、しののんがちいさく手を挙げる。その手には、デジタルカメラが握られていた。
講堂での写真撮影は禁止となっているが、それでも撮りたいとカメラを向けるしののんは、朝陽のような笑顔を見せている。

「ふん。いつもなら『おふざけ』には付き合わないのだが。今日はハレの日だ、機嫌がいい」

驚いたことに、らしくもなくピースサインをする氷鷹くんに、つい笑ってしまう。そんな私を見て、ちょっと不機嫌そうに笑うな、と拳をぶつけられた。

「いや、氷鷹くんなら止めると思ってたんだけど。本当に機嫌がいいんだね?」
「おまえも、泣いたり笑ったりと大忙しだな、連星」
「本当、なんだかすごく疲れちゃった…でもそれ以上に嬉しいよ!私を誘ってくれてありがとう、ホッケ〜」
「お前までその呼び方はやめろ、せめて名前で呼べ」
「あはは、分かったよ、北斗くん。でも本当に、ありがとう」

何度お礼を言っても足りない。そんな私の気持ちが伝わったのか、北斗くんも笑顔になって、私の体を支えてくれた。

「写真は苦手なんだけどな……まぁいいやっ、みんな一緒に〜!ピース☆」
「あははっ♪写真と心の中に、このキラキラした瞬間は永遠に残るよね☆」

みんなの温もりが伝わる。ああ、なんだかもうすでに勝利したみたいに笑っているけど、結果発表はまだ終わってない。

でも、どうしようもなく幸せなこの一時を、一分一秒でも長く感じていたい。6人で肩を組んで、みんなでカメラに向かってピースする姿に、しののんも幸せそうに笑ってくれた。



prev next