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正真正銘の晴れ舞台

「こちらです、百瀬さん♪」
「あっ!紫之………しののん!」

照明が落とされ、サイリウムの光が映える講堂内を、揉みくちゃにされながら立ち往生していると、困り果てていた私たちに、かわいらしい救い主が手をさしのべてくれた。
その正体は、『Ra*bits』のしののん、もとい紫之くんである。
不思議なセンスで渾名をつけるスバルくんだが、しののんの名前はなかなかいい線をいっていて個人的に気に入ったので、私もそう呼ぶことにした。

「よかった〜。一般の人も来ててものすごく混み合ってたから、しののんが来てくれて助かったよ」
「いえ、そんな!比較的、お客さんの少ない方向から席に移動しますけど、暗いので足元に気をつけてくださいね」

ここで転倒してしまったら、暴れ回る群衆に踏みつけられて死んでしまう。特等席付近まで行けば、人口密度も減って少しは歩きやすくなるだろう。それまでの辛抱だ。

「それにしても、しののんも特等席で見れるんだね。アルバイトしてるって聞いたから、お金に困ってるのかと思ってたけど」
「はい。実際僕の家は貧乏ですし、稼いだ資金もチケットですっからかんになっちゃいましたけど、明星先輩の晴れ舞台を観るんですから、惜しくありません」

こんないい子に好かれているなんて、スバルくんも隅に置けないな。そんな風に思っていると、しののんはにっこり笑顔から、不意に神妙な面持ちへと表情を変えた。

「……明星先輩たち、勝てますよね」
「勝てるよ、絶対に」

しののんの、問いかけなのか、自分に言い聞かせているのか分からない言葉に、私は即答した。人々の歓声が響き渡る中でも、私の声は彼に届いたらしい。
驚き、目を見張ったしののんは、やがて安心するように目を細めた。

「ふふ、不思議です。百瀬さんが言ったことなら…ほんとうに、実現可能な気がしてきました。まるで魔法使いさんですね…♪」
「そんな予感がしてるんだ、ずぅっと前からね。それにしののん、君には暗い顔なんて似合わないよ。だから、笑って?」
「──わはは☆ねーちゃんの言うとおりだぜ、創ちゃん!」

不意に炸裂した元気いっぱいの声に反応し、顔を上げると、もうステージのすぐ麓、特等席にたどり着いていた。
そして、私の言葉に同意したらしい声の主は、座席を確保しているのか、いくつかのシートを占領して寝転がっていた。彼もしののんと同じ『Ra*bits』の仲間だ。

「笑う門には副来る、っていうらしいぜ〜?」
「ずいぶん遅かったな、創。立ってると邪魔になるぞ、最前列なんだから」

更に隣には、同じく『Ra*bits』のメンバーの子が座っていた。2人とはこうして面と向かい合うのは初めてだったので、挨拶を交わしながら席に着く。

「二年B組の、連星百瀬です。よろしくね」
「はい。俺は一年A組の、真白友也です。こっちは天満光。どっちも『Ra*bits』に所属してます…って、言わなくても知ってますよね」

少し困り顔で話す真白くんに、私はもちろん知ってるよという意味合いを込めて頷いた。

「百瀬さんには、ちゃんとお礼を言いたかったんです。今日まで忙しそうで、全然声をかけられなかったんですけど…。『S2』の時はありがとうございました!」
「しののんといい、律儀だね〜…。私、大層なことしてないよ。あれくらいしか、出来なかったんだから」

でも、サイリウムを光らせただけで、その光が彼らに届いて元気づけられたならよかった。まだ芽吹く前の花を、根っこから毟るようなそんなところは、見たくなかったから。

「そういえば、なずな先輩は委員会でいないんだっけ?」
「はい。あからさまな加工はせず、雑な編集で誤魔化してくれてます。あとでちょっと叱られるかもしれないけど…」

チケットを入手していない生徒は、教室で映像を見て投票することになる。現在も『UNDEAD』のパフォーマンスの採点中で、観客たちはサイリウムの色を変えず、光らせている。
ライブを見ることは出来なかったけれど、加点にはなってくれるだろう。そう思い、私とあんずちゃんも最高評価を示す色で光らせた。

「『UNDEAD』は見られなかったけど、『2wink』の2人のパフォーマンスには間に合ったね」

絶え間なく流れる音楽は、まさしく私が手がけたもの。その曲に合わせて、2人は思うままに飛んだり跳ねたり、楽しそうに踊っていた。
ふいに、2人の視線がこちらに向く。
ひなたくんとゆうたくんは、まるで「楽しんでくれてる?」と問いかけるように、手を振った。その手につい振り返すと、2人はそれに笑って応える。

「2人がいい具合に煽ってるから、観客も帰る気配がない。順調順調…♪」

機嫌よくサイリウムを振っていると、くいくいとあんずちゃんが私の制服を引っ張った。何事だ、と振り返ると、あんずちゃんは「『2wink』にも曲を作ったのか」と質問してきた。

「えっ、何で分かったの!?あ、ああ、なんとなく?いやぁ、衣装制作の時、息抜きに〜って思って出来たやつ、割と2人が気に入ってくれてね?」

これは作らざるを得ないと思い、早急に仕上げたのだ。個人的にも気に入っていたので、誰かに歌ってほしかったという私の我が儘でもあって、『TrickStar』の面々には言いづらかった。

「でも、もうすぐ終わる。…みんな、準備が出来たみたい」

朔間先輩からの合図があった。
それは、歴史の変わる瞬間が訪れると、伝えてくれるもの。

「お待たせしました!本日の主役の登場です〜!」
「謎と神秘に包まれた新進気鋭のアイドル集団!超新星!夢ノ咲学院の革命児たち!『TrickStar』の入場です〜☆」

やや演技過剰にムーンウォークをするみたいに、後ろ向きに下がっていく。テンポよく手をたたき囃し立て、観客たちもそれにつられて手拍子をうつ。
講堂の熱気が高まって、汗をかいてしまいそう。

「ようこそ綺羅星たち!栄光のステージへ☆」

高らかに宣言した2人に応えるように、氷鷹くんが姿を現した。彼の姿を見て、自然と笑みがこぼれてしまう。
彼の一歩が、歴史を塗り替える。そう、この瞬間を、ずっと待ち望んでいたんだ。

「ではではっ、まず登場したのは冷静沈着な『TrickStar』のリーダー!氷点下の王子さまっ、氷鷹北斗〜☆」
「いや、俺はリーダーではないのだが……。あと『王子』って何だ?」
「いやいや、ツッコミなのかボヤキなのかはっきりして!」

氷鷹くんと葵兄弟は、猛特訓をしていた言わば師と弟子のようなもの。会話を聞く感じだと、前より仲良くなっている気がした。

「つづいて、超新星にして超天才!明星スバルの登場だよ〜☆」
「ひゃっほ〜☆」

誰がどうみても、ハイテンションで走り出すスバルくん。子犬みたいに愛らしく、その大胆で忙しない動きに不格好さはない。
氷鷹くんと違って、彼は緊張というものを知らないらしい。底抜けな明るい笑顔で氷鷹くんに思いっきり飛びつく。そんな彼を受け止めながら、ぐいぐいと遠ざける氷鷹くんは、普段の日常と変わりない光景だった。

「おおっと、つづいて登場しました!変幻自在の魔術師!衣更真緒〜♪」

引き続き実況を続ける2人に、真緒くんは気さくに手を振って応える。困ったように八の字に下がった眉、ああ、いつもの真緒くんだ。彼も緊張していない。保護者のように優しい眼差しで、仲間たちを眺めている。
そんな彼の後ろに、引きずられるようにやってきた最後の一人。それに気づいた双子は、真緒くんの方に駆け寄った。

「あっ、忘れてた。最後に〜、えっと眼鏡のひと!」
「がんばれ眼鏡〜♪名前なんだっけ……まぁいいや、省略っ☆」
「ええっ、僕だけ扱いが雑すぎないかな!?ゆ、遊木真です!よろしくお願いしますっ、一生懸命がんばります〜!」

今までの3人をおだてておだてて、煽てまくって、最後の1人でオチを作る。言わば、『いじられキャラ』を作り上げたのだ。観客が気を抜いてくれるために、親しみやすさをもってもらうために。
そして、彼が失敗を犯しても、それは『愛嬌』になる。観客から、応援されるんだ。お人形さんなんかじゃなくて、人間として見てくれる。

「んじゃね、俺らはこのへんで『おさらば』するから〜♪」
「おしめを替えて、おんぶに抱っこで、良い子良い子するのはここまでっ♪」
「うむ、あとは任せてくれ。重ね重ね、世話になった」

堅苦しい氷鷹くんに苦笑いしつつ、双子は軽やかに退場していく。観客たちに手を振り投げキスをして、双子の存在を印象づけていった。
最高だ、終わったらめちゃくちゃに頭を撫でて抱擁して、「よくぞやった!」と賞賛したいくらい。

そして、ステージに『Trickstar』だけが残され、彼らのライブが始まった。



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