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流れ星に祈ろう

「物凄く無茶苦茶な作戦…。大丈夫かな?考えたの、私だけどさ」
「今さら何弱気になってんの、百瀬さん!あんたがそんなんじゃ、俺たちまで不安になっちゃうじゃん」

とうとうやってきた、『S1』当日。
講堂の側、専用衣装を着た『2wink』のひなたくんとゆうたくんに、作戦の確認をしていた。
本当なら、今日参加するのは『紅月』と『Trickstar』のみ。しかし、そこに秘密裏に、『UNDEAD』と『2wink』が参加する。場を攪乱し、『Trickstar』が勝利を掴むための布石となる。
『UNDEAD』が『紅月』にぶつかり、対処される前に場を繋いで『2wink』が登場。そして本命である『Trickstar』にバトンタッチ。
以前の『S2』の『Ra*bits』のようなことにはならない。観客は誰1人として、帰らせない状況を作る。

「適当に言ったことを、本当に朔間先輩が実現させちゃってるよ…」
「そんなこと言って〜!俺たちを出演させる気満々だったじゃん!わざわざ曲まで作ってくれちゃってさ♪」
「それ、『Trickstar』のみんなには言わないでね。みんな、衣装制作で疲れてるって思ってるから」
「確かに、『Trickstar』の人たちって転校生さんたちに過保護なとこありますもんね〜」

ゆうたくんの言葉に否定は出来ない。事実、彼らは少し、いや過剰と言ってもいいぐらい過保護である。『勝利の女神』だと称しているぐらいだ。ちょっとくすぐったいから、やめてほしいのが本音だが。

「でも、2人が気に入ってくれてよかったよ。テクノポップってあんまり書いたことないから、すごい楽しかった!」
「うん!ほんとにありがとね、百瀬さん!また機会が合ったらお願いしようかな〜?プロデュースも一緒に!」
「あはは、私でよければ喜んで。楽しみにしてるよ」

それにしても、その時が近づくにつれ、緊張が増していく。ステージに立つのは私じゃなくて、『アイドル』たちなのに、手が震え出す。私の様子に気がついたのか、2人は顔を見合わせると、片方ずつきゅっと私の手を握りしめた。

「大丈夫だよ、百瀬さん」
「俺たち、絶対成功させますから。『前座』だけど、それでも、先輩たちが輝けるように」
「………。すごいね、2人とも。緊張してないの?」
「そりゃあもう!ドッキドキだよ!でもね、それ以上にワクワクしてる!」

祈るように、私の手を両手で包み込む2人の表情は、本当に楽しそうだ。嘘なんて、一つもついていない。

「想像してみて。あんたがプロデュースした『アイドル』が、勝利を掴む瞬間を」
「あなたの曲が、お客さんを魅了させる瞬間を。これ以上ないってくらい、聞き惚れる姿を」
「そう考えれば、緊張なんて吹っ飛んでさ。未来に期待出来るでしょ?」

2人の言葉に、目を閉じて、想像してみる。妄想してみる。都合の良いことばかりだけど、嫌な未来を考えるより、ずっと心が軽くなっていった。

「ありがとう。ひなたくん、ゆうたくん。2人のおかげで、どうにかなりそう」
「そうそう!百瀬さんは落ち込んでるより、笑った顔の方が可愛いですよ」
「べ、別に可愛くはないよ!」
「にっしっし、照れてる照れてる〜」
「も〜…。あっ、そろそろだね。それじゃあ2人とも、頑張って!」

手を振ると、2人は元気よく振り返して、ステージに向かって駆け出した。もうすぐ始まる。革命の瞬間が。
大きな期待と、少しの不安を胸に、私は主役たちの元へと向かった。

「百瀬〜!見て見てっ、どう?似合う?」
「おお〜!似合うよ!すっごいいい感じ!サイズもばっちりだね。さすがみんな、格好いいよ!」

私の姿をいち早く見つけたスバルくんは、見せつけるように専用衣装の姿でくるくる回って見せた。それに合わせて、腰の布がひらひらと舞う。
見た感じ、サイズは問題なく着れているし、欠陥もないようだ。

「おっ、ホッケ〜。さっきまで表情カチコチだったのに、百瀬が来た瞬間、ちょっと和らいだね♪」
「む…そうか?」
「うん!まあ気持ちは分かるけどっ、笑って笑って〜、楽しもうねっ☆」
「あぁ、楽しんだもん勝ちだ。好条件は揃ってる、これで負けたらお笑い草だよ。生徒会にも居場所がなくなるかもな〜?」
「? 何言ってるの衣更くん。居場所ならあるじゃない、ここに」

笑い話みたいに語る衣更くんに、私は何を言ってるのだと背中を叩いた。勢いに前のめりになった衣更くんはきょとんとした顔でこちらを見つめる。何か、おかしなことを言っただろうか、そんなつもりはこれっぽっちもない。

「…ああ、そうだな。そうやって簡単に言いのけちゃうおまえだけど、結構真面目に言ってるんだろ?」
「おふざけで言ったつもりないよ?ねえ衣更くん。たぶん、まだ生徒会と戦うのに、躊躇いがあるのかもしれないけど……私、どうせなら君に一番、楽しんでほしいな」

人に気を使ってばかりの君が、それを振り切って全力でライブを楽しめたら、どれほど素敵なことだろうか。きっと最高に、素晴らしいことだ。

友達として、喜ばしいことだ。

「私、君の笑った顔が大好きだよ。だから……真緒くん。最高の笑顔で、ステージに立ってね」
「あはは……おまえってほんと…。分かったよ、おまえの大好きな笑顔で、忘れられないステージにしてやる。最後まで見届けてくれよ、百瀬」

私たちがお互いの名前を呼び合うのって、もしかしたら初めてなのかもしれない。照れくささと、嬉しさを滲ませた笑顔を見せた真緒くんに、私は笑って頷いた。

「お〜い、すっかり2人の世界に浸ってるとこ悪いけど、独り占めはよくないんじゃない衣更くん?みんなの『プロデューサー』だよ、百瀬ちゃんは」
「そうだぞ。同じクラスだからとはいえ、今は決戦前だ。どんなものでも、共有してくれ。それに、急がないと間に合わないぞ」
「了解、あんずちゃんも百瀬ちゃんも、舞台袖から見守っててね〜☆」

急かされ、慌てて彼らの背中を追いかけようとしたところでバランスを崩したが、それをそっとスバルくんが支えてくれた。彼がこんな風に人を気遣うなんて、と驚いて振り返ると、スバルくんは私の背中を押しながら、困り顔になっていた。

「そっか。関係者ってことで、2人は舞台袖から見られるのか。失敗したな〜?」
「……どういうことだ、明星?」

スバルくんの言葉が理解できず、首を傾げると、どうやらスバルくんは『Ra*bits』の紫之くんが、今回も校内アルバイトで受付をしていて、こっそり頼んで、特等席のチケットを確保してもらっていたらしい。

「舞台にいちばん近い、最前列……。そこから、俺たちの活躍を見てもらおうかなって思ったんだけど。チケットが無駄になっちゃうな、ど〜しよ?」
「特等席……って、確か、すごく高いんじゃなかったっけ?それを二枚も?」
「どっから金を出したんだ。どケチのくせに」
「いやいや、俺はケチじゃないよ!お金は大好きだけど使ってナンボだからねっ」

朔間先輩が練習室を借りてくれたり、衣装を自前で用意した結果、軍資金が余ったからチケットを買えたという。そんな、大事なお金を、高価なチケットに使ってしまうなんて、なんだか申し訳ない。私、曲と衣装を作っただけだったのに。

「そういうな。おまえたちが居てくれて、とても心強かったんだ。それは、今も…これからもだ。だから受け取ってくれ、無駄にするのも勿体ないしな」
「…うん、ありがとう。スバルくんもね」
「どーいたしまして!俺たちのキラキラした大活躍を、たっぷり堪能してね〜☆」

私が居たことで、何かが、変われただろうか。
私がみんなと過ごしたことで、彼らに影響を、与えられたのだろうか。
それは、今考えても、分からない。
間違いなく、彼らは主人公なのだろう。一つの物語の中で、大革命を起こそうと奮闘する、少年たち。
対して私は、通行人Aのような存在だ。

でも、それでも。


(私、今とても──生きている感じがする)


みんなが私に命を吹きかけてくれた。
彼らがステージで目映いほどの光を放ち、目が潰れてしまっても、本望だ。

まるで、流れ星のような四人の背を追いかける。私はもう、ここからは祈ることしか出来ないけれど、ちゃんと見守るよ。君たちが、好きになったから。

「ホッケ〜!ウッキ〜!サリ〜!あんず!百瀬!俺、今日という日を迎えられて最高に幸せだよっ☆」
「あぁ、俺も同じ気持ちだ」

私も、幸せだよ。夢を見ているようだ。
とんでもないところへ転校したという自覚はあったけれど、私の予想を遙かに上回るほどの賑やかさ。こんな気持ちになれるなんて、二週間前の私は想像もつかなかっただろう。

「…応援してるよ!頑張れ、『Trickstar』!」

大きな声で、声援を贈る。ここから先は、別行動だ。彼らはこれからステージにたって、『アイドル』して花開く。その瞬間を、真正面で受け止められるなんて、私は、幸せ者だ。

驚いたように振り返った4人は、満面の笑みを浮かべて、前を向く。

「さあ、行こうかあんずちゃん。正面からじゃ、人混みに流されそうだから、裏を通ろう」

頷いたあんずちゃんも、幸せいっぱいの表情でうれしくなる。そんな彼女に私も笑い返し、その手を引いて、ガーデンテラスへと向かった。

 *

ガーデンテラスで、初めて──彼女に出会った。
植え込みを突き破って頭を出すと、彼女は目を丸くしていた。髪の毛もほつれていて、哀れっぽく飛び出したまま──まるで土下座するような姿勢で、首を傾げている。
見つめている僕に、何だか困ったように半笑いを浮かべて、会釈した。
あぁ、合点がいった。入院中、渉から、寝物語で聞いていた。
ようやく会えたね、光栄だよ。

君が噂の、転校生ちゃんか。

「あんずちゃん、抜けれた?凛月くんが──ええっと、クラスメートがね。おすすめの抜け道だよって教えてくれたから、いけるかなって思ったんだけど…。これどう考えても抜け道じゃないよね。だまされたのかなぁ…?」

高すぎず、しかし低すぎない女の子の声に、僕は目を見張った。転校生ちゃんの後に続いてやってきたのは、同じ制服を着た女子生徒。

(──ああ、神様は、意地悪だな)

まさか、こんなところで、再会するとは。

以前見たときより、少し髪が伸びたかな。一年で、ずいぶん大人っぽくなったね。

転校生ちゃんのような、物語の主人公とは違う。もう二度と、会うことはないと思っていたのだけれど。
幸い、というべきなのか。彼女は僕に、全く気づいていないみたいだ。

(それにしても…本当に、君なんだね、百瀬ちゃん)

僕に向かって、『死にたい』とのたうち回っていた一年前とは違う。
ただひたすら前を向いて──期待と不安に揺れ動き、それでも心の底から幸せそうな顔をして。


(また…壊れにきたのかい?)


その目はもう、これからライブが行われる『講堂』しか、映っていない。星屑を散りばめたかのようにその目をキラキラと輝かせて、彼女は立ち上がって、転校生ちゃんの手を引き、走り出した。

(プロデュース科…だったかな?『アイドル』に寄り添い、支える。そんな存在になるわけだ、君も)

君の愛した人間は、ここにはいないのに。
きっと今日、このあとすぐに、君が新たに愛したユニットが、ライブをするんだろう。出来がよければ、拍手くらいは贈ってあげるよ。

そして、改めて君に、名乗ろうじゃないか。

(僕の顔を見たら君は、一体どんな表情を見せてくれるんだろうね?)

ああ、顔を合わせるのが、楽しみになってきたよ。



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