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仲間の姿に心が踊る

「はぁ!?協力することにした!?」
「うん。だからこれからよろしくね〜…っいた!?」
「アホか!なにがあってそう決断しちまったんだ、あぁもう!今ならまだ間に合う、断ってこい!」
「断らないよ。大丈夫、何があっても自己責任だから、衣更くんも気にしないで?」

私の言葉に、衣更君は唖然とした後、盛大なため息をついた。なんかすごく申し訳無い。衣更君が私のこと心配してくれて言っているのはすごく分かるし、あの時巻き込みたくないって言っていたのも本心だろうし。

「言っておくけど…後悔しても知らねえぞ?」
「もう決めたから。まあ昨日のドリフェスの行動で、椚先生にちょっと目つけられちゃったみたいだけど…」


「もともとあなたはA組のプロデューサーとは違い、たまたまアイドル科に紛れた一般人に過ぎません」

間違っても、学院に逆らおうなどと思わないように。

「自分がしたことだから、いいんだけどね」
「…だから!お前がそんなんだから心配なんだよ、分かれよな!」

衣更君を安心させるつもりで言ったのだが、どうやら逆効果のようだった。半ば怒鳴り散らすように言った衣更君に「ごめんね」と謝ると、彼は何を言っても無駄だと判断したのか「勝手にしてくれ」と返した。

 *

「さて、明星くんはあんずの嬢ちゃんと、氷鷹くんは葵くんたちと経験を積むことになっておる。残るおぬしは、我輩と特訓じゃ」
「…………」

放課後、まだやることが決まっていない私は軽音部の部室にやってきたのだが、それを迎えた朔間先輩はそう言い放った。私が何も言い返せないでいると、朔間先輩は何を勘違いしたのか、眠いのかと目の前で手を振る。

「いや、違います。そうじゃなくて……私も特訓、いります?」
「なんじゃ、我輩では不服か?しょうがない嬢ちゃんじゃのう……」
「あの、答えになってないです。私、『プロデューサー』ですよ……?」
「だからじゃよ。全く、『プロデューサー』がなってなければ、『アイドル』が輝くなんて夢のまた夢じゃ。じゃがな嬢ちゃん、おぬし、そんな『アイドル』たちを最高に輝かせる『武器』を作れるじゃろ?」

どこか機嫌のいい朔間先輩に、笑みをひきつらせた。
彼のいう武器というのがいったい何なのか、すぐに理解できた。プロデュースなどやったことのない私がアイドルに関することに出来ることと言えば、これしかない。

「まずは嬢ちゃんの力量をはかるぞい。凛月からピアノを教わっておるのじゃろう?」
「なんで知ってるんですか…」
「この学院のことなら、何でも知っておるぞい」

隙一つ見せようとしない朔間先輩に、もはや苦笑いすら浮かべられない。見透かされていると感じれば、誰だっていい気分なんてしないだろう。

「そのキーボードで、おぬしの作った曲を弾け。大丈夫じゃ、この部室には今、嬢ちゃんと我輩しかおらぬ」

そういう問題ではないのだけれど、この人になにを言ったって無駄なんだろう。何となくだけれど、そんな気がした。目の前で微笑む先輩が、その証拠だ。
渋々私はそばにあったピアノの鍵盤に指を滑らせた。凛月君が教えてくれた基本的なことしか出来はしないが、逆を言えば基本は出来る。初心者なりに、上手に弾こう。

息を吸い込んだ私は、以前スバルくんに聞かれた曲の五線譜を頭の中で思い浮かべ、鍵盤を叩いた。

弾き終わった頃には、私の体はすっかり火照っていた。最後まで繋いだのは初めてだ。朔間先輩の反応が気になり顔を上げると、氷鷹くんや葵兄弟がまじまじとこちらを見ていて、驚いて「ひっ」と声を上げた。

「えっ、い、いつからいたの!?」
「結構序盤からいたよ〜。百瀬さん弾くのに熱中して気づかなかったみたいだけどね!それよりすごいじゃん、ただ者じゃなかったんだね百瀬さんって!」
「は、恥ずかしい…!やめて、忘れて、記憶から消し去って〜!」

満面の笑みひなたくんは駆け寄り、私の手を掴んでぶんぶんと腕を振った。その様子に困惑していると、ゆうたくんがひなたくんを咎め、ひなたくんを引き剥がす。

「でも本当にすごかったですよ、百瀬さん。あんな曲が弾けるなんて驚きです」
「弾けるようになったのは本当最近だけどね。……だから嫌だったのに」
「今の、本当にお前が作った曲なのか?」
「…お恥ずかしながら」

氷鷹君の言葉に、私は頬をかきながらはにかんで答えた。しかし、それから氷鷹くんは無言になってしまって、私は助けを請うように朔間先輩を見る。
私の視線に気がついた朔間先輩は、氷鷹くんの様子を見てにやりと笑みを浮かべた。

「これこれ、見惚れている場合ではないぞ」
「っ、そ、そんなつもりは、」
「初々しいのう…まあよい。それくらい、嬢ちゃんの曲に魅力があったということじゃ。これで、百瀬の嬢ちゃんのやることが決まったのう」

朔間先輩にそう指摘された氷鷹くんはほんのり頬を赤く染める。その反応が少し可愛いな、と思って見ていると、ふいに朔間先輩がそう告げた。しかし私のやることというのが私自身理解できてない。
どういうことですか、と尋ねる前に、朔間先輩が口を開いた。

「次の『S1』のために、『Trickstar』に曲を作るんじゃ。おぬしの役目は作曲。作詞は『Trickstar』のメンバーと一緒に考えるとよい」
「…は…作曲…ですか…?」
「うむ。何か都合が悪いことでもあるかの?」

作曲って、結構重大な仕事ではないだろうか。プロデューサーの仕事に、まさか作曲が入るとは思っても見なかった私は首を振ることさえ忘れてしまっていた。
都合が悪いわけではない。ただ、そんな重要な役割を、私が担っていいのか不安なのだ。スバルくんには、いつか『Trickstar』に作ってほしいと言われたけれど、それはいつかの話であって、こんなすぐにやってくるとは思いもしなかったのだ。
しかし、間髪入れずに呆然とする私の手を氷鷹くんが握った。

「俺からも頼む。俺たちの曲を作ってくれ。…俺は、お前の歌を歌いたい」
「…は、はい」

氷鷹くんの迫力に、私は何も考えずただただ頷いた。私の返事に、氷鷹くんは嬉しそうに微笑む。やはりアイドル、無駄に顔が整っているため、氷鷹くんの綺麗な笑みは直視出来ず、私は顔を伏せた。

「俺らの前じゃあんなに笑わなかったのに、百瀬さんの前じゃあっさり見せちゃったよ」
「それをいつでもステージ上で出来るようにするための特訓なのにねぇ…百瀬さんも一緒に特訓付き合ってくれないかなぁ」
「作曲作業があるから無理だろうけど。…百瀬さん!たまにでいいから、ここにも顔出してよ。俺たち、放課後ならいつでもここにいるからね」

ひなたくんのその言葉に私は顔を上げ、頷いた。そういえば、氷鷹くんは表情が柔らかくなるように特訓してるんだっけ。スバルくんは一般人の感覚が分かるようにあんずちゃんと一緒に行動してて、そういえば、遊木くんは?

「彼ならわんこと一緒に屋上に向かっておるぞ」
「……わんこ?」

わんこって、誰だ。

 *

「あはははっ、わんこだって。朔間先輩にまで犬扱いされるなんて、…ふふっ」
「があああっ!!っるせぇぞテメー!それ以上笑ったらこっから突き落としてやる!あっ、おい逃げんな!」

私の首根っこを掴もうとした大神くんをすりぬけて、私は遊木くんの後ろに隠れる。突き落とされたりなんかしたらたまったもんじゃない。遊木くんを盾にするようで悪いけど、さすがに男女の力の差にはかなわないのだ。

「つーか何しに来たんだよ。テメェ、吸血鬼ヤローに呼ばれてたんだろ」
「うん。でも朔間先輩に「時間があるならわんこのところに行けばいい」って言われたから」

わんこのことだから、遊木くんに無理させているだろうから、というの朔間先輩の言葉は見事的中していた。なんというか、さすがというのか、同じユニットと部活の大神君のことを知り尽くしている感じが否めない。
買ったばかりのペットボトルを差し出すと、大きく舌打ちしながらも大神くんはそれを受け取った。

「つーかテメェ。生半可な覚悟で首突っ込もうとしてんじゃねーよ、アホか」
「な…ほ、本気だよ」
「どもってんじゃねーか。ぶっちゃけお前みたいな素人なんて、どう足掻いても何の役にも立たな…」
「………連星、さん?」

大神君の言葉に、私は顔をゆがませて両手で顔全体を覆った。それを見た大神君は言葉を詰まらせ、遊木くんは顔を青くしあわあわとし始める。

「……なーんちゃって」
「…あぁ!?テメェぶん殴んぞ!!」

チラッと指の隙間からその反応を確認してから、手を開いて顔を出し、べっと舌を出す。私の胸ぐらを掴もうとした大神くんの前に、ペットボトルを差し出した。

「朔間先輩から伝言だよ」
「ちっ…しょうがねぇな。おい眼鏡モヤシ!五分休憩したら再開するぞ!!」

朔間先輩に頼まれて少し休ませてやれと言われたのだが、あっという間に仕事が終わってしまった。大神くんの特訓によりすっかりへばっていた遊木くんがか細い声で礼を言う。

「ふふ、気にしないで。朔間先輩にも頼まれたし、大神くん遠慮しなさそうだから。体壊しちゃったら、元も子もないのにね」
「う、うん…これがあと一週間も続くなんて…地獄でしかないよ。でも、やっぱり明星くんたちに遅れを取るわけにはいかないからね」

困ったように笑った遊木くんにペットボトルを差し出すと、彼はそれをすごい勢いで飲み込んでいった。一見少食のようなのに、そのイメージが思い切り覆されるレベルだ。

「それにしても、まさか君が協力してくれるなんて思ってもみなかったよ。大丈夫?」
「うん。私に出来ることは少ないかもしれないけど…やれるだけのことはするから」
「…すごく、心強いよ。明星くんがね、君を…連星さんを褒めちぎってたんだ。だからほんとに、連星さんのこと、期待してた」

だから氷鷹くんから断られるかもしれないって聞いたときは、少し驚いた。こっちが勝手に期待してただけで、君は普通の女の子なのにね、と話す彼は申し訳無さそうに眉を下げる。
その姿は氷鷹くんと似ていて、思わず吹き出してしまった。

「な、何かおかしな事言ったかな?」
「ううん、何でもないよ。私ね、作曲することになったんだ。一週間後までには作るつもりだから、みんなで練習する日がきたら、聞いてほしいな」
「作曲!?わあ、すっごく楽しみだよ!それ聞いただけでも頑張れそ〜!」

飛び上がった遊木くんに、私はまた笑みを浮かべた。私も、その幸せそうな笑顔を見れるだけで、頑張れそうな気がするよ。

どうか最後まで、この革命劇を見届けられるように。



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