ポッキーゲエム


 寒い廊下から教室に入ると人の体温で少しだけ温まった空気にほっとする。エドワードがくるりと見れば女子達が朝からお菓子の箱を机上に並べて華を咲かせていた。箱は何故かポッキーとプリッツばかり。様々な種類に「こんなに色々あるもんなんだな」と感心しながら花の香りを嗅ぐ様にエドワードは花園へ顔を突っ込んだ。
「おはよーっす!オレにも1本ちょーだい」
「モチロンです、ハイどーぞ!」
 わざわざチョコレートの掛かっていない持ち手の部分をくるりと回して自分の唇にはさみ、ポッキーを口にくわえたシェスカに楽し気に唇を突き出された。一瞬面食らったエドワードだったが、それでもチョコレートの棒の先をつまんで真ん中辺りで器用にぱきんと割り、口に含む。
「あぁ〜んエドワードさんっ!」
「『あぁん』て言われても」
「今日はポッキーの日なのよ」
「何それ?」
 指の腹に付いたチョコレートをちゅっと音を立てて舐め取りながらロゼに訊き返せば「えぇ〜知らないの〜!」と他の女子達に派手なリアクションで返された。花園はこんなに寒い朝でも賑やかに彩りを添えてくれる。

 彼女らが教えてくれた行事は特定の菓子会社の陰謀以外の何物でもなかったが、誰でも知っているのが当然という口振りで話をされたので戦略として成功だとエドワードは冷静に分析した。最近、趣味の株が高じて経営学に興味があるのだ。
(あいつ、こういうの好きそうだな)
 お昼休みに携帯メールをチェックすれば『11/11/11 11:11メール!届いた?』と、まるでイタズラの様なメールを送ってくる、あいつ。





「はいエド!あーンっ!」
「あーんじゃねぇし。それオレもうやられたからいいわ」
「えッ!?だレッ!とッ!?」

 リンは普段から可愛い可愛い恋人の「何すんだよ、止めろよ」とさらに可愛く赤くなるところが見たかった。その為にお昼休みのおやつにポッキーを差し出すのを控え、意図的に話題にも出さず放課後自宅に連れ込むまで待っていたというのに。
「お前声裏返ってんぞ!」
 裏返ったどころか思わず咥内で噛み砕いてしまった菓子が喉に詰まりむせてしまった。リンを大笑いしながらもエドワードが持ってきてくれた水で咳を飲み込む。
「……ありがとウ、っテ、誰!?そんな空気読まないことしたノ!?」
「はぁ?意味わかんねーし。シェスカだよ」
「えぇ〜ずるイ〜!」
「言っとくけど、知ってるけどやってねぇから。てかお前やっぱ知ってたな」
「知ってたヨ。じゃあやろうカ」
 リンの方としても「やっぱり知らなかったネ」と言いたいところだがこの際知ってる知らないは問題ではない。

「じゃあの意味がわかんねーし!」
 ベッドに並んで座った身体を引き寄せると華奢な腰がリンとは逆側に逃げようとする。
「ちゅーくらいいいじゃン」
「え?これってキスする為にすんの?」
「キスする為って言うカ、最終的にキスするって言うカ。両側から食べたらそうなるよネ?」
「えぇっ!?じゃあシェスカとキスするとこだったのか!?」
「さァ?女の子って友達同士でキスってするノ?」
「しねぇよばか!」
 別に馬鹿な質問をした覚えはないが、元々口が悪いエドワードの照れ隠しの暴言を聞き流すことにリンは慣れている。

「ハイ食べテ」
「んっ…!?」
 左腕でエドワードの細い腰を固定し、右手でポッキーをピンク色の唇に突っ込む。エドワードがびっくりして驚いている間にポッキーの逆側に吸い付いた。

 さくっ。

 チョコレートの掛かっていない側を食べているリンにはさっぱりとしたクッキーの味しかしないが、15センチ先に甘い甘いお菓子が待っている。サク、と少しずつチョコレートの部分まで食べ進むけれどそれよりも先にある甘い味を期待して口の中の味なんてもうわからなかった。
 恥ずかしがり屋のエドワードの顔を至近距離で拝める機会はあまりない。たまにエドワードに内緒でキスの最中に目を開けて見る時は、当然だが意志の強い大きな瞳は閉じられ震える瞼もリンに庇護欲と加虐心を掻き立てさせるが。

 今のエドワードは驚きに大きなきんいろの瞳をさらにまるくおおきくしてリンを見ていた。その距離の近さにまた驚いたのかちいさな身体がぴくっと震える。そのまま後ろに逃げられる前に、すかさず背中に腕を回してリンはエドワードの逃げ場を無くした。
 ぱちんっとぶつかった視線に恥ずかしくなった瞳は少しだけ伏せられたが、逃げてさ迷った金瞳はサク、という音に引き寄せられてリンのくちびるに辿り着いた。エドワードの視線を十分に意識した上で、くわえたままの細いクッキーからチョコレートを剥がすように歯を立てて、舐めとる。そんなリンの仕草を凝視してしまい有らん限りの羞恥を掻き立てられた瞳は潤んだまま、反らしたくても反らせないでいる様だった。逃げ出したいのにリンの力強い腕に逃げ道を阻まれて硬直してしまった身体につられた様に。
「んっ…」
 リンが触れているのは反り返った背中だけだというのにすっかり恥辱に染まってしまったエドワードの顔を間近で味わう。甘美な味を目で堪能しながらゆっくりと食べ進み、ぺろり、と赤くなったちいさな唇に触れるか触れないかの部分へ舌を伸ばした時。耐え切れなくなったエドワードがぱきんっとクッキーに歯を立ててふたりを繋ぐ細い棒を割った。

「…んっ……!」
 追い詰められたエドワードがきゅっと瞳を閉じたと同時にリンもガリっと2人を隔てるクッキーを割って落とし、距離をゼロにした。
「ん…っ、ふ…っ…」
 ぶつかる様に唇を重ねる。開いたままの瞳でエドワードの唇に残ったチョコレートを見付け、たまらずに舌を這わせた。
「はぁ…っ…ぅんっ…」
 舐めとったチョコレートを初めて甘いと感じる。それをエドワードにも味わわせる様に歯列に舌を割り込ませて掻き回した。

「はッ……、チョコの味がすル…」
「んっ……」
「ネ…?」
「…ぅっ……ん…っ」
 わざとらしく同意を求めれば、それでもエドワードはそんなリンの顔を恥ずかし気に、眦を赤く染めて上目遣いに睨んできた。
 たまらない。この顔が見たかった。

「エド…」
「ぁんっ…や……っ」
「こぼしてル」
「えっ」
「ほラ」
「ぁっ…!」

 エドワードとリンがかじって割ったチョコレートクッキーを拾う振りをしてエドワードの胸元に手を伸ばす。そのまま制服のネクタイを緩め、Yシャツのボタンを素早く外してブルーのチェック柄の下着に覆われた白い胸を露わにした。

「ゃだ!ばか…!」
 今度の罵倒は甘んじて受ける。
「だっテ…、中にもこぼれてるヨ…」
「ん……っ!」
 抵抗に先んじて薄い背中に両腕を回してきゅうと抱き込み動きを制限する。それから不思議と甘い香りのするやわらかな胸の谷間に舌を伸ばせば、予想通りリンをはねのけようと肩に両手を置いてきた。
「あっあぁ…っ、はぁん…っ…」
 しかし、胸に付いたチョコレートごと白いふくらみをべろりと舐められちゅうっという音と共に跡が付くほど吸われれば、男を押し返そうとしていた細い指はきゅっと握られ、逆にしがみついてくる様だ。
「やっ、ちょっ…こんなの…っ!」
 ボタンを外す際にシャツに乗ったチョコレートクッキーをわざと胸に落とした。チョコレートを舌で舐めては掬い取り、クッキーを舌で拾ってはサクリと口に含み食べてゆく。
「ン〜?こんなノ、っテ、どんなノ…?」
 文字通りあまやかなお菓子と化したエドワードの可愛い胸から顔を上げて意地悪く見上げれば、いやらしく変貌したリンの絡みつく視線にまた羞恥を煽られたエドワードはかっと顔を赤くした。
「………っ!」
 口ごもってしまった可愛い可愛い恋人にニコリと笑い返し、背中に回した両手でシャツの上から中の下着のホックを器用にはずした。
「あ…っ!」
 びくんと跳ねて目の前に突き出された形となった胸へここぞとばかりに顔を埋めて愛撫を再開する。そう、すでに遊びでなくなった行為の続きを。
「ふぁっ…ん……っ!キ…スだって…言ったの、に…!」
 ベッドに座っていた膝をぱたぱたと動かして暴れようとする両足を跨いで覆い被さる。自分の雄がそれだけでもう引き返せない程興奮してるのを自覚しながら。


「リン…っの、ばか……!」


 こうなるのを期待して思い通りに事を運んだ方としては、その言葉に身に覚えがあり過ぎる。

「うン、エド馬鹿なんでス。ごめんネ?」

 それをエドワードが聞いて心底呆れ「ばっかじゃねーの!」と言えるのはすべてが終わった後であった。




[ 4/43 ]

[*prev] [next#]


[NOVEL TOP][TOP]
[BKM][BKM LIST]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -