右手をあなたの右手の上に


「……、……っは、ぁ…、…んで……?」
 荒い息を必死に整えながらエドワードがゆるりと自分を見上げてくる。
「……なにガ?」
 我ながら、いやらしい顔をしているに違いない。ちょっと恥ずかしそうにエドワードがリンの目から耳へと目線をはずしたので。あんなこんなことをしておきながら、今さらそんな仕草をするのすらいとおしくて、エドワードの額に自分の額をこすりつける。「ん、」というかわいい声を聞きながら、そのままくちびるにキスしようとしたら拒まれた。ちょっと傷つくから拒まないでくださイ。男はきみが思ってるよりずっと繊細なんだヨ。
「……抜いて…」
 追い打ちを掛けられてさらに凹むがそんなことはおくびにも出さないのがささやかな男のプライド。華奢な身体に体重をかけないように重ねていた身体の上半身を起こすと、エドワードが身体をちょっと固くして身構えた。なだめるように腰の辺りをなでながら、己の雄を引く。
「んん……っ…く…、ぁ…はぁ……っ」
 ふるりとふるえた肩をなでてやる。まだ治まり切らない息を吐きながら、エドワードが問うた。
「……んで…、…さきに、いっちゃ…、…の……」
「……ごめン、ちょっと、我慢できなくテ」
 あノ、すいませン、俺を再起不能にするつもりですカ?


 エドワードは身体を重ねるのが苦手だった。感度は良いしある一線を超えるとそれはもう乱れてくれるのだが、そこまでに結構な時間を要する。スキンシップが嫌いなわけではないようで、家族みたいにじゃれ合うときの顔はうれしそうだ。しかしリンがいやらしい接触をしようとすると逃げる。俺はきみといやらしいことばっかりしたいんだヨ!そんなことは言えませんガ。
 言えないけれど行動にはする。逃げ腰のエドワードをなんとか捕まえて、いやがられたらさすがにやめようとは思っているが、エドワードは受け入れようと必死に努力してくれる。そんなときいつもエドワードの指先はつめたい。緊張してるんだナと可哀相に思って、しろい右手の上に堅い右手を重ねてゆっくりゆっくりキスをする。自分の体温とエドワードの体温が混じり合ってゆくのをじっくりと待つ。
 そこのタイミングを見計らうのをしくじると、エドワードの身体がいつまでも開かないのだ。2人ですることなので自分の快楽だけを追うのではなく、エドワードに無理を強いるのではなく、エドワードにもそれなりにこれを好きになって欲しい。初めの頃はエドワードの緊張がひどくて、どうしても自分ばかりが先走ってしまった。そんなときは後からエドワードだけをイかせてやるのだが、上手にできないのは自分のせいだとエドワードはそれを嫌った。上手にしようと思ってくれるだけで嬉しかったし、みないでくれと逃げ場のない身体を己の下でよじらせるのを見るのも、こっそりとリンは好きだったのだが。


「…いっしょ、に……いきたかった…の。…に……」

 エドワードの瞳にうるりとみずが溜まり伏せていたまつげがゆっくりと合わせられてゆく。
 「ア、」勿体なイと口にする間もなく一粒の涙が金のこめかみに吸い込まれていった。

「ごめんネ…」
 かわいいことを言ってくれる。一瞬凹みかけた気持ちが嘘のように心も身体も高ぶってしまう。仕方がない、自分は滑稽なほどにこの女に夢中なのだ。

「ねェ…もう一回してもいイ?」
「ん…っ、…ん…?」
 まなじりに軽いキスを贈りながら尋ねたら、なんだかすごく不思議そうな顔をされた。何で?っていう顔に何ガ?って顔を返しながらもすでに堅くなり始めた己の欲望をなめらかな内股にこすりつける。こんなにきみが欲しいヨ。
「り、リン…!」
「ンー?」
「ぁ…っ、ちょっ……、い、いましたの、に…っ、あ…っ」
 首筋に鎖骨にちゅ、ちゅと音を立ててキスをすればリンのやる気を汲んでエドワードはくちで抗議しながらも受け入れる態勢になった。かわいいおんなダ。

 そういえば、今までは一度したら終わらせていた。だって恐ろしい弟がエドワードの帰りを待っているんだもノ。エドワードとアルフォンスの幼なじみのウィンリィに「裏工作してあげようか?」と持ち掛けられたこともあったが丁重にお断りした。大変魅力的なお誘いだったけどちょっとだいぶ見返りを要求されそうだったし、自分はともかくウィンリィもエドワードもあの弟を欺き切れないだろうナと思ったからだ。この三人はお互いのことに甘いので。恐ろしいのは弟の存在というより下手に信用を失ってエドワードを奪われることだった。あの弟ならやりかねない。
 でも今夜は。

「ん…、ふ…っ……」
「朝までずっと何回も、したイ…」
「え…っ、ひゃっ…ぁあ……っ…!」
 リンの言葉にエドワードは真っ赤になった。早々にトリップしかけていたところを驚いて一瞬素に返ってしまったらしい。軽く立てている膝をなで上げたら身体の反応に精神が追い付かない様子でうろたえている。

「り…リンのえっち…!!」
「…まあネ」
「んっ…ゃ…!ぁ!きゃぁっ…んっ」

 一度開いてしまった身体は従順だった。乳房を下から持ちあげるようにして尖った突起を舐め上げたらエドワードの腰がびくびくと反る。左手だけはそのままに、右手の平で恥丘を覆うようになでるとエドワードは身悶えた。

「ぅん……っあ…っ…あんッ、りん、りん……!」

 割れ目に中指を沿わせてみるとぬるりとそのまま飲み込んでゆく。さらに人差し指で入口をなぞれば、もうすでに入り込めそうにやわらかかった。
「……挿れてもいイ…?」
「…ん、も…っ、きて……っ」
 まだ駄目だと言われても我慢できただろうか。自嘲しながらエドワードの足を高く上げさせて自分の肩に乗せる。
「…ゃ…っこん、な…っ……あ、ん、ぁああ……ん…ッ!」
 先端を埋めただけでエドワードが大きく啼いた。傷を付けたかと思って結合部を確かめると、ひくひくといやらしく蠢いている。
「…気持ちいいノ?エド…?」
「……あ…っあぁん…りん…っ」
 崖の縁で助けを請うように必死にリンにしがみついてくる。限界だった。
「ひゃ……っ、ぅぁ…っ…は、あぁあー…ッ……」
 それでも出来るだけゆっくりと射れてやる。根元まで埋め込めば自然互いの顔が近くなり、エドワードが己の頭を抱きこもうとするので好きにさせてやる。
「……っ、りん……」
 鼻先をうずめた肩がふるふるとふるえてるのがいとしかった。



「…あ、…ぁあっ…、ん!んー…!……はぁっ、…ぁ……」 
 エドワードが一瞬身体を固くした後、ぴくぴくと震えながらゆっくりと身体の力を抜いてゆく。
「…イっタ……?」
「……ん…っ…」
 先刻の様にエドワードが荒い息を整えようとしながら、先程よりもとろりとした仕草でリンを見上げてきた。リンは?と。やっぱりリンはいやらしく笑い返す。
 そして前と違い、そのままリンは再度腰を使い始めたのだ。
「……あ…っ?…うそ……っやぁ……!あ、だめ、」
「…エド…?」
 そうさせているのは自分のくせに、わざとらしく問う。自分も果てが見えてきて、ゆっくりと掻き回していた腰を穿つ動きに変える。
「…あっ…やだ、またイっちゃ…っ…イっちゃう、から……!」
 根元まで深く入れた後、抜いてゆくときに襞がざわざわと絡みついてくるのがたまらない。また雄を押し込むときゅうっと締め付けてくるのでエドワードも快楽を感じでいるはずだと確信をする。絶頂を目指して行為に没頭してしまいそうになるのを留めるのに最早必死だ。
「…くぅっ…、…ん、んーっ、あっ、だめ、だめ…っ、りんッ……」
「……いいヨっ、イって…エド…っ」
「…ぃや……っあ、あぁあー…っ…………っ…」

 一際奥まで突いたとき、しがみつくエドワードの腕がリンの背中に爪を立てた。同時に肉棒をきつく締め上げられてリンも限界を感じる。エドワードの身体がびくびくと跳ねるのを抱えこむように薄い背中に強く腕を回して、リンもエドワードの中で放逐した。


「……ぅ…っ…はァ…」
「………っ…」
「…エド…大丈夫……?」
 ぐんにゃりとシーツに沈み込む細い体に不安を覚える。朝までとかそんな睦言言ってる場合じゃなかった。ひとまずコンドームをはずしてごみ箱に投げ捨ててから、エドワードに寄り添って自分の身体ごとシーツを掛ける。

「エド……?」
「…りんのえっち………」
 汗で張り付いた前髪をよけてやりながら顔を覗きこんだら、ようやくゆっくりと瞳とくちを開いた。すねたような素振りに逆にほっとする。少なくとも傷を付けたりしたわけではなさそうだ。
「やだって…ゆったのに……」
「でモ……気持ち良かったでショ…?」
 かああと音がしそうなくらいエドワードが赤面する。ワ、何か大丈夫かなこレ。
「ちょっと待っテ、水持ってくるかラ」
 慌てて身体を起こしたら右腕にエドワードの右手が絡んできた。
「いいよ……ね、ちょっと」

 この恋人がそんな風に甘えてくるのは珍しい。
「どうしたノ」
「な……オレ、変じゃない…?」
 ?何を訊かれたんだろウ。
「え?最中ノ?エド、超かわいかったヨ」
「超とかゆーな……え、なぁオレ大丈夫?」
 あんな風になって、変じゃない?恥ずかしそうにエドワードは尋ねてくる。
「やなんだよ…あーゆう風になってるの…見られて」
 お前に、嫌われたくない。恥ずかしそうにリンの顔を窺ってくる。

 何を言うのかと思えば、え、何言ってるノこの人。
 ばかみたいにかわいイ。馬鹿はそんなこと考えてる俺だろうカ。

 思わず笑ってしまったら「何だよ!」と怒りだした。でもうまく力が入らないエドワードの、やわらかな右手の上に節だった自分の右手を添えてみる。同じ体温だ。

 リンはエドワードに快楽を覚えさせて行為を好きになって欲しかったのだけど、エドワードは悦楽に溺れる自分を見られるのが嫌いだと言う。いとしいいとしい恋人からリンへ出された宿題は結構難問だった。




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