きんいろひめのお茶会


「エドー!久し振りじゃないー!」
「ウィンリィ!」
 弟に見せるのと同じ笑顔でポニーテールの少女に駆け寄って行くエドワードを、リンとアルフォンスは並んで見守る。あァいいなハグしてル。あっそんなところまで触っちゃうノ!?あっえッ!えェー!?
「ウィンリィ!」
 真っ赤になったエドワードと真っ青になったアルフォンスが同時に叫んだ。あレ、アルフォンスのこんな顔初めて見たナ。幼なじみ3人組はリンが想像していたよりも仲が良いらしい。そろそろエドワードの『一番の友人』に昇格したかとリンは自負していたけれど、『学内で』と頭に付くようだ。



 4月の終わり、中庭でエドワードとアルフォンスとリンは昼食を済ませた後の時間を満喫していた。エドワードが脇に置いていたデザートのタッパーを開いて「今日はオレンジだぜ!」となぜか誇らしげにリンにひと切れ分けてくれた。
 いつも登校途中のコンビニか弁当屋か購買のパンのリンが、以前エドワードに「ひとつちょうだイ」とお願いしてみたらアルが自分の弁当箱から渋々といった様子でイチゴをひとつ差し出した。すると次の日から「母さんが一緒に食べなさいって」とエドワードのやたらギラギラした装飾のついたランチバックの中に、淡いクリーム色にてんとう虫の描かれたタッパーが追加されるようになった。リンのためなのかアルフォンスのデザートを守るためなのか微妙なところだが、同じ物を食すのは親密度アップに一番手っ取り早いというのがリンの持論だ。もちろんアルフォンスもタッパーの中身に手を伸ばすのだが。

「そうだリン、ゴールデンウイークって空いてる日ある?」
 アルフォンスがオレンジの皮を空のタッパーに戻しながら尋ねる。エドワードの食べたオレンジの皮も手ずから取ってタッパーに入れ、アルフォンスはその容器を今度はリンの顔の前に差し出した。
「普通に何の予定もないけド?」
 リンが中身を凝視してたら「ごみ、入れなよ」とアルフォンスはタッパーを揺らした。あぁ何ダ、エドワードのオレンジにかじりつくしろい歯と濡れたくちびるをなめる赤い舌ばかり見ていたのがばれたのかと思っタ。アルフォンスは蓋をしたタッパーをエドワードの弁当箱の中に収納してから、それが自分の特権だと言わんばかりにエドワードの口元を長い指でぬぐい、さらにその指を当然のように舐めた。『あー相変わらずの仲良すぎる姉弟だネ〜』って顔で見て見ぬフリのフリを努める。ちッ今に見てろヨ。で、なんだっテ?



「は〜ナルホドね〜、これはダメだわ〜!」

 初対面の挨拶もそこそこに、ウィンリィはリンを上から下へ下から上へと一往復見てからひとこと目にそうのたまった。

 五月晴れの休日、どこの店も家族連れやカップルで賑わい「ここは穴場なのよ」とウィンリィに連れられてやって来たカフェでメニューを渡され待つこと30分、遅いランチをはさんでようやく4人で向かい合う。
「ねぇねェ、さっきのどういう意味か訊いてもいイ?」
 リンの隣に座るウィンリィはエドワードとはまた違う系統の美少女だった。リンの目線からだと良く見える深い胸の谷間も大変魅力的な女の子なのだろう。ウィンリィの向かいに座りパスタをフォークでくるくると回し自分に丁度良い一口サイズを作ることに夢中になっているエドワードを知らなければ。
「ねーアマトリチャーナって何?ちょっと頂戴よ」
「ピリ辛のトマトソース。ほら、じゃあオレにもオムライスくれよ」
「あノ……」
 女の子って何で2人以上揃うと男の話なんか聞いちゃくれないんだろウ。


「ウィンリィ、ボクも訊きたいんだけど」
「あぁそうそう、今日はその話だったわよね!」
 延々と「エドの制服ブレザーなの?いいなぁセーラーに憧れて入っちゃったけどイマイチ機能性に欠けてさあ」だの「向こうでいい男いた?紹介してよ〜」だの「このバッグずっと欲しかったんだけどこの前やっと買えてー!!」だのと10年振りに会うんじゃないのこの子達?と呆れるほど内容もまとまりもない会話を続け、食後のジェラートを待っているところでウィンリィはやっと男子達と話をする気になったらしい。そもそもどんな用件でこの集いが催されているのかリンは知らなかった。
「あんた達、学校で何て呼ばれてるか知ってる?」
「誰?」
「あんたとあんたとあんた!」
 アルフォンス、リン、エドワードと順に指を指される。



「白王子、黒騎士、金色姫よ!!」



 ……なんだかすごくファンシーな言葉を聞いた気がする。
「え……何それ、どこ情報?」
 さすがのアルフォンスも若干引き気味だ。
「あんた達の学校の女子。同中の子がいてさ。それ聞いたとき私もなんじゃそりゃー!って思ったんだけどね、あんた達見たら変に納得したわ〜」
「納得すんなよ!オレが姫とかねーだろ!!」
「あたしに言ってもしょうがないでしょ。そんであんた達昼休み3人で食べてるんだって?あーもー馬鹿ねー!そりゃエドに友達できないわよ!」
「う……っ、な、何でそれ…!アル!?」
 どうやらそれが本日の主題だったらしい。このシスコンな弟はそれほど姉を不憫に思っていたようだがエドワードにしてみればウィンリィに知られたことは少なからず恥だったようで、きつくにらまれたアルフォンスは「デザート遅いね?」なんて店内を見回してごまかそうとしている。
「アルにしては人選を間違ったわね。リンじゃダメよ、男前2人を侍らせるなんてどんなお姫様ってことよ。そんであんた達3人のお昼休みは何と!きっ、『金色姫のお茶会』って呼ばれてんのよー!あーっははっはっはははは!!」

 ……なるほど。「新入生にかっこいい男の子がいるんだって!」とわざわざアルフォンスを見に来る女子生徒が1年生から3年生までいたが、自分まで巻き込まれていたとはリンも知らなかった。エドワードに女友達ができず、それどころか浮いてしまっているのも頷ける。


「で、どうすんだ。とりあえずオレはこいつらと一緒に飯を食うのをやめればいいのか?」
「そんな!」
「えッ、それはエドが寂しいでショ!?」
 姫は参謀長官の話を聞くことにしたようだが、王子と騎士にはウィンリィが魔女にしか見えない。
「……わー…うざ…っ」
 黙れ、魔女。珍しくアルフォンスとリンの気持ちがシンクロする。
「ふふん、違うわよ。このあだ名を逆手に取るのよ」
 にやりと笑ったウィンリィはとても魔女らしかった。



「エドワードさん!この本ありがとうございます!ずっと探してたんですけど見つからなくて、なるべく早く返しますから!」
「いいよ、シェスカ。親父の蔵書にたまたまあっただけだから気にしないで」
「ねえエド、シャンプー何使ってるの?いいなぁきれいだなあ」
「さぁー…?…家にあるの適当に使ってるだけなんだけど、アルに訊けばわかるんじゃね?ロゼ自分で訊いてみれば?」

 エドワードの周りに女子の塊が出来ている。女の子達はエドワードの髪をいじったりネクタイをリボンに結び直したりしていて、人形遊びの体だ。
 ウィンリィ魔女の作戦はこうだった。「女子はお人形さんでお姫様ごっこするのがお好き☆」
 お人形さんさながらの容姿のエドワードに、姫と呼称されていては確かにぴったりの案だった。ウィンリィと同じ中学だったというシェスカに仕掛けてもらえば、瞬く間に女子の間で流行した。エドワードの性格が男勝りなのもウィンリィの計算のうちだったのだろうか。女子はなぜか男っぽい女子に憧れ、エドワードの容姿をかわいいと褒めては中身をかっこいいと称するのだ。

「白王子も形無しだネ」
「黒騎士だってやることないじゃん」

 かくして、きんいろひめのお茶会は幕を閉じたのだった。




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