小説 | ナノ

もうひとりの君
10
約30体の敵をなんとか掠り傷程度で始末し、
名前はホッと溜息をついた。

「すごいですね、苗字さん!
 これだけ倒したら、もうすぐ100点クリアできるんじゃないですか?」

頬を上気させて "童貞くん"が言う。

「でも、まだ私10点くらいしかとってないし、大丈夫だと思うけど……」

「大丈夫」と言ってしまった自分に驚いた。
ピンチを切り抜けたのは嬉しいけれど、
クリアしてしまったらもう桑原ともお別れだ。
名前はどこかで、このままもう少し
ミッションを続けたいと思っていた。

「それにしても今日は一体ずつがそんなに強くないかわりに、
 やたらと数が多いみたいですね。
 他にも今日でクリアできる人、いるんじゃないでしょうか」

名前はハッとした。
と、同時に駆け出していた。
確か桑原は前回で80点台に達していたはず。

「桑原ーー!!!!!」

全力で駆けていた。
ビルの合間を走り抜け、桑原の姿を探す。

「どないしたん?慌てて」

すれ違いざま、杏が声をかける。
名前は肩で大きく息をする。

「ハァッ…ハァッ…あ、杏ちゃん。桑原どこにおるか知らへん?」

「え?ああ、さっきあっちの方で……」

「ありがとっ!ほな、また後でね」

杏の指差す方へ再び走り出した。




前方に星人の屍骸が山積みになっていた。
その上に腰かけてタバコをふかす男の姿があった。

「桑原……これ……全部一人で……?」

ザッと数えて15体はある。
1匹2点のザコだったとしても、これで確実にクリアだ。

「おう、すごいやろ?」

桑原は吸殻を投げ捨てると、
屍骸の山から軽やかに飛び降りた。


「どないしたん?ずいぶん走ってきたみたいやけど」

「桑原、あのな、私……」

体当たりするように、桑原に抱きついた。

「アンタのことが好き。このまま別れるなんて嫌や」

回した腕にギュッと力を込める。

「いつかクリアして記憶を消されてもええから、
 それまででもええから、付き合って」

桑原は、名前の頭をクシャッと撫でた。

「おれ、他の女ともヤるかもしれへんで?
 相手が人間とは限らへんけど」

「それは嫌だけど……でもしょうがないから
 私の見てない所でだけにして」

名前は口を尖らせて桑原の胸に顔を埋めた。
桑原はフッと笑って目を細めた。

「冗談やって。ホンマかわええな、おまえは。
 そこまで言われたら、おれも降参や」

頭を撫でていた大きな手のひらが、
スッと頬に滑り降りた。
名前が顔を上げると、桑原の唇がそっと重なった。

「どこか誰もこないところに行こう。建物の中とか」

顔を真っ赤にして名前が呟く。

「ミッション終わってからやのうで、今すぐに?」

名前はコクンと頷く。
焦っていた。時間がない。桑原は今日でクリアして
100点メニューで解放を選ぶかもしれない。
むしろ続けるリスクを考えると、ぜひ解放を選んでほしい。
そうしたら本当に今回しかないのだ。
解放されれば、桑原は自分のことを忘れてしまう。




飛び込んだ雑居ビルの1階はプールバーだった。
互いにガンツスーツを脱ぎ、
ビリヤード台の上で体を重ねた。

桑原は壊れ物を扱うかのように優しく名前に触れた。
丁寧に愛撫され思わず声を漏らすと、
桑原は愛おしそうにまなじりを下げた。

充分過ぎるほどの前戯のあとで、
桑原の大きく張り詰めた性器が侵入してくる。
ゆっくり様子をうかがうように抜き差しされ、
名前の中をじんわりと快感が駆け抜けた。

「桑原……ええよ、もっと好きにして」

もっと乱暴なセックスをすると思っていた。
実際に前回レイプ現場に遭遇してしまった時、
桑原はもっと自分本位に動いていた。

「ハァッ…アホか」

動きを止め、桑原が少し熱のこもったため息をつく。

「おれかて好きな女とヤる時には
 相手のことくらい考えるわ。それに……」

緩やかに前後運動を再開する。
桑原が眉間に皺を寄せた。

「このままでも、めっちゃ気持ちええで」

それは名前も同じだった。
名前にだって、これまでに何人か付き合った男はいた。
だけどいつもセックスは相手がしたがるから
半分仕方なしに付き合っているようなものだった。
一生懸命してくれても、それほど気持ち良いと思えなかった。
いつも心と体を切り離したように、
ただ相手が射精するのを無心で待った。

だけど今は違う。
心と体が溶けて一つになったみたいだった。
好きだという気持ちが体中に染みわたって、
それが感度を上げているかのようだった。

「んっ……いきそう」

名前が言うと、桑原はひとつキスを落として、
指を絡めて手を繋ぐと、より深くを突いてきた。

「あっ…桑原…もうダメ……っ!!」

ズンズンと子宮口を刺激され、
体がビクビクと震えてしまう。
それを押さえつけるように、
覆いかぶさるような姿勢で抱きしめられる。

「ハァッ 桑原っ!」

背中にしがみついて果てた。
桑原が、グッタリと全身の力の抜けた
名前の額にキスしてくれた。
これが最初で最後になるかもしれないなんて考えたくなかった。




(あとがき)桑原さんのキャラねつ造ですみません。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -