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もうひとりの君
11

"黒アメちゃん" の部屋で、メンバー達は採点結果の発表を見守っていた。
今回は誰も脱落者はいなかった。
いつもならホッとする瞬間なのだけれど、名前は神妙な面持ちだった。

やっと思いを伝えて結ばれたのに、桑原はきっとクリアして解放を選ぶ。
そうしたらここで体験した全てを記憶から消されてしまう。
名前のことも。体を重ねたことも。


『ほな ちぃてん はじめるでぇ〜〜〜』

いつもの緊張感に欠けたふざけたメッセージ。


岡 37点 TOTAL 118点で新しい武器を選択。
花木 23点 TOTAL 105点で同じく新しい武器を選択。

室谷と島木も今回それなりに稼ぎ、次回で100点を超すだろう。

名前 45点 TOTAL 61点。
美保とスミ子が「おぉっ!」と声を上げ、
「いっつも1ケタの名前が目覚めた!」と囃し立てた。


そして桑原の番。

名前は指先が冷たく痺れた。
呼吸が浅くなる。
ミッションを続ける限り命の危険はつきまとうので、
桑原には解放を選んでほしい。だけど胸が潰れそうになる。


"黒アメちゃん"に桑原の似顔絵と「ド変態」の文字。

結果の表示が出るまでなんて一瞬なのに、とても長く感じた。

桑原の得点 34点 TOTAL 112点

良かったね、おめでとう、と声をかけたいのに、
名前は何も言えなかった。
見間違いじゃないかと、"黒アメちゃん"を何度も確認した。

100点メニューが表示される。

1.記憶を消されて解放される
2.より強力な武器を与えられる
3.メモリーの中から人間を再生する

1番を選んでほしい気持ちと、
行かないでほしいという願いがぶつかりあう。


「……2」

名前は弾かれた様に顔を上げた。
"黒アメちゃん"の中から刀のようなものが出てくる。
桑原はそれを手に取ると、たいして興味もなさそうに眺めた。






「なんで1を選ばへんかったの!」

帰り道、名前は桑原の広い背中をポカポカと叩いた。

「またやり直しやん!
 せっかくここまで無事に生き延びたのに!」

桑原は自分より頭ひとつ分以上小さい名前を
肩越しに振り返った。

「おまえがクリアするまで、俺もやめへんで」

「何言うてんの!私のクリア待ってたら
 いつになるかわからへんで。
 待ってなくていいから早よクリアしてよ」

嬉しい気持ちは勿論あった。
だけどそれで桑原が危険な目に遭う可能性があるのは嫌だった。
名前は今まで何度も命を落としたメンバーを見てきた。
もし桑原が戻ってこなかったら、悔やんでも悔やみきれない。

名前の心配をよそに、
桑原はニヤリと余裕の笑みを浮かべた。

「やっと我慢せんでも良うなったのに、
 たった一度でクリアしたら勿体ないやろ」

言葉の意味を把握して、名前の頬が真っ赤に染まる。

「そんなこと言うてる場合ちゃうやろ!」

桑原は照れ隠しに怒って見せる名前の頭を
抱え込むように胸に押し付けた。

「今からウチ来るか?」

その誘いに、嫌なんて言えるわけがなかった。







桑原の部屋は想像以上にずっと普通だった。
散らかってもいないし、神経質過ぎる感じもしない。
ベッドも朝起きてちゃんと直したらしく、
抜け出したままの形で掛布団が捲れたりもしていない。

液晶テレビがあって、デスクトップ型のパソコンがあって、
ステレオがあって、結構な量のCDやDVDがある。
目立ったところでは、英語の辞書やテキストが普通より少し多いくらいだろうか。

「案外ちゃんと生活してんねんな」

一通りグルッと見渡したところで、
後ろから桑原に抱きしめられた。

「部屋ん中なんか後でいくらでも見たらええやん」

耳たぶに唇が触れて、ゾクッとする。

「名前、ええニオイするな」

耳のうしろ、首筋と唇を押し当てられ、
それから顎を掬って振り向かされるようにキスをした。
向き直り、何度か啄むように唇が重なってから、舌が入ってくる。
下唇を舐め上げ、歯の裏をなぞり、
舌先をくすぐりあって、それから絡みついてくる。

じれったくなるほど長いキスだった。
桑原とこんなに近くにいて、桑原のニオイがして、
舌や唇が触れ合っているかと思うと、
名前は気持ちが急いて仕方がなかった。
早くひとつになりたくてたまらない。

片手は桑原の背中に回し、
片手で衣服の上から少し硬くなっているそこを撫でる。
やわやわと擦ると、硬さと大きさが増した。

「名前、そんなんされたら
 気持ち良くてサッサと出したなってくる」

名前の手の動きを止めて、桑原は息を吐く。

「さっきは慌ただしかったやろ。
 今度はゆっくり時間かけよう」

もう軽く唇を合わせて、それから顎、首筋、鎖骨と順にキスしていく。
桑原の左手がTシャツの上から胸を鷲掴みにして揉みしだく。
右手は背中のホックを探る。
プツンという音がしてそれが外れると、
シャツと一緒に捲り上げて舌を這わせた。
柔らかかったそこがツンと硬くなると、
口に含んで吸ったり舐め上げたりした。

「んっ……」

名前は甘い溜息を漏らす。
ほんの2時間ほど前にしたばかりなのに
抑えようのないほど気持ちが昂る。

桑原の腰が名前に密着する。
窮屈そうなほどに膨張していた。

「おまえのせいでギンギンになってもうたやろ」

「私もガマンできない」

「ゆっくりするのは三戦目な」

慌ただしく脱がせ合って、ベッドにもつれ込んだ。




(あとがき)完結までもう少しお付き合いください。


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