■ 6


「それ、……何か作るんですか」

二人でお社の前に座り、
山のようにつまれた木の板を指差して尋ねる。
頭をガシガシとかいた銀さんは、こちらを見ることもなく、
べつに、と呟く。
「あんなに喜ばれるとは思ってなかったっつーか、」
と、こちらから顔を背けてしまう。

「あれじゃ賽銭箱すら入らねーだろ」
とばつが悪そうにつき出された唇になんだか胸がくすぐったくなる。

「わたしも、一緒にさせてもらっても良いですか」

鼻をほじり黙りこむ銀さんを、了承の返事だと受け取って、腰を持ち上げ砂を払う。
少しだけ舞う砂ぼこりは、まるで浮き足たつ私の心みたいだ。

「……やっぱりお前、名前なワケ?」
いつもの気だる気な目を向けられる。
「そうですよ」
とコテンと首を傾けた。
銀さんはただでさえやる気の無い死人かと見まごう目をさらにどんよりとさせる。
「人じゃないので。わりと、何でもありですよ」
にぱっと悪戯っぽく微笑んで見せて、銀さんに人形にならないでいたワケをさっくりと話す。
「こう、神様や神使には、信仰して貰うと力が宿るんですけど、極限までその力を貰わずに居ると、狐にすらも戻れないんですよ。でもここには誰も手を合わせたり、来なかったから。人形になってでも人の生活で交わって、ありがとうの言葉だけでも貰わないと、私は行きては行けなかったんです。」
神様の使いであるはずなのに。それが、
無様でしょ。
胸に燻るものを吐き出すように、ハッと鼻をならすと、彼の瞳がゆらりと揺れるのが目に入った。

「俺には神様とか、その神使っつーのとして正しいことはよくわかんねーけど、一生懸命に生きてる姿を無様と心の底から思うやつはいねぇよ。それは人でも神様でもオンナジだろ」

銀さんは、たまにこうやって、深いような、そうでもないようなやっぱり深いような事を言う。
それが、どこか心地よい。
こうやってスッと心に跡を残していくくせに、どこかで人と深く関わることを拒絶している。
ズルい人だ。
これで人タラシなのだから、本当にたちの悪い。

銀さんに向けて、手をさしだす。

「はじめませんか」

にっこり、と音がつくかのように笑ってみせる。

そんな人タラシにタラされた私の強がりである。



木々に打ち返されるように、カンカンガンガン、金槌を振り下ろす音が響く。
「ちょ、お前神様なんだろォ?ぱぱぱーっと一晩で法隆寺建ててくれぇー」
やる気の無い声も響き渡っている。
「何度も言いますが、私は神使で、神様ではありません。さらに言うとここは神も不在です。あと、漫画も違う作品です」
同じ返事を返しながら、こちらも無心で金槌を降り続けた。

それこそ1日中振り続け、腕も痛んできたところで二人、家路につく。

そんなこんなを雨の日も風の日も晴れの日も続けて、

「出来ましたね!!銀さん!」
「まあ、不細工アルな」
「いや、ホラ。これなら賽銭箱も置けるしィ?あのでっかい鈴?つけられるしィ?屋根もあるしィ?何より、人が入れる!」
腕を組み、腰に手をあて、屋根を見上げる彼らに少しばかりの礼をする。
「本当にありがとうございます。」
皆がお社を建ててくれたお陰で、今までの比ではないくらいに力が漲ってくる。
お社に手をかざし、貰った力のすべてをふりかざす。
どこからともなく、リィンリィンしゃんしゃんしゃんと金の声。
ぶわりと風を舞い上げて、社の屋根を覆わんばかりに広がっていた草木が、避けるように陽の通り道をあけていく。
渦を巻く風を手で整し、お社へと取り込んでいく。

「凄いアル……」
「風を、飲み込んでるみたいです……ね、」
「おい見ろ!あれ俺が作ったんだぞ!」
「「……」」
「お願いツッコんでェェエ!」

一際大きく風が凪ぎ、ふわふわと、舞い上がっていた土や葉が、ひらりはらりと地に居場所をみつけつく。

「とても、良いお社が出来ました。本当に、ありがとうございます。」
三つ指をつき、頭を下げた。

「や、やめてください!!こっちの方がいつもお世話になってるんですから!」
焦る新八君に同意するように頷く神楽ちゃん。
黙ったままの銀さんの視線を追って、皆がお社を見る。

「…………銀さん、」
「……」
「……あ、あのォ、」
「「形まで変わってますけどォォ?!」」
「……それだけ不恰好だったね。仕方ないアルな」
やんややんやと騒ぐ皆さんに、
ようやっと自分の帰る場所が出来たことを告げる。
「あとは、これを中に入れたら、完成です。」
大切に持ち上げたのは、いつか銀さんが持ってきてくれた、小さなお社。
これまた不恰好なお社ではあったが、これを本殿として、中に奉ることにした。
これなら主も、喜んでくれる。
そうでしょう?
だから、どうか
帰って来てください。
ここに、帰って来てください。

リィンリィンと、一晩中、
銀さんたちが帰っても、
金をならし続けた。


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