■ 4

コトン、と今朝も朝御飯として米と卵が目の前に出された。
有り難くお供え物として信心を頂き、その食器をそのまま神楽ちゃんに渡す。

「いつもごめんネ名前。ありがとうネ」

と、独特の訛りを効かせながら米を平らげていく。

「いやぁ、本当に良いお狐様だわぁ、食費も要らねぇのに、こう、なんつーの?ちょっとした幸福もたらしてくれる感じ?本当ありがてぇ。神様狐様名前様」

手を擦り合わせながら頭を下げる坂田銀時に、少しだけジト目を向けながらも、こちらこそそんなに手を合わせてくださって、と心の中でだけ感謝をする。

新八君と神楽ちゃんが、今日はお社跡に来て掃除をしてくれるとありがたい申し出をくれたので、案内がてら先を歩く。
もちろん、今日は狐の姿のままである。

「ここ、……ですか」
「なんだか、ちょっと寂しいところネ」

と、空を見上げる彼らに、ほんの少しだけ良いものを見せてやるか、と掃除後に予定していたが、先に神力を使って辺りを清める。

薄暗く、湿っぽく陰って見えた私の立つ台座と、かつてもう一つ立っていた台座、さらにはお社の立っていた付近に向かって陽の光が差し込み、土埃をそっと救ってキラキラと煌めく。
そよそよと風が吹き、木の葉を揺らして鳥が囀ずる。
涼しく、少し冷たくも感じる風がふわっと、お社の跡向かって渦を巻くように吹く。

「……!!綺麗ネ」
「わっ!!……凄い。これ、名前さんが……?」

コクンと頷くと、二人は少しはしゃいで、楽しそうに掃除をしてくれる。

「やっぱり名前は凄い狐様ネ!」

にこり、と微笑まれた顔に素直に喜べなかった。
(本当に私が凄ければ良かったのに。)
サクサク、と草を踏みしめる足音に驚き、サッと台座に乗って石になる。

「「(やっぱり凄いよ!)」」

「おー。やってっかー。」

現れたのは銀さんで、肩には彼の家にあるものよりも、大分大きな木で作られた家型。

「銀さん!」「銀ちゃん!」

振り返った二人は、神秘的なものを見せてもらっただのなんだの言いながら彼に言い寄って行くが、
私の耳には入ってこなかった。
彼が、そっ、とお社跡に置いたそれの前に立ち、私はさめざめと泣いた。

主様。主様。あなたは神様ではなかったけれど、
好んでくれる人はいなかったけれど、
私はきちんとあなたを慕っておりました。もちろん今も。
それだけではいけなかったのですか。
それだけだからいけないのですか。
こうして、手を合わせてくれる人ができましたよ。
だから、どうか、どうぞ戻ってきてください。
立派な、立派なお社が、建ちましたよ。

コーン、コーン、と鳴く私の声が天高く響き渡る。


しばらく鳴いて、いつもの柱に身体をすり付けた。
これからも、どうぞ宜しくお願いします。

「銀さん、神楽ちゃん、新八君、どうもありがとう。このご恩は、何をしても返しきれません。」

頭を垂れると、
ポンポン、とまた頭に暖かい重み。

「なに水くせーこと言ってんだ。今日も家に、けーるぞ。」
「そうヨ!私達は絶対に名前を一人にしたりしないネ!」
「掃除も終わった事ですし、皆で帰りましょう!」

「名前」「名前、行くヨー!」「名前さん、」

みんなが私を呼んでくれる。
遥か昔に呼んで貰うことの無くなったこの名前を。
とても嬉しくて、また、コン。と、一つ鳴いた。



「銀ちゃぁん、名前お風呂まだあがって来ないヨ」
「入ってまだ5分と経ってねーよ」
なんて声を聞きながら、風呂へと足を伸ばす。
今日も今日とて坂田低で有り難く夜を過ごさせてもらう事になり、下に住んでおられる お登勢さんにも挨拶が出来た。
そこでお酒をご馳走になった事で、また神力が戻ってきた。
風呂は人形の方が、都合が良い。
ドアをくぐると同時に人形になり、銀さんに倣った湯浴みをする。
(……これが、しゃんぷう。そのあとに、こんでぃしょなぁ、これが、ぼでぃそおぷ)
覚えている容器を、順番を間違えないように並べて、頭を洗う。
とても気持ちが良い。
もう少し神力が戻れば、この額の傷はもとより、湯浴み等しなくても常に清潔でいられるだろうな、と浮き足立った気持ちでしゃんぷうで頭を擦り、流していく。

湯船に浸かり、十を数えたりしながら久しぶりの水遊びを少しして、満足をしたところで脱衣所へと出る。
と、ガラリ、と無造作に扉を開けられた。
と思うと、またもピシャン!!と凄い勢いで扉を閉められた。
(……み、見られた!!!)

「スンマセェェエン!!……え!?てか誰?!めっちゃ美味しいラッキースケベだったけど、え!?誰?!」

もう一度ソッと開いた扉に、「なにもなかったですよ、」とでも言うように狐の姿を見せる。

「コン、……何ですか、銀さん」

「……あれぇ?お、お、お、おかしいなぁ、なんかスッゴい好みの美女が立ってた気がしたんだけどなぁ……アハハハハハァ」
幻覚かなぁ、最近断糖してたからなぁ、アハハハハハ、
とかなんとか言っている銀さんの足元をすり抜けて神楽ちゃんのもとへ行く。

(……好みの、美女、だって……。)
私も女だ。
誉められて照れないはずがない。
嬉しくない筈がない。

神楽ちゃんにおやすみを言って、銀さんの布団へと潜り込んだ。

(とても、照れます。)

寒くなってきたし、足元を暖めて置いてやろう、ただそれだけのつもりだったのに、銀さんのにおいに包まれて、ポカポカと暖かい布団に、私の瞼は開いていてはくれなかった。



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