■ 3

トントン、トントントンと金槌を振るう音が夜の開けた空に響き渡る。

うるさいと、怒りにきた妙齢の女性を無理矢理家に返し、
歪な形の小さな神棚を作り上げた。

また、瞳が潤む。
さっそく、と言わんばかりに私はペロペロと出来たばかりの小さな小さなお社をなめる。
これで私のお手付きだ。
誰も入れてあげない。
私だけのお社。

「あ!舐めちゃったネ!銀ちゃん、トイレ言って手洗ってなかったのに!」
「ちょ!ヤメロよ!黙ってれば……あー。アハハハハァ」

出してくれていたお水で口を執拗にすすいだ。

またコロコロとさせてもらっていると、メガネ君が訪ねてくる。

「おはようございます、あ、珍しい。二人とも起きてるんですね」

さっさとご飯作っちゃいますね。
とお勝手口に立った。
なんだか三人の関係性が見えてきたあたりで、神楽ちゃんが口を開く。

「そういえばお狐様ァ、お風呂最後に入ったのいつアルか?ちょっとにおうアル」
「ちょ!神楽ちゃん!!ダイレクトすぎ!ていうか、銀さん、何で夜入れて無いんですか」
「あー?夜なべして作ってたんだよ。見りゃわかんだろ」

風呂行くか、とショックをうけて動けない私を抱き上げて風呂場へと連れていく。


「……キャン!!!」


「……ちょ!」

初めて見た男性の恥体に動揺して跳び跳ねた。
何が何故どうなったのか、男は……いや、銀さんは素っ裸で股間を押さえ、うずくまってしまった。
カラカラ、と脱衣所の扉が開き、またピシャッと閉められる。

「神楽ちゃん、どうだった?大丈夫だった?」
「大丈夫ネ。チャックに皮はさめただけアル」
えええ、という声をお尻に受け止めながら坂田銀時はピクピクと未だに倒れている。
尾を擦り付け、少しだけ力を分けてあげる。
お風呂とやらに、私は入りたいのだ。

パチャパチャと、かけられるお湯の、何と気持ちの良いこと。

湯浴みを終えると、食卓に並ぶご飯に目が輝き、尾が揺れる。
(また、お供え物!!)

ぴょんぴょんとそふぁに飛び乗って、皆で頂きますをする。
物理的に食べる必要は特に無いけれど、皆と同じことが出来る、それがなんだか嬉しくて、くすぐったい。

食事を終えたら、皆にペコリ、と頭を下げて「お社に帰る」と伝える。

「え!帰っちゃうアルか?ずっとここに居れば良いヨ!皆でご飯食べたいネ」
しゅん、とする神楽ちゃんの手をペロリとなめる。
(この子達に、加護がありますように。)
神ほどの力は無いけれど、彼女がこれでほんの少しだけ、いつもより幸福な気持ちになってくれればいい。
いつでも帰ってこいよ、銀さん の優しい声に尾をふりペコリと、また頭を垂れた。
神使としての威厳はどこに消えてしまったのだろうか。


そうして帰ってきたお社跡に、人形に姿を変えて、いつもより晴れやかな気持ちでまた歩を進めたのだ。

カサカサと、箒で落ち葉や木屑、ゴミを掃き出して少しだけの神力で地を清める。

綺麗になったお社跡にまた腰を落ち着けて、石に戻ろうとした時に、身体がふわり、と軽くなった。

(……また、だ。)

きっと、あの三人の誰かだ。
もしくは皆か。
手を合わせるなり、供物なりを供えてくれたのだろう。
心がポカポカと、暖かくなる。

(……帰りたい。)

あの三人の元に、帰りたい。
たったの1日2日。
なのに、あの優しさに触れると、戻れなくなる。
またあの暖かい優しさに触れたくなる。

ぽつり、ぽつりと降る雨に。
パタパタと、顔を濡らす。

カサリ、と鳴る足音に顔を向けると、目を見開くふわふわ頭。
銀さんに、にこり、と微笑み狐に姿を変える。
銀さんは目を擦り、またこちらを見る。
あれ?と首をかしげて、またこちらを見る。

「……どうしたんですか?」

こちらもコテン、と首を傾ける。

「神楽が、雨降ってるから持ってけって、うるせェんだよ」
そう言ってパッと開いた傘を差し出して、私の周りの雨がやむ。
神楽ちゃんの優しい蒼い目を思い出してくすぐったくなる。
「……帰ってこいよ」

ぶっきらぼうに投げつけられた言葉に、また心から気持ちが溢れる。

私の帰る場所はここのはずなのにな。
くすぐったくて、気持ちの良い。
せっかく出してくれた傘から抜け出し、くるり、と銀さんの足元を回ると、抱き上げられる。

さ、けーるぞ。

返事を返すように、小さく小さく、コン、と鳴いた。



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