小説 | ナノ


名字名前
その者は『鬼殺隊の金太郎』と言われ、名を馳せていた。
実力だけなら柱にも匹敵するのでは?
等と言われるようになったのはつい最近の事である。


共同任務。
今日は名前の苦手とするその共同任務の日であった。
柱の継子である「ウズイ」と名乗った男との任務である。

名前は間抜けで学もない。
頭も宜しくはないが、馬鹿ではない。

ので、不死川実弥の言いつけをきちんと守っていた。
烏は焼いて食べない。
共同任務の時は、ドスを使う。

烏の案内でなんとかかんとか合流地点へと向かい、鬼の寝蔵に入る。
洞窟のようになっているそれ。
入り口にドスン、と鉞を落としてスタスタと歩いていく名前にウズイもとい、宇髄天元は呆気にとられた。

まぁ、何かしら考えが有るのだろう、と
深くは追及せずに「ここに隠れているはずだ」と己が伝えた穴へと女と共に入っていった。

先をズンズンと歩いていた女、もとい名前はスッと腰を落とした。
バッ、と隊服の上を脱ぎ去り

「炎の呼吸、壱の型 不死火」

女とは、思えぬほどの力強い踏み込みと袈裟斬り。

ほぅ、と宇髄は驚嘆した。
いつか見た獅子のような隊士を思い出したのである。

なんとか少女から逃げおおせた鬼を、自身も刃を振り抜く。
ゴウ!!という音とともに刃を落とすも、すばしっこいそれは自身の刃からもヒラリと身を交わして洞窟から抜け出してしまう。
と、同時に黒い塊。
それが少女だと気付いた頃には少女は鉞を担ぎ直し、

「斧の呼吸、壱の型!」

ブゥン、と言う音と共に投げ込まれる鉞。
それを追うように宇髄も名前も走った。

そして、ドスで鬼を木にはりつけ

「ウズイ!!」
「応!」

ドカーン

と轟音と共に戦いは結末を迎えた。

パッと両掌を見せてくる宇髄に、名前はビクりと肩を跳ねあげる。

「ん」
「……うん」

よくわからなかったけれど、そっと手を合わせた。
満足気に笑ったウズイは

「しっかし、お前派手に良い脱ぎっぷりだな!」
「剣術は、脱ぐ」
「そうかそうか!それ良いなぁ!!俺様も派手に脱いでやるか!!」


爆薬をぽろぽろと落として爆煙と共に隊服を脱ぎ落とす。

「ハッハー!!どうだ!!派手にイカすだろう!!」
「良いな。私もバーンって、やる。」
「ほぅ、お前良いところに目をつけるなァ!」

やんや、やんや

二人はとても気が合うようであった。

「お前、柱になりたいか?」
「柱は、槇寿郎。次は杏寿郎。私は桃太郎。」
「派手にわからん!!」
「……お供を探してる。鬼ヶ島に行く。」
「……お前変な奴だな。ほれ、服着ろ」
「うん。これ、ここ。」

服を着ながら、名前は宇髄に桃太郎の話を教えてやる。

「つまり、お前の恩人が鬼退治してるからその親玉を倒しに鬼ヶ島へ行きたい、と派手にそういうこったな!」
「ウズイすごい!そうだ」

この少女は、見た目に反して頭の中身は少ないらしい。

「発展途上ってやつだな。」

宇髄は近々サラシのようなものを送ろうと決めたのはこの日であった。

「あとお前臭ぇから、派手に風呂に入れ!連れていってやる」
「……水は、浴びてる」

名前は、鬼殺隊人生丸二年にして、三度目の藤の家紋の家を訪ねたのであった。


「お、派手に久しいな!胡蝶!」
「あら、宇髄さん」

胡蝶カナエと名乗った美しい女人は宇髄と少し話してから、
名前に声をかけ、共に湯浴みを申し出てくれたのであった。



胡蝶カナエの意に反して、
名字名前その人は綺麗に湯浴みをする女であった。
見た目は荒々しいものの、繊細な手つきで体を清めていく。
その様子に、決して不潔を感じることはなく
胡蝶カナエはどうしたものか、と見ていた。
ふ、と
その背中が目に入ったときに背筋を嫌なものが駆け抜けた。

鬼殺隊に入る者は皆後ろ暗いことを抱えている。
鬼に身内を殺された。
天涯孤独の身となった。
親に虐待されていた。

色々を知ってはいる。
けれど、目にするのはまたちがう。

背中中に刻まれた『正』の文字。
何の数を数えているのか謎はわからない。
聞く気もない。
そこまで踏み込める仲でもない。

けれど何故だか放っておいてはいけない。そんな使命感のような、何かが彼女の中にわいている。

「……これは、どうしたの」
「…?あぁ……えっと…うーん。弱いから。」

と自分を指差してあっけらかんと答えた少女に胡蝶カナエは胸がツキツキと痛む。
そ、と傷を指でなぞる。

「……もう、痛くない?」
「わからない」

そう言って、触れられたくないのか身を捩って逃げ、風呂場を出ようとする。

「あ、入りましょうよ!」
「……名前は、入っても良いの」

首を傾げた少女に、胡蝶カナエは始めて少女の名前を知る。

「ええ。一緒に、はいりましょう」

とてとてと戻って来た名前は、湯船の前で三つ指をつき、
頭を地に擦り付け始めた。

「ありがとうございます。」
「や、やめて!!そんなこと!!良いのよ!!堂々と入って!これは、当然の権利なのだから!」

胡蝶はグイィと名前の腕を掴みあげて持ち上げようとするも、体がびくとも動かない。


何とか湯船に連れ込み、
この家の風呂は好きに使って良い事や入る前の例は要らないこと、例をするときに額を擦り付けなくても良いことをこんこんと教えてやる。

そんな声が、宇髄の元まで届いていたことは誰も知ることはない。

そうして、宇髄が何となく名前の過去を察していた事も誰も知らない。


食事時には、宇髄と胡蝶は目を剥いた。
おおよそ一般の隊士とは似ても似つかない所作の落ち着きように、
非の打ち所のない箸さばき。

『綺麗な食べ方』

の見本そのもののような。

「お前派手に綺麗に食うな!」
「お父様やお母様がしっかりしておられたのね、」
「………………」

他意は無かったのであろう二人の言葉。
けれど名前は胸が痛くなるのを感じた。
胸に手を当てて、考える。
私は二人に似ているのか?
槇寿郎さんではなく?
瑠火さんでもなく?
小芭内や、杏寿郎や、千寿郎でもなく?

不愉快な気持ちが沸き上がり、喉元から飛び出しそうになる。
名前はそう感じるのだけれど、どう処理をすれば良いのか、この感情が何かもわからない。

二人はイイ人だから、メイワクをかけてはいけない、と思っていたのに、
このままではメイワクになるのではないか。

ぱくぱくとご飯を黙って食べて、

「ありがとうございました、ご馳走様でした。」

いつものくせで額を擦り付け、
逃げるように部屋を出た。



真夜中と呼ぶのに相応しい暗闇で、
先程の不快感を隠すように、服を脱いで
ビュッ、ビュッ、
とドスを奮う。
こういう胸がいっぱいな時は『鍛練』をすると、少しだけ頭がスッキリするからだ。
少女はそれを知っていた。


そんな少女を、部屋の窓から眺めながら、

「悪いことを、しちゃったわ。」
「お前は悪くねえよ」

と、宇髄と胡蝶は言葉を交わす。

暫く鍛練の様子を眺めていた宇髄は、そろそろ休めと声をかけに部屋から出たところで
いつか見かけた獅子のような髪の少年が駆けてくるのを見た。

宇髄が声を出すよりも早く、さらにはその声を掻き消すかのごとく

「名前!!何かあったのか!!あと、服を着ろと言っているだろう!!」

少女を見て掴みかかった。

「……杏寿郎!杏寿郎!!!杏寿郎!!!!」
「あぁ、あぁ。久しいな!これを羽織りなさい。」

その少年は近くに立っていた宇髄に、連れが世話になった。と頭を下げた。

「……杏寿郎?悪いことした?名前悪い?ごめんなさい。ごめんなさい。」

言いながら、沢山の傷の残る両の腕を杏寿郎と呼ばれる少年に差し出す。
宇髄は少年の顔を見て、その美しい顔を歪めた。
少年は、酷く悲しそうな顔を隠しもしない。

「名前、君は悪くない!帰ろう、名前。俺たちの家に。父上は、ずっと君を探していたんだ。きっと父上も喜ばれる!」
「…………帰って、良いの」

首を傾げた名前に頷いた少年の顔は暖かな晴れやかな顔をしていた。
と後に宇髄は語った。

「世話になった。」
「いや、いい。楽しかったぜ名前」

これが宇髄と煉獄杏寿郎の始めての会話であった。


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