小説 | ナノ

今日も私、嗣永秋が報告を務めます。

以前ご紹介しました通り、風柱様と名前はお二人で世界を創りあげている事には何ら変わりありません。
少しばかり進展が見られたのでご報告の為に筆を執った次第にございます。

あれは、少し前のことでした。

名前は時折おかしな事を言います。
「くりすますぱあてぇい」から始まり、
「ざっはとるて」
「かうんとだうん」
「紅白ウタガッセン」
名前と居ると、よくわからない言葉ばかり覚えそうな程にそれはそれは吹き込んできます。
まあ、彼女が年末が近づくと同時に良く呟くようになったので、風柱様も私も、何となく『年末年始』の行事の某を、彼女お得意の横文字やら何やらで言っているのだろう、とは察しが着きました。
彼女は意外なことに博識で、たまにその知識量には感嘆のため息を零しそうになるのですが、「すまほ」とやらのおかげなのだと笑って言います。
そのすまほはとても便利なものだそうで、鬼殺隊にも貢献できる何某かと聞いては見たのですが、よくわからない、と返されてしまいました。
彼女が答えられないのならお手上げです。
話が逸れましたね。
兎に角、彼女は年末年始をいたく楽しみにしていたのです。
それも察知されたのでしょう風柱様は私に

「年始は、俺が帰ってきてたらお前は休め。俺があいつを見ておく」

と言われましたが、
恐らく、『年始くらいはどこかに連れて行ってやろうと考えているから、お前は空気を読んでほしい』と言われたと解釈します。
最近分かった事ですが、彼は身内と認めた者には非常に甘いです。
けれど、それはあくまでもこうやって遠回りにやってくる優しさなものですから、優しくされても気付きにくいんですね。
風柱様は損なお方です。

つまり、風柱様は彼女と、名前と逢引き、巷で言うところのデェトをしたいのでしょう。
異論は認めません。
名前にも楽しんでもらいたかったので、その話を聞いた翌日、私は彼女に新しい振袖を買い与えておきました。
勿論、風柱様のお持ちの羽織ものと対に見えるような物を選んでおきましたし、遠目に見れば夫婦のようにも見えるのではないかしら、とも思います。
寧ろそう見えて何か面白いことがあると私が楽しめます。
まあ、彼女は良いとして、風柱様は女性の扱いにはあまり慣れておられないようですから、そこは少しばかり心配でした。

兎に角、名前には幸せになってもらいたいし、風柱様がその気に見えるので、私はお二人のデェトを応援したくなっておりました。

そういうわけで、その日はふらついて屋台を冷かしたり、行けていなかった両親の墓に挨拶に行ったりと、とにかく私も暇を潰してはいたのですが、日も沈んできましたし、そろそろ邸宅の方へと戻ることにしたのです。
もう少し、遅くに戻れば良かったのですが、まあ、私は間が悪かったようで、玄関を開くと、今にも接吻をしそうな程にくっついておられる二人がそれこそ框を少しばかり超えたところで立っておりまして。

「あら、……これは、……私外に洗濯を干していたかもしれません。引き続きどうぞ。」

と玄関を締め直したのですが、風柱様の大きなお声がこだましておりました。
どこまでなさったのか、風柱様に聞けるはずもありませんし、
名前に聞いても真っ赤になって照れるものだから、聞けたものでもありません。
どういう事があったのか、ぜひ知りたいものです。
私はまだ接吻できていなかったと踏んでおりますが、どういう事があったのか、ぜひいつか風柱様から聞いてみてくださいませ。
本日の報告は以上です。甘露寺様。




__________
______
____

不死川実弥は、隠の秋に言外に「自分で伝えろ」といわれたものの、名前に「初詣に連れて行ってやる」とはずっと言えずにいた。
明日の命の保証もないからだ。
と言うのは言い訳で、照れくさいのと、どこか気恥ずかしいのと、いろいろなものが綯い交ぜになって言えずにいたのだ。
当日、それこそ玄関先で隠の嗣永が外に出て行くのを何故か名前と二人して見送った。
名前が出ていく隠を見て、

「良いなぁ」

そう、零したのを聞き入れ、初めてそこで

「……なら、連れてってやるから、用意しろォ」
「っえ!!!良いの!!?ありがとう!」

そう、つっけんどんにではあるがようやっと言えたのである。
ぱあ、頬を真っ赤にして嬉しそうに笑う名前はバタバタと不死川が彼女に与えた部屋へと戻り、しばらくしてから玄関先で待つ、不死川の元へとやってきた。

「秋さんが、新しいお着物用意してくれてた!!」

にっこにこの笑顔で笑う彼女の愛らしい事。
不死川の口元は自然と緩もうとしていた。
それを誤魔化すように、手近に置いてあった冬物の羽織を取り、適当につっかけを履き、

「いくぞォ」

これまたつっけんどんに言い放ってしまう。

「はぁい!!」

それでもにこにこと、不死川の態度をものともせずに彼女は笑う。
ガラにも無いことをしている。と、頭を掻きながら適当な神社の前まで行き、不死川がここで良いかと問うと

「不死川さんが行きたいところならどこでも良いよ。」

と笑う。
気も頭も抜けたような返答に自分まで気が抜けていくのを感じながら、不死川は「そうか」と返した。
こぢんまりとしたそこは、普段人も殆ど来ない。
フッと気を抜きたくなった際に、不死川自身がよく訪れていた神社であった。
けれども今日は、それなりに参拝者がいて皆が皆、新年の挨拶に、と訪れているのだった。
一先ず人の流れに沿い、参拝手順に則って拝殿の前で手を合わせる。
神に願う事など特にありはしなかった。
不死川にとって、神なんぞは居ないも同然であったし、神なんぞに祈ったところで助けてくれたためしも無かったからだ。
それなら「自分で」何とかした方が確実であったし、何よりそうできるよう今まで務めてきた。
そうやって生きてきた。
それでも、神は自分から奪っていくのだからいただけない。
正直、クソ喰らえ、とでも言ってしまいたいほどである。
けれども横で熱心に祈る名前を見ては、少しばかりそうやって張りつめていた気も抜けてくるもので。
『こいつがいつか、人として幸せに死ねるように』
だなんて祈ってしまう。

お参りも終えると、丁度出口のすぐそばで酒を配っていた。

「わあ!!お神酒!良いなぁ!」

自分は飲むわけにはいかない、飲みたくもないが、欲しいと言うならば行こうか。と考えたところで、それを貰いに並んでいるのが男ばかりなことに不死川は気づく。
はぁ、と小さなため息が落ちそうになるのを堪え、

「貰ってきてやっから、そこで待ってろォ。」
「え!!!良いの!?」

嬉しそうな名前に今更否と言えるわけもなく、

「良いかァ、そこを動くんじゃねぇぞォ」

と少しばかり凄んでしまう。
受け取るだけであったし、そこまで人が居たわけでもない。
だから、ほんの少し。
本当に少しだった。
不死川が目を離した間に、名前は二人組の男に囲まれている。
ああ、めんどくさい。
と今度こそため息を落とした不死川は、ため息を吐いた事で下がった視線を名前に戻しながら歩を進めるも、その男どもと笑いながら話している表情が目に入った。
はた、と足が止まる。
『何を笑ってやがる』と、いっそ理不尽な靄が胸にちらつく。
自分にはそうやって笑いながら話すことが出来るまでどれほどの時がかかったのだ。
などと思いもするが、彼女は誰にでもずっとああだった。
そう、不死川自身が彼女を極力避けていたから今の彼女との関係を築くまでに時間を要しただけで。
自身があの首を斬ったから、怖がられていただけだ。
しごく当たり前の事だ。
と、そこまで思考してからふと我に返った。
(ンでこんな事考えてんだ俺ァ、)
名前はこちらに気付いて、ブンブンと手を振って男どもに会釈をしてからこちらにやってくる。
名前がこちらに手を向けて振った事で、不死川の存在に気が付いたらしい男どもはギョッとした顔をしてそそくさと彼女から離れて行った。
それをいつもより幾分か厳しい顔を作って見送ってから名前を受け入れる体制をとったが、どうも気に食わない。
そのうえ、何が気に食わないのかもいまいちわからない。
ただ、「己ごときの顔で逃げるくらいなら手ェ出そうとしてんじゃねぇよ」、とは思うのだ。

「不死川さん!ありがとうございます!!」

升に入った酒を受け取りながら笑った名前の顔。
それが先ほどの男たちに向けていたものと少しばかり違う事に気が付いた。
頬が、赤らんでいる。

「さっきの人たち、不死川さんがかっこよ過ぎて逃げちゃいましたねぇ」

とのほほんと言う女。
いや、絶対そうじゃない。

「……ちげぇだろォ」

どうしてこうも間抜けなのか。
とは考えるが、こうして褒められるのも悪い事ではないな、とは不死川も思っている。

「不死川さん、照れました?」
「……ねぇな」
「うっそだぁ、だってちょっと赤くなってますよォ」

悪戯っぽく笑う名前を小突きながら早く飲めと催促する。

「だって、思ったより辛口で……」

もたつく名前から升を取り上げ、ざっと自身の口に流し込んでから升の回収箱に放り入れ、

「帰ンぞォ」

フンと鼻を鳴らす。

「あぁぁ、全部飲んだ!!」

どこか拗ねながらも名前は不死川の後ろを歩いてくる。
それが少しばかりむずくなって、ついついゆっくり歩いてやることを忘れてしまう。
速い、とかまってよ、とか、
玄関先まで何やらぶつくさ言っておったものの、玄関まで着くと気も抜けるのか、はたまたあえてそうしているのか、
不死川が履物を脱ぎ、框に上がったところで

「不死川さん、お帰りなさい」

などと笑う。

「お前も帰ってきたんだろォが、……」

と、少しばかり呆れながら返すも、にっこにっこと笑いながらこちらをみて履物を脱ぐ名前にその後に続けようとしていた馬騰はついぞ出なかった。
はぁ、と小さくため息を落としてからそこを離れようと玄関から背を向けたところで、

「あ、ちょっ、まっ、……わ!」

背中に軽く何かがぶつかった。
とっさに半身を捻り、受け止め
間違いなく名前だろう、と中りをつけて文句の一つでも言ってやろうと見下ろしたところで名前と視線が絡む。
酒のせいか、それとも名前が真っ赤になって何かを求めるように不死川を見上げているからか、
それはついぞ分ることは無いが、名前に触れたところから熱が伝い、次第に心臓を通り、首元まで上がってくる。
思った以上に重量を感じ、『人間』であることを余計に意識したせいかもしれない。
きっとそうだ。
しかも女であるから。
慣れていないからだ。
もう少しばかり、女と言うものに慣れるべきかも知れねぇ。
そんなよそ事を考える以外に、不死川はいまだ嘗てない程に熱くなった体のほてりを冷ます術を思いつかず、
心臓の落ち着け方も分からない。
同時に、これは苛立ちだ、と思っていた男どもと名前が話していたころからある胸の靄。
それが単純に苛立っている、というものではないことを初めて悟った。
絡んだ視線は外せず、唇をかみしめている名前の歯が食い込む唇、それが訴えかけてくる柔らかさの主張につい、と言うべきか気付けば己の指が触れている。

「〜ッ、!」

口をはく、と開けた名前の唇は見る見るうちに歯の食い込んだ後が無くなり、代わりに少しばかり血色が良くなって尚存在を主張する。
そこに触れた指先すらも熱を持ってしまったようだ。

いつかの宇髄の言葉が思い出される。
『やりにくいねぇ、』
間違いねェ、やりにくいったらありゃしねぇ。
名前の真っ赤な顔に触れたくて、よくわからない誘惑に駆られ、手を伸ばした。
指先まで心臓になったのでは?というほどに指先までがばくんばくんと脈打つ。ばくばく、ばくばくと震える指を伸ばし、
不死川は先ほど触れた唇を掠めるようにそう、と頬をなでて包み込んだところで、

からり、と玄関扉が音を立てた。

「あら、……これは、……私外に洗濯を干していたかもしれません。引き続きどうぞ。」

例の隠の女だ。
また扉は閉じられたものの、ただでさえ熱かった体は今にも沸騰しそうな程にカッと熱を帯び、不死川は勢いよく名前から距離を取ると言い放った。

「ッ、寝るゥ!!」
「……っ、は、はい!!!」

己の大声に、これまた名前は大声で返してきたは良いが、不死川が暫く眠れそうにない程には熱がくすぶっていた。

「……あちィ」




次へ
戻る
目次

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -