小説 | ナノ

これは鬼殺隊の隠、風柱邸にて名字名前監視の任を承っている嗣永秋の観察日誌である。

現風柱邸の主人である不死川実弥その人は、顔体中に傷を纏い、それを隠すこともなくむしろ誇るかのような粗野な風貌をしている。
そんな主人は見目に反し、物静かな人であった。
監視対象であった名字名前となんやかんやあり、今は大分打ち解けておられる。
監視対象である名字名前はどこか風変わりな人であった。
私たちが身を置いているのがこのような殺伐とした世界だからそう思うのか、本当に彼女が変わっている人間なのかは分かりはしないけれど。彼女は人懐こく、悪意を悪意として認識できていない節がある。
自分に都合よく解釈をし、善意として理解しようとする。
平和ボケした人間であった。
或いはそうする事で悪意を悪意と認識しないようにしているのかも知れない。

彼女は『人間』とは思えない生態をしている、と任を受ける際報告されていたが、蓋を開けてみるとなんという事か、彼女は『不死』らしい。
俄かには信じられないが、そうだと言われるのならばそうなのだろう。
最初こそ警戒していたものの、彼女がそんな人間であったものだからついぞ抵抗することなく絆されてしまった。
そんな彼女を見ているからだろうか。
暫くは彼女へとあまり良いものを向ける事の無かった風柱様も最近はそういったところが和らいだように思う。
とはいえ、ここ数日、いや数週間の風柱様は少しばかり様子がおかしいのだ。

名字名前が風柱様に恋心を抱いていることはすぐにわかった。
確信を持つためにかけたカマに見事に引っ掛かり、盛大に吐き出したものだ。
あの子は隠し事も出来ないらしい。
風柱様もうざったそうにあしらっていたのに最近は犬のように思っているのか、はたまた彼も淡い某を持ち始めているのか。わかりはしないが、いつの間にかじゃれつく名前の相手をするようになっていた。
一時ピリピリとした空気を出していたけれど、それも捨て身のの押し倒しが功を奏したのかもしれない。
柱というものはとてつもなく豪儀で高潔な所謂、豪い人間がなるものなのだろうと思っていたのだけれど、こうして見てみると、彼は私と変わらない、ただの男であった。
自身のしたことを悔やみ、悩み、苦慮している、ただの男であった。
私は彼の人間らしい言葉を聞き、よりいっそう彼らをきちんと支えなければ、と思う。


それはそうと、とにかく最近の彼らの話に戻ろうと思う。
風柱様は彼女に対して、ひどく人間らしい一面を見せる事が増えた。
彼女が火傷をした際、(と言っても水ぶくれができた、程度だったが)動揺し、彼女の見えないところで医者に見せたほうが良いかと焦った様子で私に尋ねに来たのは記憶に新しい。
もちろん、私も気になって名前の手を見ては見たけれど、笑ってしまうほどの小さな火傷だ。
過保護だなぁ、とは思うが、風柱様が彼女に気を向けるのが嬉しかったものだ。

ついこの間も、

「わぁ、羽織、脱いでる……すっご、……し、不死川さん!さ、触っても良いですか!」

両の手をワキワキと揉みしだく形をとり、風柱様の筋肉を触りたがる名前に、こっそり筋肉が自慢だったらしい風柱様は得意げな顔でニヤリと笑った。
そ、と手を這わせ筋肉の溝をなぞるように指を滑らせ、

「わぁ、すご、かった、……あ、でもここ柔らかい」

とか何とか言いながら浸る彼女に、次第に風柱様は真っ赤になっていかれ、

「……バカかお前はァ!!」

と頭を叩くに至っていた。
風柱様がいたたまれなくなった私は彼女を回収することにしたのだが、我ながら英断だったと思う。


「名前、あまりみだりに男性に触れてはいけませんよ」
「でも、あれはレアだよ!!すっごかった!」

目をキラキラとガラス玉のように輝かせる名前を見ていると、先日、彼を押し倒していた事が嘘のように思えてくる。


また別の日は、
洗濯物を終え、そろそろ風柱様におはぎをお持ちして、名前とお茶でもしようかしら、と彼女を探していた時。
まあ、大抵風柱様の所か、自分の部屋に居るのだけれど、

「気持ちいいですか?」
「あァ、やべェ」
「もっと、しめましょうか?」
「……思っクソやれェ、」
「はぁい」
「ア゛ァー、……」

等と、不穏な会話が聞こえてきたものだから、思わずハッとして、物陰に隠れたのだけれど、
こっそり覗いてみたら、気の緩みきった顔の風柱様と、その風柱様の頭を安摩する名前がいた。
まぁ、あのお二人でそこまでの進展は無いか、とかなんとか思いながら、暫くはそっとしておく事にした。

「まるで恋仲の二人のようだったわ」
「え!!ほんとう!?まじで?!やった!!ほんとに?!」
「……うざい」
「どのへん?ねぇ、良い雰囲気だった?!」

少しばかり調子が良いのは美徳か短所か。

「……気のせいだったかも」
「えぇ、……」



けれど私は知っている。
名前が風呂に入っている際もそうだった。
本人に自覚があるかどうかはさておき、風柱様はよく彼女を探す。

「名前は今湯あみをしております。急がせますか?」
「……聞いてねェ」

ふい、と顔を背けられるものの、

「……そうですか」

と私が言うと、小さく舌打ちを落とす。

「……これ、あいつに渡しとけェ」

と差し出されたのは名前がいつも風柱様に貰ったと喜んで使っている椿油だ。
安いものでもないソレを、風柱様はわざわざ彼女の為に用意しているのだ。
こういう時に、彼らは私の存在を忘れているのでは?と思うこともあるけれど、それだけ仲が良くなっている、と言うのは私にとっては喜ばしい事だ。

「ご自身で渡しに行かれた方が、名前も喜ぶと思いますが」
「……いや、良い。渡しとけェ」

そう、押し付けられた瓶。
隠しているつもりかもしれませんが、風柱様。
少しばかりお耳が赤うございますよ。
とは死にたくないので言わないでおく。

まぁ、こんな日常を私はとても愛している、と言う話です。



「ご期待に沿えましたでしょうか、甘露寺様。
くれぐれも秘密でお願いします。」
「き、キュンとするわ!!」



私、甘露寺蜜璃は大変なものを見てしまったわ!!
繁華街で伊黒さんと待ち合わせをしていた日のことよ。

あまり人は多くなかったから、隊服だわ、ってすぐにわかったの!
だから声を掛けたくなって、目を凝らしたらあの不死川さんだったわ。
人混みを好まない人だと思っていたから、意外だなぁって思いながら、声をかけようとしたのよ。

「あ、しな…ず……ぁ…あれ?あれ、あれあれあれ??!」

洋食屋さんから出てきたのは不死川さんだけじゃなかったのよ。
その背格好とお顔が見えたから、彼の屋敷にひょんなことから一緒に住むことになった名前ちゃんだってことはすぐにわかったの!

彼に何度も頭を下げて、頬を真っ赤に染めながらにっこり笑って何かを言っていたわ。
きっと、「ありがとう」といったんだと思うわ。
そしたら不死川さんが、(あの不死川さんが!)ちょっとだけ笑って何かを言うの。
何を言ったのか、私にはわからなかったけれど、もうとっくに真っ赤だった名前ちゃんはほっぺたを両手で押さえてから、不死川さんのお腹をポコポコ叩くの。とっても可愛らしいわ!!

それを不死川さん、いつもなら怒鳴りつけていそうなのに、頭を押さえて牽制して、彼女が落ち着いたら、そのちょっとだけ乱れた髪を直してあげていたのよ!!

「(キャーーー!!素敵!!)」
「(不死川さんったらいつの間にあんなに仲良くなったのかしら!)」
「(キュンキュンするわ!)」

名前ちゃん、ずっと下を向いていたけれど、不死川さんのあの優しいお顔をぜひ見てほしかったわぁ……。頑張って!不死川さん!私は応援しているわ!!

歩き始めた不死川さんの背中を追いかけた名前ちゃんが着いて来られるように、と不死川さんったら、時折振り返っては見ているのよ。

ああ、もう!気付いて!!名前ちゃん!!
伊黒さんに報告したいけれど、
……これはまだ秘密にしておこうかしら!!

でも秋ちゃんには報告しなくちゃ!


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