時系列も野球事情もぶっ飛ばして、一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその10。だいたいすべてが詰まってる。幼馴染みは強い。ずっと相棒こと二宮先輩。私の好みによりツンデレ=5:5(当社比)※付き合ってない※多分

※時系列等はぶっ飛ばしてお考えください。成人です。キャンプに行くちょっと前だと思います。

「一ノ瀬さんのが先にオッサンになっていくんですね」
「喧嘩売ってる?」
なら買うけど。ぐっぱっと拳を開いては閉じて、臨戦態勢は整っていることを示す。そんな一ノ瀬に、思わずと言った風に溜め息をつく二宮。なんだよ、と喧嘩腰、というよりは拗ねたような声色で一ノ瀬は呼び掛ける。
当の二宮はというと。ちらりと、一ノ瀬を見て、短く息を吐いた。そのいかにもやれやれと言うような表情に、短くないはずの気がぶつ切れになりそうになる。二宮は一ノ瀬が不穏な気配を出すほどのことは、考えていないのだが。それは一ノ瀬の知るよしもない。
幼馴染みは二十年経っても幼馴染みというのだろうか。そしてそんなに時間が経っても、お互いの心を読み合うことはできないし、サインに首を振ることはあるし、むしろ口喧嘩は増えている。二人とも大人になったのか、それとも子供になってるのか。けれど、ヤクルト不動の黄金バッテリーは、かつてあかつきで呼ばれたその名そのものの活躍を見せている。
「あんたがそんなだから俺が素直になれねーんですよ」
「自分で言っちゃうあたり今は素直みたいじゃないか」
しかしそれも、シーズン中の話。まあ、オフシーズンになったらテレビの収録などで二人揃って呼ばれることもあったが、今は休息の時間。にも関わらず一ノ瀬が二宮の住むマンションでだらだらとミルクティーを飲んでいるのは、暇だったから遊びに来たという、あまり平生の一ノ瀬らしくはない理由と行動によるものであった。
ヤクルトの中継ぎエースこと一ノ瀬塔哉と、その相方で攻撃型捕手の二宮瑞穂が、高校時代からバッテリーを組んでいること、そしてそれ以前からの幼馴染みであることは、ファンの間ではもはや常識となりつつあるのだが。
「実際事実じゃないですか。俺も早生まれだし」
「知ってる? 人には触れてほしくない事実だってあるんだよ」
たいして気にしてもいないくせに、二宮の言葉に噛みつく一ノ瀬に、普段まるでしないようなぶっきらぼうな態度を取る二宮は、今のところ見たことのある人間はそう多くない。
にこやかで紳士然とした、それでいて悪のりもしたりする一ノ瀬とはまた違う姿を、他で見せる気はないようだと思ったことを二宮は思い出した。そして人の家に来てお茶出してとねだるようなわがままも。普段では基本的にありえない。
「甘えられてんのかね」
そう呟くが一ノ瀬の耳には届かない。そんなひとつ年上な幼馴染みが「てゆーか」と不満げに口を開く。
「いきなり年のこと言ってなんなの? 誕生日明日だからプレゼントでもくれるの?」
「……よくわかりましたね」
「え」
「さすがに誕生日目前なら覚えてるんですね」
え、と再び声を上げた一ノ瀬を尻目に、ソファから立ち上がる二宮。
この人は案外、自分のことに関して雑な瞬間が結構ある、と二宮は考えている。でなければ自分の誕生日をよく忘れる訳がない。二宮はすたすたと寝室へ行き、赤色の包みを持ってきた。
「開けていいですよ」
ぼすりとテーブルに置かれたその包み。それと二宮を交互に何度も見る一ノ瀬。見すぎだろうと思う二宮。
なにか言いたいことがあったのかもしれない。けど、一ノ瀬は口を開くまえに、ゆっくりと結ばれたリボンを解いた。中から取り出したのは、
「……時計?」
「と、リストバンドも入ってんでしょ」
彼の言う通り、袋の底からリストバンドも出てきた。黒地に、シンプルなワンポイントが薄緑で刺繍されている。これは、確かブランドものだったはず。一ノ瀬は思いながら腕時計も見た。ごくシンプルな作りで、ねじの青い塗装と、文字盤にひとつついたルビーが印象的だ。こちらもブランドものだったような覚えがある。
どちらかというと、そういうものに疎い一ノ瀬が心当たるようなものだ。失礼なのも忘れていくらしたのと若干青ざめながら問う。そんな一ノ瀬に呆れながらも、―――そんなこと、他の人間には絶対にしないだろうなと思いながら、「心配しなくても、そんな高いもんじゃありませんから」と答える。
でも、と口を開こうとする一ノ瀬を制するように「あんたもらった高級時計もあんまつけてねえだろ」と言えば、うっと詰まった。
どうしても、感覚的に慣れないのか、野球選手がつけているようないかにも高い腕時計は、普段使いができなかった。それは二宮も似たようなものなので、特段言及することはなかったが。
「……まあ、高くないから。つけてくださいよ。“後輩”が祝ってるんですから」
その言葉に、一ノ瀬がつんと唇を尖らせた。内心なかなか鼓動が不安定になりそうな二宮は、それは出さずに一ノ瀬を見守った。不満の現れか、それとも。
「……じゃあ、もらう」
ありがとう。そう言って、一呼吸。ばつの悪そうにしてた顔は、ふにゃりと照れ臭そうにはにかんだ。
幼馴染みは二十年経っても幼馴染みだし、考えてることがわからないのは世の常人の常であり、そう悲観することでもないのではないのだろうか。
「僕も年取ったね」
「だから言ったじゃないですか」
「うるさいな」
二宮を小突いて、一ノ瀬は子供のように笑った。

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