時系列も野球事情もぶっ飛ばして、一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその9。プロテインしかなくなるところだった。考えてなさそうで考えてるだろうけど考え読めない糸目の三本松先輩。

※時系列等はぶっ飛ばしてお考えください。成人です。

「祝い事には、やはり酒が一番かと思いましてなあ」
深い緑地に唐草模様、古風な風呂敷をずるりと取り出した三本松。おお? と声を上げる一ノ瀬。どん、とテーブルに乗せられたのは、彼が言うにはおそらく酒なのであろう。そこまでの大きさではなく、中身が気になるところだ。
比較的安価で、味はあかつきの先輩からのお墨付き。そんな定食屋で大盛りの白米と、豚のしょうが焼きは三本松、チキンステーキは一ノ瀬、二人向かい合ってかきこんでいる。学生時代に二人だけでくることはなかったというのに。時の流れとは不思議なものだと、三本松はしみじみ思う。
祝い事。そう一ノ瀬が呟くと、三本松の糸目が丸く見開かれた。大きくは見えないが、多分それが三本松の瞳の限界の大きさだ。
「誕生日はもうすぐでしょう?」
「……あっ」
「一ノ瀬さんも、案外抜けているところがあるんじゃなあ」
はっはっはっと豪快に笑う。彼の人柄もあってか、抜けていると言われても、忘れてたと舌を出した一ノ瀬。おおらかで心が広い、しかし案外細かいところに目が向いている。大柄な体格は昔より少し逞しくなったようで、体育教師として生徒に慕われているのが目に見える。
チームの四番だった三本松一は、それでもパワーでは主将である一ノ瀬塔哉には勝てなかった。今なら勝てるのでは、酒も入った頭はふと考えた。
「ありがとう。三本松の趣味からすると、日本酒かな?」
「当たりです。一ノ瀬さんは何でも飲みますからなあ」
「バレてるね」
ふふっと笑った一ノ瀬に、三本松はふと真面目な顔をして言った。
「一ノ瀬さん、腕相撲をしませんか?」
「え? いいけど……」
「力比べと、いこうじゃありませんか」
「!」
数秒、考えるようなそぶりを見せた一ノ瀬は、おもむろに箸を置いた。そして皿やお椀をずいっと端へ押した。どちらでやっても、どちらが勝っても、被害が及ばない位置へ。
腕捲りをする。三本松もまた彼と同じように、鍛え上げられた筋肉を露にした。一ノ瀬の肌は健康的な白さと細さをしているが、その筋肉の密度はとんでもないことになっている。まして、現役のプロ野球選手だ。勝てる保証はない。しかし、挑みたくなった。
「……ねえ、どっちでやろうか?」
「どちらもハンディになりそうですなぁ」
「……どっちもする?」
「おお、なら、やりましょう」
鷹揚にうなずいて、まずはと言わんばかりに左手を差し出す三本松。それに一ノ瀬がくすりと笑う。先輩を立てたのだろうか。それとも、誕生日だから? 真実はわからない。
わかるのは、二人とも負けず嫌いは変わっていないということだけ。だから一ノ瀬も左手を差し出し、お互い固く握り合ったのだった。

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