時系列も野球事情もぶっ飛ばして、一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその8。一ノ瀬さんがね動物にデレデレならかわいいなって。犬を飼ったのをきっかけに獣医になった四条先輩と澄香ちゃん。

※時系列等はぶっ飛ばしてお考えください。成人です。

「一ノ瀬さんが、こういうのお好きかはわからないんですが」
カップを置いて、四条は傍らの鞄を探る。対面して座っている一ノ瀬が首をかしげた。両手で持ったカフェオレから、湯気が小さく上っている。
すると、テーブルに乗っているのは、四条が飲んでいるコーヒーと、ちまちまと食べ進められたショートケーキになる。このケーキは一ノ瀬のものであった。まだ苺が乗ったままなのは、好きなものはあとでという一ノ瀬の言葉から知ることができた。
甘いものを食べるなら飲み物は無糖で、そういう一ノ瀬とコーヒーはもっぱらブラック派の四条が並んで喫茶店にいるのは、初めてのことではない。あまり知られてはいないが、甘党なこの先輩が、店に入る度に違うケーキを頼んでいることを、四条はどこか微笑ましく思っていた。
「誕生日おめでとうございます。あと数日ありますけどね」
藤色の包み紙も美しく、差し出された一ノ瀬の手に置かれる。中身は固く、それなりの重さがある。不躾にひっくり返したり様々な方向から見たりするに、どうやら書籍のようらしい。
「ありがとう。どういう本? ……本かな?」
「本です。写真集って言ったほうがいいかな」
「写真集?」
「ちょっとしたツテで、立ち会いというか監修を頼まれたものなんです。子犬の写真を集めたもので……」
子犬。その言葉に、ぴくりと一ノ瀬の肩が動く。反応を見て、まずいことをしたか、と、四条賢二の内心で冷や汗が流れた。
兄妹共々、高校を卒業後、志した獣医への夢を見事に叶え、その腕をふるっていたある日。とある知り合いから、動物の撮影があるので獣医の監修を頼めないかと申し出があったのだ。自分でよければ喜んで、と喜びいさんで立ち会い、撮影されたもの。それが、最近出版されたこの写真集である。
同じ野球部のキャプテンであった一ノ瀬塔哉にそう説明するが、どんな反応が返ってくるかわからなかった。誰が見ても百人中百人が可愛いと思うに違いない写真集だが、動物が嫌いという可能性について考えていなかった。
うかつだった、と彼にしては珍しいことを思う。しかしまあ、彼と近い人間は、彼が時おり抜けていることを知っているため、四条なら仕方ないなあと言うのであろう。
「……いいの?」
「え?」
「これ、もらっちゃっていいの?」
どこか、こちらを見る一ノ瀬の目が、大きくきらきらしているように見える。これは。これを、好ましくない反応だとは、四条はどうしても思えなかった。
お好きですか、子犬。そう言えば、「……かわいい、のは、好きだよ」とごにょごにょと返事。目を逸らす様が珍しく、四条は目をぱちくりとさせた。
「……子犬でも、子猫でも、動物は好きだよ。かわいいなって思う。だから、ありがとね」
照れ臭そうに一ノ瀬が笑う。それが嬉しくて、どういたしましてと四条も笑うのであった。
「あ、澄香からも預かっています。あいつも別の写真集で立ち会ったんですよ。子猫なんですが」
「子猫もあるの……?」
「……喜んで頂けて、嬉しいです」

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