時系列も野球事情もぶっ飛ばして、一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその7。誰にでも若かりし頃はあるってもんよ。学生時代からああ見えて、一番頭が良かった五十嵐先輩。

※時系列はぶっ飛ばしてお考えください。成人です。

「プレゼントというのは、相手が欲しいものを考えてこそだとは思ったのですが……」
いきなり渋い顔をされても、と一ノ瀬は思う。それが、元々の性根の真面目さによるものだと知ってはいるが。やれやれと笑いながら、気持ちが大事だよと言いながら酌をする。
慌ててグラスをつかむ五十嵐に、いいからと一ノ瀬はビールを注ぐ。媚を売るとか、そういう理由を持って人に酒をすすめたことはない。気楽に、楽しく、お酒を飲めることが肝要なのだ。そうしたい相手には、自分で酌をすることもある、というだけの話だ。なので、わざわざ他人の酌を待つことはしないし、節制家の彼に無理な量を入れることはない。
「たとえどんなものを渡そうとさ、そこまで考えてくれてることがわかったら、悪い気はしないと思うよ」
「む……しかし、人には好みや習慣というものがあるので」
「そりゃあ、ある程度は把握した方がやりやすいだろうけどさ」
カタいなあと酒が入った頭で笑う。うぬぬと唸ってしまった五十嵐の背中を軽く叩く。やはり酒が入っているためか。いや、彼の固さは十代からの折り紙つきだ。
頑固で暑苦しい、話が長いと、後輩に煙たがられることも多かった。決して悪い人間ではないのだが。しかし卒業後、医大を卒業して立派なお医者さんとなった彼の、その一転集中しがちな目線は広がったようで。
五十嵐権三は良い大人になった、と元キャプテンの一ノ瀬塔哉は僭越ながら考える。まあ、酒は少しならば飲むようにはなったが、健康に気を付けろと口うるさいのは相変わらずだ。
「……ならば、これを」
「ん?」
す、とテーブルの上を滑らされる、茶色の包み。え、と五十嵐を見る。こくり、と静かに頷かれる。もう一度、え、と声が出た。
「僕のことだったの?」
「少々早いですが……お誕生日おめでとうございます」
さっきから言っていたことは、これだったのか。そういえば、どこからプレゼントについての話題になったのだろうか。酒が回ったのかな、一ノ瀬はどうにも思い出せなかった。
「タオルです。まだあまり知られてはいないんですが、いいものですよ」
名医が言うのであれば本当にそうなのだろう。なんせ、プロでの後輩が抱えた爆弾を治したことがあると聞いた。スポーツ医学にも通じている彼が薦めるということは、間違いがない代物らしい。
そんなにいいものなのに、と一ノ瀬は口を開いた。
「どうして、そんなに自信なかったの?」
「もっといいものを持っているとか、こだわりがあったならどうしよう、とか」
「でも、考えてくれたんだろ」
なら僕は嬉しいよ。また唸る五十嵐の顔が赤いのは、照れではなくビールのせいだということにしておいた。

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