時系列も野球事情もぶっ飛ばして、一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその6。いい意味で、変わらないけど変わったもの。みんなの大正義六本木先輩。

※時系列等はぶっ飛ばしてお考えください。成人です。

「一ノ瀬さん、誕生日おめでとうございます」
少し視線より下の、見るからに温かそうなもふもふとした格好で、彼がふわりと微笑む。
アメリカでもその堅守は健在のようで、メジャーリーグに目をつけられているというのを風の噂で聞いている。鉄壁の守備力で六本木優希という名を売る彼は、綿毛のような雰囲気はそのままで、先輩であり元キャプテンである一ノ瀬塔哉と相対していた。
『今度日本に帰ってくるんですけど、予定、空いてませんか?』
突然の電話には驚いたが、オフに入ったこともあり、なんとか都合はつけられそうだと返答した。そして今日、彼から祝福の言葉を受けている。誕生日は数日後になるのだが、そういうことだったのか。
「ありがとう、嬉しいよ。でも、どうしてまた?」
「お会いできて良かった。ヤクルト優勝、優勝投手、おめでとうございます」
「……知ってたんだ」
「そりゃあ勿論」
あの夜、あの瞬間。歓喜と興奮を、覚えている。最後のボールがミットに吸い込まれて、雄叫びをあげたことも。忘れられる訳がない。
それから周りが騒がしくなったのだが、時間が経ってしまえばそれもおさまってくるものだ。そんな時期に改めて、若き日を共にしたチームメイトに、それも二重の意味で祝福をされている。嬉しいと、素直に思う。
「誇らしいですよ、“一ノ瀬キャプテン”」
僕も頑張らないと。そう意気込む六本木が、心臓の痛みに堪えながら、ひたむきに努力していたあの頃と重なった。 卒業後は渡米して、病を完治させたと聞いた。そうして積み重ねて、今がある。立つ場所は違えど、お互いに進み続けているという事実が、胸に染みた。
いつかまた。「いつか、またみんなと一緒に野球がしたいな」言葉が口から転がり落ちた。今のチームは勿論大事だ。ただ、もう一度味わいたくなった。“あの時”を共有した仲間と、あの頃の熱さを。それは、あの時だからこそのものでもあると、わかってはいながら。
「……一ノ瀬さんも、そんな風に思うんですね」
「え?」
「いいなあ、それ。話してみようかな」
明日は他の、高校時代のチームメイトに会うと言う。特に考えなしに口にしたことを広められるのは、なんとなく気恥ずかしい。そう言えば、いいじゃないですかと微笑まれる。押しの強さはあちらで身に付けてきたのだろうか。
あ、と彼が手を合わせた。「忘れないうちに渡しますね」取り出したのは、今年日本に出店したケーキ屋の箱だった。テレビで見たことがあると言えば、会う前に買ったのだと言う。
「綺麗なお菓子がいっぱいあって、向こうでたまに寄るんです。甘いものお好きでしたよね?」
「……隠してたつもりはないけど、うーん……なんか、恥ずかしいな……」
「僕だって甘いもの好きなんですから。いいんですよ、気にしなくて」
やっぱり、昔よりも押しが強くなっている気がする。一ノ瀬が照れ笑いをしながら礼を言う。六本木はどういたしましてとはにかんだのであった。

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