捏造とかもうそういう問題じゃない。救われません。
一ノ瀬さんが精神参ってる感じ。主に二宮先輩のことで。
片想いです。捨てきれない。

―――――


ぐ、と喉にせぐり上げた苦い液に、激しく咽ぶ。
落ち着け、落ち着けと頭の中で警鐘をけたたましく響かせる。
いつものことだ、どうってことない、ただ肉壁が溶ける気持ち悪さを味わいながら呑み込めばそれでいい。
どうせ喉がほんの少し灼ける程度の胃液だ。
どうってことは、ない。


最近、薬を飲む回数が増えた。

安心して眠れるようにと渡されたそれは、だんだんと、慣れ始めた身体から、効果が薄れていくようだった。
もちろん、飲む容量用法はしっかりと守っている。ただそれが長く、長く続いてしまっているだけだ。

今日分の薬はもう飲んでしまった。どうしてもダメな時にと渡されたものも、きっとこれ以上飲んだら中毒を起こすかもしれない。
ちゃんとした薬をちゃんとしたように使っているから、ドーピングとは言われないか。でも、いきすぎたらなあ。どうなんだろう。

「……あー、眠い」

がんがんと頭の内側をぶったたかれて、それによってぐらんぐらんと揺れている。
寝不足とは恐ろしいものだと、どこか別のところで妙に冷静に考えた。
眠いのに眠れないのがこんなに辛いなんて知らなかった。
運動量は、というか緊張感による疲労は、今のほうが段違いに増えているはずなのに、あの頃のほうが夢も見ずに寝てしまっていた。

ひょっとしなくてもその所為か。とは思わないでもなかったけれど、それだったらもっと早く潰れている。
ということは、……何故なんだろう?

転がって時計を見た。示された時刻にげ、と呻いた。

「まだ、3時か」

うんざりする。意識したら余計に眼球が重くなった。のに休まらない。
勘弁してよ、というのを湿った息に吐き出して、ベッドをのっそりと這い出た。
本でも読んでいれば強制的にスイッチが落ちる。というか落とすしかない。
動くのも億劫なのを頑張って足を引きずって、本棚にたどり着いた。


よくよく考えたら、ひどい頭痛があるのに本を読んでも、内容に集中できるわけがない。
適当に文字を目で追ってるだけでもいいかと考えていたが、甘かった。
嫌いな教科でも読めば別なのだろうけど、生憎学生時代から見るのも嫌なものはなかったし、ここは好きなもので埋め尽くされている。
集中しようと頑張るけど身体が嫌がるのがベストなのだろう。そうするとそのせめぎ合いが眠気の波をゆっくりと起こしていくのだ。

意味も無い声を溢して、諦めた。目を瞑っているだけでも休むことにはなりますよと言われたのを、もう一度思い出した。
素直に医者の言うことは聞いておくべきだ。たとえ気休めにも満たないとしても。


熱い。外側ではなく、内側が。風邪を引いたわけじゃない。身体が休息を求めているのだ。気持ちよく眠れたのは、いつが最後だったかな。
仕事に支障が無い訳がないのだけれど、幸いにもピッチャーというのは休みが多い。何とかなっているのが現状だ。

世界が、止まりかけの独楽の上に乗せられている。不安定に回り、揺れて、落ちそうで落ちない。
目蓋が片割れと触れ合うことを拒んでいた。理性も本能も暗闇を欲しているにも関わらず、肉体がそれを受け入れない。意味が分からない。


熱い、熱い、寒い、苦しい、重たい、ぐるぐるする、死にそうだ、死ぬつもりなんか、ないんだけど、





「瑞、穂」



心配させないように、って、やってるけど。

いつか気づくのかなあ。

きっと口悪いんだ、それでも、僕が隠してたら、心配するんだ。

そんなことないよって、言えるのかな。
僕を見るなよって、言わないよね。
期待させんなよって、もう辛いんだよって、言ったりしないよな。


ああ、知ってるんだよ。
知ってるんだ。この年にもなって、何年も何年も、それで、諦めるどころじゃないなんて。


当たって砕けるだけの舞台が整っていたら、ね。


『お兄ちゃん聞いてよ! ミズくんったらひどいんだから!』

『一ノ瀬さん、あいつが悪いんですからね。俺じゃないですよ!』



僕は、自分が大事だ。
でもそれ以上に大切にしたいんだ。

全部ぶち壊すわけには、いかないじゃないか。
二人の“お兄さん”なんだから。


身体中が熱くなる。悲しいくらいに熱くなる。頬を伝う塩水を感じながら、震えて熱を上げる目蓋に触れた。
泣き疲れた子供は、すぐに寝てしまうんだ。僕も、これを眠りへの誘発剤にしよう。



一時的な救済にもならないと知っていて、今日も暁の中、暗く深い淵へと沈む。

沈むことも浮かぶこともできないまま、もがくことしか、出来ないまま。




明日も僕は、笑えているのかな?

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