陣凍

「凍矢、ただいま! めりーくりすます!!」
「……何だ、急に。クリスマス?」
「買い物行ったら蔵馬が教えてくれただ。言ったらプレゼントもらえるって!」
「(……大分胡散臭いにおいがするのはオレの気のせいか?)……そうか」
「もう、街んなか人がたくさんいたっぺ〜。かっぷるとか、家族が特にたくさんいただ」
「今日は祭か何かだったのか?」
「聞いたら、くりすますだからって蔵馬は言ってた。みんな、幸せそうな顔してたべ」
「そうか」
「きっと今日は、みんなが幸せになる日なんだな!」

みんなが、とは、必ずしも言い切れるものじゃないとは思うのだけれど。
その笑顔を見ていると、なんだか本当にそんな気がしてくるから、おかしかった。

「……かもな」
「あっ、凍矢、笑ってる? 何で?」
「オレが笑ったらおかしいのか?」
「……大歓迎だべ!」

「なあなあ、何かプレゼントちょうだい!」
「そうやって欲張る奴には晩飯食わせてやらないぞ」
「ぶー! ……凍矢、そんな笑い方しねーでけろ!」
「くっくっ……準備をするから、手伝ってくれ。買い物ありがとうな、陣」
「お安い御用だ!」


晩御飯を食べ終わったら、雪でも降らして見せようか。
それがプレゼント代わりになればいいなと、柄にもないことを考えた。


―――――
コニシモ

ふわりと漂う甘い香り。おっと思って靴を脱ぎ捨てキッチンへ向かうと、予想通り、繊細なデコレーションの真っ最中だった。

来るの、早くないですか? そう言ってクリームを絞る彼に、別にいいだろと笑いかけ、コートを脱いだ。ハンガーに掛けてこいという台詞は聞き飽きているので、言われる前に自分から動いた。

「クリスマスケーキか」
「いらないなら別にいいですよ」

誰もいらないなんて言ってない。ムッとしてそう返すと、そうでしたねと微笑みながら言われた。単純な自分に呆れる。
白い指が白いケーキに飾り付けを施す。真っ赤な苺が、滑らかなチョコレートがその白さによく映えて、きれいだった。

よし、と呟いた声が聞こえて、上げた顔と目が合った。

「何ですか」
「相変わらず上手いもんだな、って思って」
「そりゃ貴方よりはね」
「喧嘩売ってんのか」
「どうでしょう?」

いつものように悪戯な笑み。多分からかう時にしか浮かばない表情。
自分の前以外でそんな顔してみやがれ、とは言わない。優越感に浸っていたいから。

まあ、それとむかつくむかつかないはまた話が別で。

「じゃあケーキより先にお前のこと食べてやるよ」
「おっさん臭いからそういうこと言うのやめてください」

既に豪華なディナーが並んだテーブルについて、下仲がケーキを冷蔵庫にしまって、こっちに来るのを待っている。
何だよー、と文句を言ったら、事実でしょと言って向かいに座った。

「まずは、ディナーを楽しみましょう?」

ワインの栓を開けて、グラスに注いだ。
“まずは”―――偶然か、それとも。
……ま、下仲の言うことに一利ある。今は、こうして楽しむことにしよう。

乾杯、とグラスを合わせると、軽やかな音が静かに響いた。


―――――
パワプロ・37

今日は夜から雪が降るでしょうって、お天気お姉さんが言っていた。
ホワイトクリスマスねと母さんがはしゃいでいたのを、父さんは今日の夜は豪華だぞと耳打ちしてきて、それにかもねと笑い返して家を出た。

だから今日は、早く帰らなければいけないのだけれど。

「しかし、寒いな」
「ホントに、ネ」

ぽつりぽつりと、たわいもない言葉を交わすのが楽しくて、まだこうしてベンチに並んで座っている。

「……こんなに話してて、時間は大丈夫か?」
「ウン、まだ、平気」

半分嘘。平気と言えば平気だけど、ちょっと自分の良心が咎めている。
でも、それをえいっと押しやれるくらいは、まだ猶予があったから。
息を白くする空気の冷たさ。肌をちくちく刺す見えない棘も、運動後の身体には気持ちいいくらいだった。
あったかいお茶とコーヒーをそれぞれ片手に持っている。手の平は冷たすぎて熱すぎてしまっていた。

家族思いの自分の心を騙していても、リミットはそれでも迫ってきていた。
もうそろそろヤバイかもと告げると、じゃあ帰るかと彼が先に立ち上がった。

コーヒーを置く。
そして、彼の背中に、空いた手でバッグから取り出した小箱を差し出した。

「三本松、コレ、」
「ん?」

振り返った彼に、ん、と取るように促した。
不思議そうにしながらも受け取ってくれたことにホッとして、サングラス越しで分かるわけも無いのに目を逸らした。

「クリスマス、プレゼントだヨ」

多分、こうゆうのが趣味じゃないんだろうなって、分かってはいるけれど。
何か送りたくなってしまったのだ。仕方ないじゃないか。

「……ありがとう」

わしは何も用意してないんだ。すまないな。
そう言って苦笑するけれど、ありがとうと言って、笑ってくれただけで充分なんだよ、
…とは、言えなかった。照れくさいから。

だから、別にイイヨとだけ言って、同じように立ち上がった。
駅までのほんのわずかにしか思えない15分の道のりを、彼と一緒に歩くために。


―――――
パワプロ・21

クリスマス? そんな甘ったるいもん犬にでも食わせておけよ。
そう毒づいたところで、練習が無くなるわけでは勿論なかった。今日も今日とてヘットヘトでグッダグダな身体を引きずり、ロッカーへと歩を進める。
何でイブなのに練習あんの? という疑問の声がそこかしこで上がっている。たかがイベントで練習時間を割いてしまったら、常勝無敗などという大層な看板を毎年掲げてはいられないだろう。

あー疲れた、と呟いてユニフォームを脱ぎ捨てる。時計を見ると、午後7時前。そりゃ外もあんだけ暗くなるわなと思いながら、携帯を取り出した。

メール受信の蒼い灯りが、ちかちかと規則正しく揺れていた。

『一日早いけど、メリークリスマス! 終わったらファミレスでも行かないか?』

……ついさっき毒づいたくせに、我ながらほんとに単純だと言葉を無くす。

『おごりならいいですよ』

えーやだよとか、そんなことが返ってくるであろう事を予想して、クッと笑みを漏らす。
返信を待たず、小さなメッセンジャーをバッグに突っ込んで、シャワールームへ向かった。


ケーキでも買いますか、とか言ったらきっと、
「どんな風の吹き回しだよ?」
と笑われるんだろうなと思っても、言ってみようかと思って見たり。


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Wishing You A Merry Christmas!
(素敵なクリスマスでありますように!)

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