SWEETBLOOD



「痛っ…」

二人で書類の整理をしていると、下仲が珍しく声を漏らした。

「どうした?」

振り返ると、右の手のひらを上にして思案に暮れていた。どうやら紙で指を切ってしまったらしい。近づいて見れば人差し指に血が滲んでいた。

「やってしまった…」

「あーあ、大丈夫か?」

言うと、少し恨めしい視線を向けられる。

「元々の原因は貴方じゃないですか?」

「………」

「黙るな」

そう、元はと言えばオレが上手く書類をまとめられず、見かねた下仲が手伝うと申し出たのだ。
言っておくが、オレから言い出した訳ではない。あくまでもこいつからだ。愛されてるんだか何なんだかよく分からないが、少し情けないことは自覚している。
にしても、そう言うなら手伝わなくても良かったのに。と、オレは言葉に出さずそう思った。

「うわ、どんどん出てくるな」

「とりあえず、消毒液を探して来ないと…」

その時、ハッとしてオレは目が釘付けになった。

白くて長い指は、料理人らしい火傷の痕や傷が付いているが、その指自身が持つ美しさを引き立てていた。そこを一筋の、生々しい鮮やかな赤が、伝い落ちていく。
流れる紅色と輝くほどの白のコントラストが、この上なく危うく、美しかった。


「…いい。貸せ」

下仲が口答えをする暇も与えず、オレは男にしては細い手首を掴んだ。

「…っ…!」

人差し指を口にくわえる。ビクッと彼の肩が跳ねるが、気にせず舌を這わす。
肌は吸い付くようにしっとりしている。じゅく、と唾液と血が混じる音が聞こえた。舌に触る感触が気持ち良くて、つい夢中になって指を舐め回した。

「やめろっ、何して…っ!」

血の味が喉に流れ込んだ。鉄臭い味がしたが、同時に、どこか甘い香りがしたのは、きっと彼のモノだったからだろう。

「はっ…つっ、っ…」

時折顔を歪ませるのは、オレが傷口に舌を押し付けるからだ。だが、明らかに苦痛だけの表情ではなかった。
もっと見たいと思った。その美しい顔が様々に変わる様を。

「…血、止まったみたいだぜ」

最後に舌で確認してから、指を離してそう言った。長く伸びた銀糸を、切れる前に全て改めて口に入れた。

「そんなに深くなくて良かったな。…こんだけで止まるくらいで」

と言ってから、唇の端を吊り上げた。すると下仲は、微かに目を見開いて、顔を勢い良く逸らした。悔しそうにした顔が全体的に朱く色づいていたのが可愛かった。

「………悪趣味だな」

「オレは、そうは思わないぜ?お前の指は、綺麗だからな」

気づいたように、こっちを見る。そんな風に睨み上げられても、悪戯心が刺激されるだけなのだが。




「本当に、悪趣味だ」




(おまじないだよと冗談めかすと、呆れるように溜め息をつかれた)

(絆創膏を見る横顔がまだ赤いのは、自分だけが知っていること)

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