オレの名前を呼ぶ、透明な掠れた甘い声。
「っじ、んっ…!いっ、…アッ…、っ、陣ッ…!」
満月が部屋を覗く。光が、オレの下で乱れている凍矢を晒した。
明るく照らされた凍矢は、肌が真っ白に光って(雪みたいに)、
でも恥ずかしくて真っ赤になってて(金魚みたいだ)、
涙が溢れそうな目をコッチに向けた。(まるで水で出来た宝石が揺れているようで)(危なくて、凄くキレイな)
「陣…陣っ…!」
凍矢はまるで憑かれたようにオレの名前を呼び続ける。
“愛してる”も、“好き”も、とても少ないけど。
代わりに、縋りつくようにオレの名前を呼ぶ。何度も何度も、低くて透明な、甘い声で。
凍矢は凄くキレイだ。顔も、身体も、中身も、全部。
そのキレイな凍矢が、オレを感じて真っ赤になっている。それを、誰かをこんなに、独り占めしたいなんて、思ったこと無かった。
「ッ…凍矢ッ…愛してる…ッ…!」
その言葉に反応して、また凍矢の中がギュッと締まる。何だか抜けなくなりそうと思ったけど、まあそれでも。
凍矢を感じていられるんなら、何でもいいや。
「じん…ッあ、っ…陣…ッ…!」
ガチャン。
凍矢に名前を呼ばれるたびに、そんな音が頭に響く。
陣、
ガチャン。
っじ、ん…
ガチャン。
陣っ…!
ガチャン。
音と同時に、身体中にずっしりと食い込む錠を感じた。オレはそれを物ともしないで、凍矢に口づけて、抱いて、触って、名前を呼んで。
どんどん、錘は増えていく。(勿論、現実にあるものじゃないって、分かっているけど)
オレはその重みを甘んじて受け入れている。むしろ、凍矢がくれるモノであれば、大歓迎だ。
何で凍矢がオレの名前を呼ぶかって、それは確かめる為みたいだ。
みたいだと言うのは、直接聞いたわけじゃないから。あくまで、推理。
きっと睦言を言えないのもあるんだろうけど、ひたすらに名前を呼ぶ。
オレはここにいるのに――いるからこそ――オレの名前を呼び続ける。
たまに、自分の名前なのに、嫉妬しちまうオレがいて、馬鹿らしく思うときもある。
仕方ないのかもしれない。魔忍の頃は、いつ、自分達が命を落とすのか、分からなかったから。
だから今を、熱を、オレを、確かめようとして。凍矢はオレの名前を呼ぶんだと思う。
まあ、ここら辺は全部推測だから。
そうあってほしいって言う、オレの願望が混じってるような気がしなくも無いけれど。
「凍矢っ…!」
だからオレも凍矢の名前を呼ぶ。
ちゃんと筋肉はついてるのに、細っこくて真っ白くて、力を込めたら折れてしまいそうな身体が、
宝石みたいな目からボロボロと涙を溢しながら、オレを呼ぶキレイな顔が、
冷たく見えても、本当はいっぱいの優しさが詰まった心が、
オレの前に存在しているのを確かめる為に。
「凍矢、っ…大好き、だべっ…」
「っつ!あっ…あ、ぅ…っは、んっ…!」
陣ッ……!
ガチャン。
また聞こえた気がした。でも今度は、凍矢の身体にも。
大好き、
ガチャン。
好き、っ、
ガチャン。
凍、矢
ガチャン。
オレは、自分が口角を上げて笑っていたことに気がつかなかった。
愛してる、
ガチャン。
愛と言う枷が増える音 (キミはオレに)
(オレはキミに)
(例え地獄の底までも) (繋がれたまま共に行こう)
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