小説 | ナノ

 50センチ。

いつも彼は、私との間に距離をとる。

「ふぅっ、ちょっとそこの公園で休憩しよーぜ!」

「ごめんなさい、買い出しに付き合ってもらったうえ、荷物ほとんど持ってもらっちゃって…」

「ん?ああ、いいんだよ。今日は荷物多くなりそうだって、アニスも言ってたし、それに…」

「え?」

「…っ。や、やっぱなんでもねえ!」


いつもと同じような青い空。いつもと同じような彼の表情。─いつもと同じ、私と彼の距離。

「あ…ティア、アイス食う?」

「アイス?」

「アイス食べたくなったから、買ってくる!俺メロンにしようかなー。ティアは何味がいい?」

「…り、リンゴで…」

「わかった!」

子供のような無邪気な笑みを浮かべて彼は立ち上がる。そしてそのまま、少し先のアイス屋さんへと歩いていってしまった。

最近彼は、椅子に座ったときや隣に立ったとき、必ず50センチほど一定の距離をとる。何らかの拍子でちょっと手が触れたときには、ガイのように勢いよく離れられることだってある。だから、なかなかその距離よりそばにいけない。

ナタリアと話すときは、肩がくっつくんじゃないかってほど近くによるし、アニスはルークに抱きついたりしてるからほとんど距離はないし、ノエルと話すときだってそれほど距離があるわけではないのに。

…もしかするとルークに嫌われてるのか、なんて心配になったりもするけど、話しかけてくれるし、笑顔を向けてくれるし、今だって買い出しに付いてきてくれたし。

…嫌いな相手には普通こんなことしないはずだから、嫌われてるわけではないと思うけれど。


(……じゃあ、なんで距離をとられるのかしら)


「…………」


しばらく考えてみるけど、答えにはたどり着かない。やっぱり私が気にしすぎているだけなのか。…考えるだけ、無駄だ。


はぁ、と深くため息をついて伏せていた顔を上げると、両手にアイスを持って暑さのせいか顔を少し赤くしたルークが、こちらへと歩いてくるのがみえた。

やっぱりいつもと同じように、離れて座って、微笑んで右手に持ったアイスを差し出してきた。

「ごめん、ちょっと溶け始めてるけど…」

「…あ、ありがとう」

ぎこちなく微笑んで、アイスを受けとる。そのとき、少しだけ指が触れてしまった。ルークの指がビクッと動いて、すぐに離れる。触れていたのはほんの一瞬。ルークはパッと視線を反らし、自分の分のアイスを食べ始めた。



私はもっと、ルークに触れたいのに。そう思っているのはやっぱり私だけで。
50センチが、遠い距離に感じる。
なんだか少し、寂しくなった。


「…ティア?」

「………………。」

「……ティア!」

「っ!!…え…?」


すぐ隣から聞こえた声に、顔をあげる。自分の右手にしっかりと握られたアイスは溶け始めていて、コーンを伝って溶けたアイスが私の手袋に染みていた。そして、隣には心配そうに私を見つめるルークの顔があった。さっきまで目も合わせてくれなかったくせに、じーっと私の目を見つめている。

「深刻そうな顔してたけど、どうしたんだよ。…なんか悩みごとでもあんのか?」

「……、…ばか」

ベトベトになった手袋を外しながらぽそっと呟いたその二文字に、え、俺なんかしたっけ!?とルークは戸惑い始めた。その戸惑いようがおかしくて、別になにもしてないわよ、と笑う。

「へ?」

「…、…なんとなくよ。なんとなく、言いたくなったの」

はぁ?と、少しむくれながらも楽しそうにしてるルークを見ていると、あることに気づいてそこに視線を向ける。肩が、軽く触れていた。

ちょっと触れているだけだけど、久しぶりにルークの近くにきたようでちょっぴり嬉しくなる。今はこれで充分かななんて思ったりして、そのまま2人で他愛のない話をして穏やかな時間を過ごした。

それから2人は、昼寝をするのには最適そうなぽかぽかと暖かい日の光に負けて互いに寄りかかって眠ってしまい、あとでアニスとジェイドに見つかって散々からかわれたとか。


fin


───
30センチってべつにそこまで遠くない…
ってことで50センチにしました←
ルークsideも書こうかな…


100405 べべ

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