お洒落で、落ち着いていて、美味しい。 仕事帰りに聖護くんと待ち合わせをして訪れた、フレンチレストラン。 充実した会話を楽しみながら、素敵な料理に満たされた。 それから、指を絡めて歩く、夜の帰り道。 全ての要素がいとおしく幸せは増した。 「ふふ、」 「うん?どうしたのかな、ヒロイン」 「ん、やっぱり幸せだなあと思って」 「それなら君の顔を見ていればよく分かるよ」 「あはは、やっぱり」 それに明日は休日。 今からの時間を、いつもよりゆったりと過ごせることも、気持ちに平穏をもたらした。 「聖護くんも明日はお休みだよね?」 「ああ」 「じゃあ一緒に夜更かしできるね」 「夜更し、……まぁ僕の睡眠時間はいつも通りだと思うけど」 「ふ、そっか、そだね」 「それでも、君は僕と夜更しをして、何を…―――はぁ……ヒロイン、」 「え?聖護くん、どうし……」 「少しだけ待っていて」 けれどその時、聖護くんが小さく溜め息を吐いて。 それはいつもの優しい溜め息じゃない気がしたから、咄嗟に顔を見上げた。 でも表情が確認できるよりも先に、待っていてという台詞と共に、聖護くんの体温は離れていった。 まるで迷子の子供のような不安に突如惑わされ、聖護くんを目で追うことしかできなかった。 進行方向とは逆を向き少し歩いた聖護くん。 立ち止まったかと思えば、「僕達に何か用かな」と言って、一人の女性の前に立った。 「槙島さん…」 「君が付けてきていたことは最初から分かっていたけど、」 「そうなんですか…!」 「住み処まで探らせる訳にはいかないからね」 あと十分も歩けば、家に着くところ。 徐々に人通りも少なくなってきた界隈で起きた出来事。 聖護くんは呆れを含ませた笑みを張り付けたまま、女性に話し掛けた。 小柄で可愛らしい印象の女性。 付けられていた気配なんて全く感じなかったけど、聖護くんがあんな風に言い切るんだから確かなんだろう。 でも付けてきていたらしいその女性は、聖護くんに気付かれ怯むわけでもなく。 それどころか心なしか嬉しそうに。 「けど槙島さん、最近会いに来てくださらないから、もう我慢できなくて……毎日来てくれた時期もあるのに、さみしかった…」 告げられた言葉に、取り残され動けないまま、衝撃を受ける。 だってそれは、以前は聖護くんから足を運び会いに行っていた女性ということを物語っていた。 ―――以前。それがどれくらい前のことなのか。 ましてや聖護くんがこの女性とどのような深さの付き合いをしていたのか。 知る由もないし、知ったところでどうしようもないけど。 私が口を挟む問題ではないことだけは明白だった。 今はただ、聖護くんのくれた“待っていて”という言葉を反芻しながら、成り行きを見守るしかなかった。 「最後の時も、また来るよって言ってくださったじゃないですか、それなのになかなか会えないから……来ちゃいました」 「…その言い方は少し語弊があるんじゃないかな」 だけど、全て仕方のないことだと冷静に思いつつも、寂しくなってしまう気持ちはコントロールできなくて。 さっきまでの幸せは遠退き、甘い魔法が緩やかに解けていく錯覚だけを覚えた。 私が知らない聖護くんの時間があるなんて、当たり前のこと。 でも。 自分のからだからゆっくりと血の気が引いていることを、上手く回転しない頭でぼんやりと理解した。 「ヒロイン、」 「…?」 「おいで」 けれどその時、そんな私の心を見透かしているかのように、聖護くんは一度私に向き直り。 安心をくれる頬笑みで、私の名を呼んだ。 それから手を取り自らの傍に寄せ、隣へと置いてくれた。 状況が何も理解できないことには変わりないのに、これだけで冷えた指先にはぬくもりが灯った。 「ヒロインはこの女性に見覚えはないかい?」 「ぇ…?」 それから聖護くんに言われ、反射的に女性へと目を向けると、しっかりと目が合った。 少しのネオンと街灯の下、鋭い視線が刺さっていることは容易に知れた。 聖護くんに話し掛けられた時は嬉しそうにしていたのに、私が視界に入った途端、露になる剥き出しの敵意。 間違いなく私は邪魔でしかないんだろう。 その上聖護くんの口振りから、私も顔見知りらしいことが判明した。 でもこの女性に関して瞬時に浮かぶ心当たりはなかった。 「ヒロインとは三度程足を運んでいるよ」 「私も?聖護くんと一緒に?」 「そうだよ、その後は君に任せきりで僕が出向くこともなかったんだけどね…、だからヒロインは一人でも何度か訪れているはずだよ」 「ひとりで…、」 「違っ……!槙島さん!!」 居たたまれくなりながらも、記憶を辿っていた。 だけど聖護くんの言葉に反応した女性が一際声を荒らげたから、思わず口をつぐむ。 思い込んでいたような男女の関係とは違うらしいけど、この女性が聖護くんに想いを寄せていることに変わりはない。 その上で私が聖護くんと一緒だったことよりも、更に許せない事柄が存在しているようで、ますます見当がつかなくなる。 「槙島さん、この女に騙されてますよ!それも今日忠告しに来たんです!」 「忠告、―――どういう意味かな」 「だって…槙島さん今まで誰かを連れて来たことなんてなかったのに………まず、その女は槙島さんにとってなんなんですか…?」 「そうだね……簡潔に言うとヒロインは大切に想える女性だよ、おそらく僕にとって唯一、」 「…!!なんで、こんな女が…!?」 きっと天国と地獄。 私にとってはこの上なく幸福な台詞だったけど、女性にとっては酷でしかない。 私だって聖護くんが好きで好きで仕方ないんだから、逆の立場で同じことを言われたとしたらどれ程辛いだろう。 どんな顔をしてここに居ればいいのか分からなくなる。 ついに女性は瞳に涙を浮かべ始めた。 私が涙を浮かべようものならいつだって優しく救ってくれる手は、今も私を離さない。 「この女、槙島さん以外の男とも買いに来てるんですよ!背の高い男と……一昨日なんか腕まで組んで…!」 「うで…?……あ、」 ここまで聞いて、繋がる一つの記憶。 一昨日はグソンさんと紅茶の葉を買いに専門店へ行った。 聖護くんに教えてもらったお店。 確かに初めの三回は聖護くんと行った。 でもその後は、聖護くん好みのものを私が買って帰ると喜んでくれるから、一緒には行かなくなった。 そこの紅茶屋さんでは紅茶を入れてもらい飲むこともできたけど、私の入れる紅茶に満足してくれるようになった聖護くんは、お店には行かなくなっていたみたい。 だけどグソンさんとは時々一緒に買い物に行く。 一昨日も時間が合ったから一緒に行った。 まだまだ冷え込む夕暮れで。 「グソンさん寒いからくっつかせてー」なんて陽気に言ってみれば、「そうですね、くっついて行きましょうか」と優しい笑みが返ってきた。 だから雰囲気のまま腕を借り、来店し並んで茶葉を選んだ。 二人の間にあるものが恋愛感情とは程遠かったとしても、端から見れば睦まじい関係でしかなかったのかも知れない。 そんな光景の上に生じた結果。 この女性に直接接客をしてもらったことはなかったから、私の中で鮮明ではなかっただけだと気付く。 「紅茶屋さんの……?」 「やっと分かった!?あんた槙島さんだけじゃなくて、他にも男いるじゃない!槙島さんのこと裏切ってるでしょう!」 グソンさんと過ごすことで、まさかこんな展開になるなんて考えたこともなかった。 少しだけ拍子抜けしている私を余所に、話は更に転がっていった。 「だから槙島さん!この女、槙島さんだけじゃないんですよ!」 「へぇ……そう、」 私が好きなのは聖護くんだけ。 そんなの当然のこと過ぎて、もちろん聖護くんにも伝わってると思ってた。 でも今の返答が低く冷静で乾いてた。 だから聖護くんもそう感じてくれているのか不安にもなってしまい、表情を見つめる。 けど、感情を読み取らせない笑みで女性を見ているだけだった。 「あんたみたいな男狂いの尻軽女!槙島さんの傍にいる権利なんかないのよ!!」 女性は追い討ちを掛けるように言葉を並べた。 生まれて初めて浴びせられる罵倒に動揺しつつも、まずは誤解を解きたかった。 「違うの、聖護くん、おとといは…」 「言い訳は、いいよ、ヒロイン」 聖護くんに聞いてもらいたかった。 でも私の言葉を遮るように、繋がれていた手が、離れていって。 全身の血液が逆流をした。 最悪な不安が的中してしまったのだろうか。 今度こそ置き去りにされる。 咄嗟にそう感じた刹那、無意識に私の目にも涙が浮かび始めた。 今まで聖護くんが私の話を聞いてくれなかったことなんて、一度もないのに。 それがどれだけ幸せなことだったか、改めて気付くなんて、愚か。 どうしたら耳を傾けてもらえるのか必死に考える。 惨めでもいいから、縋りたくなった。 「フ……やっぱり、馬鹿だな」 「ぇ…?」 だけど、そうじゃなくて。 今度は聖護くんの腕が私の腰に回ってきて。 手を繋いでもらっていた時よりも、もっとちゃんと捕らえられている感覚。 私の浅はかな思案など、まるで無意味だと言わんばかり。 聖護くんになら馬鹿呼ばわりされても、やっぱり幸せでしかない。 「そんな顔をされると、今のこの時間さえも惜しくなるよ……一応君の為にも彼女と向き合っているつもりなんだけどね」 「聖護くん…?どういう意味……?」 感情も思考も追い付かないけれど、ただ呆然と聖護くんの顔を見ていれば、聖護くんの唇が耳許に近付いてきて。 「早く連れて帰りたい」と囁かれ、どん底から一瞬で救われる。 脈絡のない言葉たちは一向に理解できないままでも、この安堵は計り知れなかった。 こんなにも簡単に私のことを一喜一憂させられるのは聖護くんだけだと思い知る。 「なんで…… 槙島さん…!私の話、聞いてましたよね…!?」 「それだけ喚かれたら嫌でも耳に入るよ」 「じゃあ…なんで………なんで、そんな女のことを庇うんですか!」 「大切に想っていると言っただろう」 「でも…だって浮気するような女ですよ!?」 聖護くんがまた一つ、溜め息を吐いた。 「そうだね……例えばヒロインが、君の言葉を借りて男狂いの尻軽だったとするよ」 「例えばじゃなくて、本当なんです!」 もしかしたらまだ誤解は解けていないのかも知れない。 でも今はそのままでも良いって思えた。 もうこれ以上、この場で何かを口にするのは、きっと利口ではない。 「だとしても、僕にとってはどうでもいいんだよ」 だってそれでも私は、こんなに大切にしてもらえている。 「僕が、僕の意思で、ヒロインと共に過ごしたいと思っているんだから、」 「そんな……!だって……」 「ここからは、僕からの忠告だけど―――」 聖護くんの声色が今日一番冷める。 ううん、それどころかこんなに冷たい声、出会ってから今までに聞いたことがない。 嘲笑うような牽制。 「――…嫉妬は、君が自らいかに不幸に感じでいるかを告げるもので、」 時々意地悪を言うけど、いつだって最後には私を甘やかす唇。 今は冷酷な台詞だけを吐き出している。 「君が他人の行為に絶えず注目しているのは、君自らが退屈していることを示すものだ――」 「槙島さん!不幸とか退屈とか……そうじゃなくて、私はただあなたが好きなだけで…!」 「そう……それでも僕は君に手を差し伸べる気もないし、そもそも君自身に興味がない」 こんな聖護くんは見たことがなかった。 「ここまで言えば君でも理解できるよね?」 「っ…!」 「何を言われようと、僕の心には一つも響かないよ」 だけど、知らなかった一面を目の当たりにしても、私の心が揺らぐことはなかった。 一歩間違えれば自分がこんな風に切り捨てられる未来だって在るかも知れないのに。 それでも今もまだ、恋する気持ちは増していく一方。 「君の成すこと、全て、無駄だ」 聖護くんが言い切ると、女性は言葉を失い大粒の涙で頬を濡らしたまま、虚ろな表情で立ち尽くした。 私には掛ける言葉が見付けられなかった。 そもそも私から何か言ったところで救える状況でもないだろうけど。 「―――行こうか、ヒロイン」 「ぇ…?…うん、でも……」 「君の性格上放っておけないのも分かるけど…」 このままの女性を置いていくのは少し気が引けた。 だけど聖護くんが私を離さないでいてくれる。 「僕達にはもう関係ないよ、だから行こう、ヒロイン」 「……うん…」 それは何よりも尊くて。 私が見つめていればいいのは、このひとだけ。 「それにさっきから言っているけど、早く連れて帰りたいんだよ、ヒロイン」 「……ん、そうだよね、聖護くん」 この腕の中で悠々と時を重ねていければいい。 ただ、それだけ。 腰に回されたままの腕に従うように、女性に背を向け歩みを再開させた。 「厭な思いをさせてしまったかな」 「ううん…大丈夫、ありがとう聖護くん」 改めて二人きりの時間。 見上げてお礼を言えば、降り注ぐのは甘やかな視線。 「僕一人でいたならばきっと相手にもしなかっただろうけど、ヒロインが悲しそうな顔をしていたから」 「…だから、私のため…?」 「どうせ有らぬ想像を膨らませていたんだろ」 「ぁ……ふふ、そうだったみたい」 「フ…離れていて、顔が見たいと思える女は君が初めてだから、安心しなよ」 「聖護くん…」 今すぐにでも抱き付いて、キスをねだりたい気持ちを抑え、寄り添う。 どうしよう、聖護くんのせいで、今夜はいつもよりもっと甘えたい。 「それにさっき告げたことも本心だから、今後も君が悲しむようなことは起こらないだろうけど…」 「本当にうれしい……ありがとう」 うっとりとした心持ちで、私を虜にする声に耳を傾けていた。 「でも、まぁ……これに懲りて、男遊びだけは程々にしておくことだね」 だけどここでまたさっきの話題。 聖護くんがまだ勘違いしていたらしいことに気付き、慌てて首を横に振る。 「…!、違うの、聖護くん、」 「……ハ、」 すると聖護くんはどことなく楽しげに、冗談だよと言って。 「…チェ・グソンだろう、」 どうせ、と付け加える口調は呆れてた。 でもとっても柔らかくて、恋しさは募るばかり。 「よかった、誤解されてなくて」 「しないよ」 「私は聖護くん一筋だからね」 「それも知ってる」 自信に満ちた口振りが、こんなにも心地好い。 最初から誤解されていなかったことも、その上であんなにも幸福な本心を聞かせてくれたことも。 私の好きがちゃんと伝わっていたことも、ひたすら嬉しかった。 それから家に着き、一緒にお風呂に入って。 今寝室で眠る準備。 いつもより甘えたい今夜は、なんだか聖護くんの声をもっとずっと聞いていたくて、さっきお風呂で朗読をねだった。 少し前にずっと読んでいてもらっていた本が結末を迎えた。 その晩からは肌を重ねて眠る日がほとんどだったから、こんな夜は久々。 聖護くんは今、本棚の前で新しい本を選んでくれている。 私は先にベッドに座って待っているけど、そんな聖護くんの背中から自然と目が離せなかった。 お風呂上りのラフな格好からでも滲みでるスタイルの良さも感じつつ。 間近で見つめ合っていても、少し離れたところからこうして眺めていても、愛おしさは全く変わらないと思う。 同時に無意識の中、今日の一日も思い返されていた。 そうすれば、こんなにも好きになれたひとに、こんふうに大切にしてもらえている事実もまざまざと浮かび上がって来て。 もうすぐ隣に来てくれるだろうけど、居ても立ってもいられなくなった。 咄嗟に、背に抱き付きに行く。 「聖護くん…」 「ヒロイン?どうしたのかな」 急にしがみつかれても動じることなく、穏やかに言葉を掛けてくれる聖護くん。 やさしい声。 「うん…すき、だいすき……ありがとう、聖護くん」 「僕は今礼を言われるようなことをしたかな?」 「だって……こんなに素敵なひとが………」 「うん?…フフ、」 聖護くんが振り向いて、目が合う。 お腹の前に回した手にも手が重ねられ、対面になるよう軽く引かれた。 緩やかに瞳を細める様が神々しくさえ見えた。 「聞かせて?」 「うん、やっぱり…こんなにも完璧なひとに大切にしてもらえてることが夢みたいで…」 「夢……どうして?」 「だって私、自分が特別だなんて思ったことないし、どこにでもいるような女だろうし…」 今日の女性だって可愛かった。 最終的な形は違ってしまったとしても、きっと聖護くんを想う気持ちは一緒だった。 私が知らないだけで、聖護くんの回りには今日みたいに聖護くんを慕う女の子がいっぱいいるはず。 そんな中、私だけが隣に置いてもらえている。 「そうかな?僕にとってヒロインは、やはりどう考えても特別だよ」 「……ほんとう?」 聖護くんは私の目を真っ直ぐに見つめたまま、私の髪に指を通し梳いた。 あたたかい照明の部屋で、金色の瞳は蜜のようにあまい。 「本当だよ、特別、―――僕はヒロインとそんな風に思える日々を重ねて来たつもりだし、これからもそんな日々を作っていくつもりだけど……」 でもその時、そんな瞳に僅かに影が落ちて。 「だけど……ヒロインはそう感じていないのだとしたら……」 少し傷付くな、なんて眉を下げ、本当に困ったように笑うから。 なんて馬鹿げたことを聞いてしまったんだろうと、刹那に自分を恥じた。 明確な答えに甘えたいだけだった。 そんな顔をさせたかったわけじゃない。 「ごめんなさい…!聖護くん…もうわかった…、私にとっても聖護くんは同じように特別だから」 「そうだね、そうやって考えればいいよ、君が僕を想うように僕も君を想っているから」 また極上の台詞をもらえて、感極まる。 言葉にならず、うん…とだけ頷けば、聖護くんの表情も晴れていった。 「それに僕も自分が特別な人間だなんて思ったことはないよ、ごく普通で本質的にありきたりな人間だ」 「ぇ…聖護くんでも自分のことをそう思うの?」 「ああ、だがそれでもヒロインにとって僕はそんなにも特別なんだろう?」 「うん、とっても、特別」 「だから、僕だって、そういうことだよ」 ああもう。どうしようもない。 今夜は自分から朗読を望んだくせに、このまま優しく触れられたくもなる。 我慢できずにまたぎゅうっと抱き付いた。 同じシャンプーの香り。 でも聖護くんの香り。 「聖護くん…」 「うん?」 「ん……あいしてる…」 「……え?」 相応しい言葉なんて見付からないけど。 他にどうやって伝えればいいのかも分からない。 肩口に預けていた顔を上げ、目を見て再度告げる。 「聖護くん、愛してるの」 すると聖護くんはこれ以上とない程満ち足りたように微笑んでくれて。 同時に横抱きにされ、からだは宙に浮いた。 本当に、愛してるを何度伝えても足りないくらい、好きで大切で愛しい。 「もう一度言ってくれるかい、ヒロイン」 「うん、あいしてるの、愛してる、聖護くん」 言えば唇に触れるだけのキスが落ちてくる。 聖護くんはそのままベッドへと向きを変えた。 「…ベッドに連れて行ってくれるの?」 「もっと聞かせてもらおうかと思って」 「……ふふ、じゃあ朗読はおあずけ?」 私の気持ちも触れ合うことに完璧に傾いていた。 だから当然それでも構わないんだけど。 今聖護くんが求めてくれているのが分かるから、少しだけからかうつもりで朗読という単語を出してみた。 でも聖護くんはそれも裏切らなくて。 「両方するよ」 「両方?」 「だって、今夜は一緒に夜更かしができるんだろう」 だから両方、と言いながら、ベッドの上へ私を優しく置いた。 贅沢過ぎて目眩がしそう。 甘い甘いキスからはじまる行為。 とびきりの想いを込め、何度だって愛してるを囁いた。 蜜月にラグジュアリーを添えて ← top ← contents ×
|