―――嗚呼、綺麗。 動く度に揺れる銀色、きれい。 より白く、くっきりと浮かび上がる鎖骨、きれい。 獣のような眼差しを宿して私を映す金色、きれい。 目に映るもの、全てが綺麗。 見とれながら、緩やかに迫り来る快楽に溺れていた。 ぎりぎりまで腰を引き、ゆっくりと私の奥まで浸入する行為を繰り返している聖護くん。 最奥を突かれる度に、私の唇はいやらしい喘ぎを漏らした。 その声に聖護くんは満足げに口角を吊り上げた。 まだまだ余裕なその表情にも、秘かにときめく。 「…はぁ……、しょうごくん…」 「なんだい、ヒロイン」 私からも触れたくなって手を伸ばす。 二の腕を掴めば、筋肉の弾力が手のひらに伝って。 自分にはない感触が無性に愛しくて、下腹部はきゅうっとなった。 その瞬間、聖護くんの顔付きは僅かに歪んだ。 私のからだによって、聖護くんがそんな表情を見せてくれることがたまらなく幸せだった。 歪んだ美しい顔、本当に綺麗。 「…何を考えて、そんなに締め付けているのか知らないけれど、」 「ん…だって、…聖護くん…すき」 「ああ」 好きと言えば、押し寄せる快楽の速度が少し増した。 それから聖護くんは汗ばむ私の額を大きな手で優しく撫でてから、頬にキスをして。 唇を耳許に近付け、たっぷりと艶を含ませた低い声で「ヒロイン」と囁いた。 聞き慣れた自身の名なのに、こうして聖護くんに呼ばれる時の響きは何よりも甘ったるくて。 それだけで意識は飛んでしまいそうになる。 「ゃ…あッ…!」 「フ……全く君って子は……僕は今、名を呼んだだけだよ」 コントロールの効かないからだは、加減なく聖護くんを締め付ける。 すると呆れと愉悦が混ざり合ったような吐息が耳に掛かり、耳の輪郭を舌でなぞられ。 ぞくぞくとしたものがからだ中を巡る。 何をされても気持ちよくてどうしようもない。 でも聖護くんのせいで欲張りなからだはもっと大きな快楽も期待していて。 「………聖護くん…」 縋るように名を呼べば、聖護くんは不敵な笑みを浮かべつつ私を見下ろした。 「そんな顔とそんな声で………そんなに僕を煽って、どうするつもりなのかな」 「そんなつもりじゃ………あっ…まって、聖護くん…!」 そうして聖護くんは私の膝を押さえ付け、腰の動きを速めていった。 行き場のなくなった手で頭の下の枕をぎゅっと掴んでいると、聖護くんの手は私の胸を揉み頂きに刺激も与え始めた。 全身を埋め尽くす衝動に、もう何も考えられなくなる。 それでも聖護くんから目も離したくなくて。 無条件で潤んでしまっているであろう瞳で、ずっと見つめていた。 「聖護くん……きもちいー…」 「…ッ……ヒロイン……」 激しく私のからだを揺さぶる聖護くんからも徐々に消えていく余裕。 少しつらそうに目を細めて、切なげに漏れる息遣いがたまらなく色っぽい。 こんな聖護くんを見つめていられる特権も身に染みて。 本当に、もう、だめ。 そう思った瞬間。 「ヒロイン…」 「ん……はぁ…は……ぁ……、」 聖護くんは腰の動きを止め、私のからだに腕を回し抱き締めた。 ふ、と途切れた快楽に、現状が理解できずに。 解放されたような安堵と、手に負えないもどかしさが脳内を占拠した。 聖護くんと私の荒い呼吸だけが共鳴している。 「―――……フロイトは、」 「……ぇ…?」 「自分に対してとことん正直になること、それが心身によい影響を与えるのである―――そう言ったけれど、」 そんな中、いつもより僅かに掠れた声で紡がれた言葉。 変わらない質量を体内で感じながらも、ちぐはぐな思考を纏めていけば。 唐突に語られた哲学を把握する。 意図は見えなくても、いかにも聖護くんらしい行動に自然と笑みが零れる。 続きをしてほしい気持ちがないわけではないけれど、聖護くんの全てを受け入れていきたいから。 私も聖護くんの背に手を回し、髪を撫で、そっと抱き締め返した。 聞くことに気持ちを切り換えていく。 「僕にとってそうであっても、君にとってはどうなんだろうね」 「…?…うん?」 だけどさっきの言葉も全てが頭に入ったわけではないから、反芻もしきれなくて。 聖護くんの言葉の意味をきちんと追えずに曖昧な返事。 「…僕は、こういった欲求に関しては淡泊だと思っていたんだけど、」 すると聖護くんは肘で上体を支えて、私の顔を覗き込んだ。 間近で目が合うと、触れるだけのキスが降ってくる。 「こういった…って……、今みたいな?」 「ああ、こういった、」 そうしてまた唇が優しく触れ合ったことに、くすくすと笑った。 「面白味のあることを追求していた方がよほど実になるだろう」 「でも…うそ、いつも肉食獣の目をしてるのに……ふふ、さっきまでだって、」 「ああ、だから、どうやら君と出会う以前に限った話のようだね」 今、聖護くんがくれる言葉はすんなりと私の中に落ちてきた。 今の聖護くんはいつもよりも少し噛み砕いて言葉選びをしてくれているような気がした。 求め合うことに侵され霞んでいた私の思考は穏やかな言葉に包まれる。 「ヒロインとならば、できるだけ長くこうしていたいと思うんだ」 「聖護くん…」 なんて幸福な台詞なんだろう。 私だってできることならずっと、その綺麗な金色に収まっていたい。 聖護くんが同じように思ってくれていたことが、あまりにも嬉しくて。 瞳にはうっすらと涙が溜まり始めた。 そんな変化にもすぐに気付いた聖護くんは、溜め息を吐き眉を下げつつも口角を緩く上げた。 「それなのに…、この涙然り………君は煽るだろう」 「ふ…だからそんなつもりじゃないんだけど…」 目尻に口付けをされ、零れそうになった涙は掬われる。 それから首筋に唇を這わせられ、じっくりと吸い付つかれる感触。 きっと薄い紅が咲いた。 「…ね、聖護くん」 「なにかな、ヒロイン」 「もう一回聞かせて?さっきの、」 言えば、徐に顔を上げた聖護くんは目を見ながら発端の言葉を口にしてくれた。 今度は一言一句漏らさずに頭に入ってきて、今までの会話とも繋がる。 そして更に湧き上がるいとおしさ。 「……いいのに」 「うん?」 「何度だって、聖護くんのしたいようにしていいの、それが私にとっても一番だから」 体感したことのない欲が溢れてくるのなら、際限なくぶつけてほしい。 私にだけの感情ならば、尚更。 聖護くんの為だったら、何度果てたって、自分の限界なんて気付かないふりできる。 「ハ……本当に君って子は………、これでも僕は一応君のからだを気遣ったつもりだったんだけどね」 「ん…でも、してほしいの」 「そう…じゃあ覚悟して」 聖護くんの声色がワントーン下がる。 柔らかな口調で語ってくれていた聖護くんは瞬く間に見当たらなくなって。 瞳には鋭い光が差したかと思えば、噛み付くようなキスと共に激しい律動も再開された。 「アッ…!や、…ぁ、聖護くん…!」 「……ん、イキな、ヒロイン」 「〜ッ…!あぁ…!!」 急激に襲う、呼吸すらままならない快楽に、早々に達した。 でも、聖護くんは満足げに私を見下ろしながら、攻めることはやめなかった。 「聖護くん…!…でも、おかしく、なっちゃう…!」 「いいよ、もし君が快楽に狂ってしまったとしても、僕は君を手放したりしない」 「ッ…ン…、…あぁ…!」 「だからヒロイン、安心して、感じて、見せて」 そう言って聖護くんは、さっき薄く跡を残した場所に、もう一度唇を宛がった。 だけど今度は痛みを伴う程の強さで。 繰り返し押し寄せる波に呑まれそうになりながらも、一瞬、喉笛に噛み付かれる錯覚に陥った。 でもこのひとにされるなら、それでも構わないような気がして。 聖護くんの腕の中で溶かされるからだ。 このまま溶けてなくなっちゃったら、骨の髄まで食べ尽くしてもらえるのに。 なんて、馬鹿げた夢物語まで浮遊し始める。 けどそれでいい。 からだも、心も、思想も。 私の全てを支配していてほしい。 聖護くんだけの美徳で、欲望のままに。 美しい獣のフィロソフィー ← top ← contents ×
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