We must be famished



自宅で作業中、テイクアウトした品が入っているらしいカフェの紙袋を持ってダンナが現れた。


見覚えのあるそれは、ダンナとヒロインが暮らすあの家の傍のカフェのものだった。


渡されたから何かと問えば「君の夕飯だよ」とにこやかに返され、夕飯など用意される理由もなく、意味が分からない。


「はぁ…」と気の抜けた返答をしてみるが、それに対して帰ってきたのは「16時か……」という言葉で、ますます意味が分からない。


「……何か用があるんです?」

「昨夜色々とあってね、」


今後の予定を聞いたところ、ダンナの意識は時間を遡った。


とはいえ全て繋がるのだろうから、おとなしく耳を傾けることにした。


「いろいろ、ですか」

「ヒロイン以外の女と食事をしたよ、そうして好きだ抱いて欲しいと、媚薬まで盛られ迫られた」

「…!…まさかダンナ、ヒロインさんを裏切ったりとか……」

「ヒロイン以外に欲情するわけないだろう」

「ならば良かったです……で、その無謀な女は……?」

「殺したよ」

「成程……」


それは正に色々だった。


他人の色恋沙汰や、見知らぬ人間の生死などどうでもいいが、ヒロインが傷付くことだけは望ましくなかった。


故にその自体が避けられていた事に胸を撫で下ろす。


「だがそのおかげで僕のヒロインへの想いがより一層明確なものになったんだ」

「それはもう言葉にして伝えたら喜ぶと思いますよ」

「そうだね、僕もそう思うよ、今まではっきり伝えたこともなかったからね 」

「…!?」


しかしここでダンナから思いもよらぬ発言が飛び出した。


槙島聖護という男は雄弁で感じたことは明瞭に口にできるはずだが。


「もしかして…ダンナ……それは、好きとかそういう類の言葉を伝えたことがないと…?」

「ああ、それに昨夜気付いたんだ、だから今夜きちんと伝えたくてね、」


傍から見ればだだ漏れしている気持ちをヒロインに伝えたことはないらしく。


それが今夜伝えられるということならば、絶対に邪魔などしたくなかった。


ヒロインがその時間にどれ程の喜びを感じるのか手に取るように分かるから―――。


「そういう訳で今夜は君には遠慮してもらいたい」

「いや…もう、そんなの…言われなくともご遠慮させていただきますって」

「助かるよ」

「はぁ……ヒロインさん早く帰って来ねェかな…」

「ああ、僕もヒロインの帰宅が待ち遠しいよ」


そうしてダンナと俺はヒロインの帰宅まで、何処か落ち着かない時間を過ごすこととなった。



(そわそわ犯罪者達)


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