03
テスト前日。
いつもより緊張感を持った終礼も終わり、名前は教室に残って勉強していた。
「.........」
「...........」
(コウくんも勉強しているんだ……いつも授業聞いてないようだけど。
......でもなんかイライラしてない?)
「.........」
「..............」
「........」
「..............あ゛あ゛ーもうわっかんない!」
「(あ、噴火した)……大丈夫ですか?」
「ぜんっぜん大丈夫じゃないね!意味わかんない!昔の人ってよくこれで告白なんて出来たよね!」
___確かに大丈夫そうじゃない、うん。彼の手にあるシャーペンがギシギシ音をたてている。
「古文やってるんですか?……今回の範囲は徒然草でしたよね。見ていいですか?」
前に座っている生徒にここまで騒がれたら後ろにいる私にも迷惑がかかる。とはいえ、頭を抱えている本人がちょっと面白いので関わってみることにしよう。
「……これは236段ですね。しがの何がしが聖海上人達と出雲へ詣でるお話でしたっけ」
コウくんが向き合ってる文章を読ませてもらった。
「この文章は徒然草の中でも特に有名ですし、要旨を文字数制限で答えさせるのは王道ですよね」
いつも授業を聞いていないコウくんでも重要な箇所をテスト前に復習しているということに感動しながら本人を見やった。
「……えっ睦月ちゃん分かるの!?ちょっとこれ教えてくれない!?」
___唖然とした顔でこちらをみていた彼は私の問いかけに気付くとものすごくキラキラした目で見てきた。アイドルか。スーパーアイドルにもれなく着いてくるオプションか。でもどちらかというの犬の期待した目のような気もする。
「いいですよ。私もまだ古文の復習をしていないですし。どうして急にやる気になったんですか?授業いつも聴いてないじゃないですか」
「あはっバレた?」
__それは分かる。目の前であれだけ盛大に欠伸をされていると誰だって気付く。
「確かに今まではやる気なかったんだけどねー。ルキくんにテストで赤点取ったらとボンゴレちゃん1ヶ月作らないって朝言われちゃって!
あ!ルキくんっていうのはA組にいる俺のお兄ちゃんね♪」
(ぼ……ボンゴレちゃん??)
「な、なるほど……好物が懸かっているんですか……なら尚更がんばらないとですね。私でよければ教えますよ」
彼がだいぶ困っているみたいなので前後の席のよしみとして協力しよう
「よろしくね♪名前ちゃん先生♪♪それと俺のこと君付けなしで'コウ'って呼んでね!」
「は、はぁ……ではよろしく、コウ」
そうして前後の席での先生・生徒の関係が出来た
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「なるほどー!なんだ!案外簡単じゃん♪この話も何だかんだいってオチが面白いし♪」
「分かったようで何よりです」
「ありがとねー!すごく分かり易かった!!ルキくんよりも分かり易かったかも♪」
意外とすんなり解けて嬉しいのかノートを頭に掲げて喜んでいる。
「それにしてもどうしてこの文章に要点を絞っていたんですか?」
「えへへっ♪それはねールキくんが教えてくれたんだよ!普段から授業聞いてないだろうから、せめてもの救いとして、テストで出題されるであろう文章教えてやるって!」
どうやらコウのお兄さんは相当頭が良いらしい。よほどの自信が無い限り文章を指定して教えることはないだろう。そのお兄さんに少し興味が湧いてきた。
「名前ちゃんの教え方もとても分かり易かったし!これだと俺、ケッコー良い点数じゃない!?」
「テストで出るような問題を予め解いたことがあるのとないのとではかなり差がありますからね。コウも最初を少し教えただけで後は自分でスラスラ解けていけたので得点は高いと思います」
本人を励ましていると2人きりだった教室に黒髪の男子生徒が入ってきた。視界に入るまで存在に気付かなかったので相当騒いでいたんだろう。
「コウ、遅いぞ。すでにユーマたちは車に揃っている。俺達もそろそろ帰るぞ……ん?勉強を教えてもらっていたのか」
「あ、待たせちゃってた?ゴメンね!今片づけるよ!名前ちゃん、この人がさっき俺が言ってた おにーさんだよ!」
どうやら本人らしい。興味をもってすぐに向こうから会いに来てくれるとは運がいい
「はじめまして。最近この学校に転校してきました睦月名前です。コウとは席が前後で仲良くさせていただいてもらっています」
「無神ルキだ。弟がお世話になったみたいだな。よろしく。
………それにしても随分綺麗にまとめたノートだな。羨ましいくらいだ」
「でしょでしょー!名前ちゃんノート見やすいし、すっごく教えるの上手いんだよ!ルキくんにアドバイスしてもらった古文の文章教えてもらったんだ♪」
「大袈裟ですよ、コウ。それに急がなくていいんですか?後片付けはしておくので急いでください」
「ありがとう!ルキくんも待たせてごめんね!!あと名前ちゃん!また今度教えてもらっていい??」
彼は鞄に荷物を片付け終わり立ち上がりながら華やかな笑顔でこちらに向いた。
「いいですよ、私も楽しかったです。それでは、また明日」
「すまないな、俺からも礼を言う。では今日は失礼させてもらうぞ」
「まったねー☆」
そうして2人は教室から出て行った。
______
「それにしてもコウ、お前が人間の女に入れ込むなんて珍しいな」
「うーん、まぁね。最初に会った時、あの子のお兄さんに心当たりがあって。そいつは人間なのに結構いい奴でさ!
それに彼女、俺のボンゴレちゃんの為に協力してくれた!」
「兄?芸能界にいるのか?」
「そうだよー!睦月始っていう、あるユニットのリーダーやってるんだけど結構スゴい奴で」
「ふーん。コウがそう言うってのはソートースゴいアイドルなんだろうが、お前に勉強を教えたっていうその女も気になるな」
「コウが...人間...を誉める...なんて珍しいね......」
「それに彼女、血も美味しそうだったしね♪」
「フッ………無理に吸って怖がられでもしたらもう教えてもらえないかもしれないぞ?」
「我慢......しなきゃ、ね」
「わかってるよー
……ああ、でもいつか吸わせてくれないかなぁ………」
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