02
____放課後。約束通りレイジにテスト範囲を教えてもらった後、名前は図書室に来ていた。
夜もずいぶん遅いため、窓の外は真っ暗だ
(......蝙蝠がずいぶん多い)
コウモリの群れが飛び交う窓の外を気にしながら本棚を眺めているととある本が目に止まった
『ウラド三世』
___ドラキュラ伝説として語られている有名な貴族の男。どこか惹かれて本棚から取り出し表紙をしばらく見つめた後、名前は借りようと小脇に抱えた。
他におもしろいものはないかと図書室を探索しているととても小さな音だが、何かが耳に入ってきた。
(クラシック音楽?...ブラームス)
音の出先を辿ると図書室で寝ている青年のイヤホンに辿り着いた。
(すごい音漏れ。耳痛そう…)
そんな心配とは裏腹にイヤホンの持ち主は心地よく寝ている。名前の気配に気付いたのか、机の上に腕枕をして寝ていた彼は声をあげた
「んっ………ああ?なんか用?」
彼は心底ダルそうに片目を開けてこちらを見た
「初めまして。本日転校生してきました3年の睦月です。そろそろ起きたほうが良いと思いますよ?下校時刻が迫っています」
「めんどくさ……お前には関係ないだろ
……ん?何だその本は」
彼は名前が持っている本に興味を持ったらしい。こちらを凝視している
「これですか?先程見つけて借りようと思ったんです。
先程コウモリの群れを見たので読みたくなりまして。ウラド三世ってドラキュラ伝説で有名ですから」
「ふーん……信じてんの?ヴァンパイア」
「存在ですか?……昔話なのに今もたくさんの伝説があるということは実在していてもおかしくないと思います。
それに信じられないような奇天烈な出来事を幼い頃に何度も体験しているので、もし見たとしてもすんなり受け入れられる自信がありますよ!」
彼女は少し考えた後、そう答えた
「くくっ……おもしろいなアンタ。
そうだな……信じてるなら実現して...」
彼は名前の答えに機嫌を良くしたのか、先程までの心底ダルそうな顔を妖艶に微笑ませ、名前の頬に手を伸ばした
その時、
トントントン
彼の行動を遮るように静かだった廊下から足音が聞こえた。こちらに近付いている。音の持ち主は走る勢いのまま図書室のドアを開けた。
「! シュウさん!探しました!
……ハァハァ」
随分急いでいたのか、図書室に入ってきた女子生徒の呼吸は乱れている
「チッ……せっかく面白くなるかと思ってたんだけどな」
興が醒めたといったように舌打ちをした彼は伸ばしかけた手を下ろし、再び机に伏せる。どうやら彼の知り合いであるらしい彼女は溜息をついてこちらに近付くと彼を急かした。
「車にすでにみんなが集まってますよ。急がないとレイジさんに怒られますよ!」
そう言いながら彼女は腕をグイグイ引っ張っている
当の本人は無関心
「……迎えがいらしたようですね。では私は失礼します」
一方的なやり取りを見ながら名前は貸出手続きを済ませ、図書室を後にした。
(……さっき何をしようとしたんだろう)
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