03
「俊…俊、」
「…たくない」
「え?」
ぽつりと小さく響いた、俊の呟き。
それと同時に俊が顔を上げて。
俊のうるんだ瞳から一筋…今まで一度も見た事のなかった涙が零れ落ちた。
それを見て、ズン、と胸に重い痛みが走る。
「ちょっ、何泣いて…」
「もう、離れたくないんだよ…!」
途端、全身に感じるぬくもり。
―…俊に抱き締められてると気が付くまでに、数秒かかった。
「嫌だ…離れたくない」
「俊…」
「オレを、置いてくなよ…」
「……ッ」
もう、我慢なんて出来なかった。
私の両目からも、次から次へと涙が溢れてきて。
「俊、ごめん…ごめんね…」
えぐられるように、胸が痛い。
本当は俊を悲しませたくなかった。泣かせたくなんかなかった。
ずっとずっと、笑っていたかった。
それなのに…
「名前とオレが初めて会った時の事…覚えてる?」
「え…?」
「席が隣になったんだよな。それからたくさん話すようになって…」
「…うん」
「名前はオレが落ち込んでる時、いっつも助けてくれた」
「……」
「オレは、名前の事助けられてたのかな…」
そう言った俊の声は、今にも消え入ってしまいそうで。
…馬鹿。
「俊の、馬鹿」
そんなの、決まってるじゃん。
「救われたに、決まってるじゃん……ッ」
俊がいなかったら、今の私はいなかった。
どれだけ俊が、私にとって大切な存在だと思ってんの。
俊がいたからいつも笑えた。
私の幸せの中には、いつでも俊がいた。
だから、私だって本当は…
「離れたくなんて、ないよ…っ」
やだ。ずっとこうしていたいよ。
これから先も、ずっと隣にいたいよ。
俊の背中にまわした手に、思いっきり力を込める。
私が隠れるくらいの、大きな背中。
制服越しに感じる、俊の体温。
もうこのぬくもりを感じる事は…出来ないんだよね。
駅のアナウンスが、出発の時間は間もなくだと告げる。