春風舞う季節と共に | ナノ


牢獄という名の宿屋

「……おいユラン、どういうことなんだコレは」


呆れを多分に含んだ無表情のタクトに、ユランは何事もないように答えた。


「どういうことって言われても、こういうことなんだけど……あ、料理長ーっ、ごはんおかわり!」


「おかわりしてる場合か!! ちゃんと説明しろっ!! てゆーか何で牢獄に料理長なんかいるんだよ?!」


「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてコレ飲みなよタクト。はい牛乳」


「誰がカルシウム不足だっ!!」


「何よ、私の牛乳が飲めないって言うの?!」


漫才なのかケンカなのか分からないやり取りの合間にフィリアが何とか口をはさんだ。


「あの……ユランさん。お酒ならともかく牛乳でそれは言わないんじゃないでしょうか」


「突っ込むところそこ?! えーっと……とりあえず二人とも落ち着こうよ」


まともなことを言うのはキルハだけであった。


「もう……久しぶりに会ったっていうのに相変わらずだなぁユランとタクトは」


「えへへ、おかげさまで」


「いや褒めてないから」


なぜか照れるユランを制し、キルハはさっきから気になっていたことを訊ねてみた。


「ところでさ、ユラン……ここって宿屋だったっけ? それとも食堂?」


やけに清潔感漂うこの部屋は、牢獄のイメージとはかけ離れた存在であった。しかも運ばれてくる食事もよく牢獄にあるような粗末なものではなく、おいしそうなものばかりである。


「牢獄という名の宿屋よ」


「いやそれおかしいだろ」


「別におかしくなんかないわよ。ただちょっとみんな人相が悪くて、建物の管理人が猪で、外からの客はいなくて、お部屋が鉄格子で区切られてるだけで」


「…………」


充分おかしいと思う。


「番長!」


背後から野太い声がユランを呼んだ。どう考えても声の主の方が番長面をしているにも関わらず、自分の歳の半分くらいの少女を“番長”と呼ぶいかついオッサン。タクトは危うく牛乳でむせそうになった。


「……ばんちょう?」


「あら、ユランさんは番長なのですか。料理長もいらっしゃいましたものね」


「そういう問題ではないんじゃないかなフィリア」


やはりどこかずれたことを言うフィリアにキルハがやんわりツッコミを入れる。


「私、ここでは番長って呼んでもらうことにしたの。そっちの方がカッコイイでしょ?」


胸を張るユラン。そんなユランの言動と過去の経験則から何があったのかぼんやりと想像出来てしまったタクトである。


「……女王様の方が良かったんじゃないか番長」


「あら、さっすがタクト。私の趣味分かってるじゃない。実はどっちか迷ってたのよねー」


「…………」


まさか褒められることになるとは。
番長と言う呼び名に対して三人がそれぞれの反応を示しているところに、そのいかついオッサンはやって来た。


「番長、ここにいらっしゃいやがりましたか!」


……しかも丁寧なんだか丁寧じゃないんだか分からない敬語を引っ提げて。


「そいつらはいってぇ誰なんです?」


外見を裏切らない喋り方をするそのオッサンにタクトとキルハは引き気味である。いつも通りなのはオッサンを知るユランとマイペースなおっとり僧侶フィリアであった。


「番長の子分っすか?」


「子分か……イマイチしっくり来ないわね。ていうか、子分ならここ(カデス)にたくさんいるしねー……」


うーん、となぜか考え込んだユランが導きだした答えが。


「そう、愛人よ! 愛人その1、その2、その3!!」


なぜか女王様設定を持ち出して来たらしい。


「番長か女王、どっちかに統一しろ!」


「細かいことはナシよ愛人その1!」


「誰がその1だっ!!」


「というか、フィリアも頭数に入ってるんだ……」


と、またも空間が賑やかになったところに。


「番長にそんな口聞くんじゃねぇぞコラ愛人だろうが何だろうが容赦しねぇからな」


ものすごいドスのきいた声に、さすがに三人ともビビった。ユランだけが平然と食事を続行している。


「あぁ、別に良いのよ。ツッコミ役の愛人だから」


ツッコミ役なら暴言を吐いても許されるのだろうか? この場の唯一の常識人キルハは素朴な疑問を覚えた。


「俺はそんな役引き受けたつもりないし愛人設定も止めてくれ!」


そしてタクトはツッコミ兼愛人を全力で否定した。
ユランの横にいるオッサンはというと……。


「ちっ、番長がそう言うなら仕方ねぇな」


「なぜに納得?! というかまずアンタは愛人て言葉に疑問を持ってくれないか!!」


ボケは無尽蔵に沸き上がり、タクトのツッコミは休むヒマもなかった。


「ね、優秀なツッコミ役でしょ?」


「へい、俺突っ込まれたの生まれて初めてです」


「私もツッコミを入れてもらったのはタクトさんが初めてでした」


「すごいよね、タクト。本当に旅芸人やったことないの?」


忙しいツッコミ役をよそに、オッサンを含めた四人はほのぼのとした会話を繰り広げていた。
もうどうにでもなれ。苦労人タクトはツッコミ役の愛人を否定することを放棄した……。










牢獄という名の宿屋
(てか、助けに来る必要なかったんじゃネ?)


―――――
最後のは近くで傍観していたサンディの呟き。
リーダーとの再会を記念して、タクトのツッコミは3割増し(当社比)でございます。……と言ってもオートツッコミ状態なのでよく分かりませんね!←

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