春風舞う季節と共に | ナノ


形勢逆転下克上!!

「……おい、何がどうなってんだこりゃ?」


「あっ、アギロさん!」


「どこ行ってたんすかアギロさん。一歩遅かったじゃないですかー」


じめじめとした石の壁、薄暗く不気味な雰囲気漂うカデスの牢獄。そんな地獄のような牢屋の中は、なぜか異様な熱気に溢れていた。一体、何があったのか。その理由はこの囚人達の中心にあるものらしかった。


「あれ、アギロさん。こんばんはー」


「…………何やってんだユラン?」


「え、見ての通りだけど?」


何事もないようにユランは手と足を組んで座っていた……倒れ伏した看守達の上に。文字通り、彼らは尻に敷かれている状態であった。


「この人達、不味い飯しかくれないんだもん。サンマロウの三ツ星レストラン級のもの寄越せって言ったら襲いかかってきたから返り討ちにしてやっちゃった」


と、本人は軽い口調で言うが、コトはそんな簡単なことではない。


「すごいんすよアギロさん! この嬢ちゃん、看守を一瞬でのしちまった!!」


「しかも武器を持った男達相手に素手でですぜ?! ありゃ人間技じゃねぇよ!!」


まぁ、確かにユランは人間ではなく天使だけれど。
囚人達は興奮したように先程繰り広げられた(一方的な)戦闘シーンを口々に語った。


「てことで、三ツ星級までとはいかないだろうけど、今度からは並みの宿屋程度のご飯になりそうだよ。良かったね!」


「何が良かったねだ! 完全に目を付けられたぞお前!」


「えー、大丈夫だよ多分。この人達も誰にも言わないって約束してくれたし。ねー?」


この人達とは、ユランの椅子になってる看守四人のことである。「や、約束します……しますから……」「だ、誰にも言いませんのでお許しを……」などとうなされてる。一体何をした。ユランよりむしろ看守達の方が心配になったアギロである。
そんな看守をよそに、囚人達は異様な盛り上がりを見せていた。


「まさかコイツがこんなに強いとは思わなかったぜ! 人は見かけによらないもんだなぁ」


「まったく、ユランさまさまだぜ!」


「ユランさん! これからは姐さんと呼んでも良いですか!!」


「ふざけんじゃないわ、誰が姐さんよ」


眉を寄せて渋い顔をしたユランはすっくと立ち上がった、が。


「私のことは……番長とお呼び!!」


……結構ノリノリだった。びしぃっと親指を自分に向けて高らかに宣言。そして、ノリノリなのは囚人達も同じであり。


「番長ーー!!」


「ユラン番長ーー!!」


「カデスの番長の誕生だぜーー!!」


わあぁぁぁっ!!というような歓声が牢獄に響く。
なぜに番長なのか。しかし、突っ込む人はなぜだか誰もいなかった。
そこで、ユランははたと何か思い付いたように腕を組む。


「あ、でもちょっと待ってよ。カデスのリーダーはアギロさんなんだから、番長はアギロさんになるのか。てことは私は副番? まぁそれはそれで良いわね……」


「何がだ。というか、俺は番長なんて名乗る予定も気負いもないからな」


真面目に考える内容がそれか、とアギロはかなり呆れた顔で突っ込んだ。


「じゃあやっぱり私が番長ってことで……? いや、やっぱりオーソドックスな女王様も捨て難い……」


「何が女王だ。んなこと考えてる時点でお前の思考が非オーソドックスだろう」


アギロの突っ込みもよそにユランは迷いに迷い。


「……私のことは女王様とお呼び!!」


「なりきるな阿呆」


もはやアギロも手を付けられないユランワールド全開の女王様だった。


「……んー、でもやっぱり番長がいいかな。よし、やっぱ番長ってことで!!」


「本当に自由だなお前は……」


物事は面白いか面白くないかの物差しで測るユランである。というわけで、面白いことに全力をかけて実行に移してしまう姿は正に横暴な女王様に見えなくもないという。
こうして誕生したカデスの番長。そのうち囚人だけでなく看守達もそう呼び始めるのは、そう遠くない未来のことである。









形勢逆転下克上!!
(後々、伝説として語り継がれたとか語り継がれなかったとか)



―――――
こちらの主人公は最強気味ですねー。まぁ、ギャグのつもりだし良いんじゃないかなと思ったり←
ユランの「番長(女王様)とお呼び!!」はもちろんサンディのあのクエストを意識してます(笑)

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