春風舞う季節と共に | ナノ


カデス制圧!

ここはカデスの牢獄という名の食堂。食事を終え、お茶を飲んでいた四人だったが、そのうちの一人、番長を名乗る少女がおもむろに席を立った。


「さて、じゃあ私、ちょっくら猪をシメてくるわー」


「いや待て待て」


ちょっと買い出し行ってくるわー的な勢いでボスに乗り込もうとしたユランをタクトが引き留めた。


「んな食後の運動的なノリで?! 相手は一応将軍なんだろ、なんでそう思い付きで行動するんだお前は!」


「そうですよユランさんっ…………行くなら私も連れてってください!!」


「ちょっと待てーー!!」


止めてくれると思ったのに。フィリアのまさかの同行願いに、タクトとキルハは危うくずっこけそうになった……座りながら。


「えっと、猪っていうのは確かゴレオン将軍のことだったっけ……?」


「そうよ、あの猪顔の万年係長のことよ!」


「いや、将軍だろ……?」


何か恨みでもあるのだろうか。ゴレオン将軍のことになると一気に不機嫌な顔になるユランであった。


「あんなの係長で十分よ!! それか建物の管理人! あんの猪……私の武器追い剥ぎしやがって……」


「それでそんなに怒ってるのかお前……」


普段の言動からは想像もつかないかもしれないが、武器に関しては人一倍管理にうるさいユランである。ちゃんと種類順に揃ってないと文句をつけてくるし、刃こぼれは一切見逃さない。いつか高く買い取らせるためだと言うが、未だ手放した武器はほとんどない。一種のコレクション状態と化している。
まぁ、タクトとしては武器を大切にすることに異議はないのだが……強いて言うなら、どんどん装備にゴールドを費やしてくれるのは勘弁してほしいところだ。


「それだけじゃないわよ! 武器を奪った挙げ句、あろうことか壊しやがったのよ?! 全然管理がなってないわ! 締め上げて絶対に弁償させてやるんだから……!!」


ユランの決意は固い。察したタクトはもう何も言うつもりはなかったが……


「恨みを晴らすのは別に止めないけどな……お前、アギロさんには何て言うつもりだ?」


勝手なことするなと怒られそうだ。やはりここはもう少し時期を見て行動した方が良いのではないかと思うのだが。


「んーとね……『行ってきます☆』」


「軽っ!! ピクニックにでも行くつもりなのかお前は!!」


「まぁ楽しそう」というフィリアの感想はこの際無視だ。


「そんなんで行かせてもらえると思うなよ?!」


「じゃあ何も言わないで行く!!」


「それこそダメだ阿呆!!」


「何でよ!!」


「ああいう人は怒らせない方が良いに決まってる!!」


「そんなの今更よ! ゲンコツの一つや二つや三つ四つや五つ……」


「何回怒られたんだお前?!」


「そんなのいちいち覚えてないわよ!!」


つまり、数えるのも忘れるくらいたくさん、ということだ。
そうこうしているうちに、周りのことも気にせず二人の言い合いはどんどんヒートアップしていった。


「あのー……二人とも……」


キルハがそれとなく仲裁に入ると「「何っ!!」」と二人して振り向く。こういうところはやっぱり息が合っているよなぁとキルハは思いながら、自分の向かい、つまりユランとタクトを挟んで向こう側を指差して、遠慮がちに呟いた。


「アギロさん、そこにいるんだけど……」


その瞬間、びしりと二人の体が固まった。おそるおそる振り向いてみると、確かにアギロらしき巨体が……


「あ……アギロ、さん……」


「こっ、こんばんはー。本日はお日柄もよく……」


ちなみに、今はまだ昼で天気は雨である。とんちんかんなことを言い出すユランにしかしアギロは何もつっこまなかった。


「将軍のことなら止めないぞ」


「えっ本当?! よっしゃ行くぜタクト、フィリア、キルハ!」


許可を貰った瞬間、さっさと支度を整えたユランは一目散にゴレオンのいる塔へと向かった。


「やっぱり俺達も入ってるのか……」


「当たり前でしょ! さぁこれで牢獄統一できるわー」


「一生ついていきますねユラン番長さん!」


「……何か違う話になりかけてないか?!」


番長を名乗り出した辺りから、いろいろと目的が反れていっている気がしてならないタクトであった。


「何だかなぁ……大丈夫なのかアイツら?」


「今日の晩餐は猪鍋よー!!」という大声をあげ、慌ただしく出ていったユランとお供を見送りながらアギロは心配気にぼやいた。


「ユラン達なら大丈夫ですよ。ああ見えて結構しっかりして…………」


そう言いながら、キルハは自分も行こうと立ち上がりかけ……一切の動作を止めた。


「……どうした?」


アギロが怪訝な顔を向けると、突如バッターンと派手な音を立ててキルハが忽然と消えた。……つまり、盛大に倒れた。一人足りないことに気付いたユラン達が戻ってきたのと同時に。


「ちょっとキルハー、って……あ、あああーーっ、キルハが倒れたぁぁぁーーっ!!


「またか……! おい、キルハしっかりしろ!」


「立ち眩みでしょうか? それとも貧血?」


くらくらと頭を回すキルハ。それを介抱する三人。

……この四人がゴレオン将軍に挑むのか。

やっぱり心配になってしまったアギロであった。












カデス制圧!
(待ってろ猪係長!!)



―――――
カデスはこれで終わり……だと思います。
とりあえずゴレオン将軍ごめんなさい←

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