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満月の夜に

※エンディング後



雲一つない、夜空。晴れた日の夜は窓辺で星を見る。それがリタの日課となっていた。
今日は満月。明かりがなくても部屋の中は十分明るかった。しかしその分、星の光が気後れして輝いているようにも見える。
やはり、星を見るには新月が一番だ。次の新月はいつだろう。今日が満月ということは……。
日付を指折り数えようとしたところ、物音を立てないよう慎重にドアを開ける音がした。


「アル、」


「……星を見てたのか」


もう、部屋に明かりがついていないことには慣れた。夜、アルティナが部屋に戻ると明かりがついてないことには何度もあった。
エルギオスと戦い、そして世界を救った後――天使界はなくなり、天使達は星になった。彼らの悲願であった『永遠の救い』は叶えられたのだ。
元は天使ではあったものの、女神の果実によって人間となったリタは星にならず、代わりに女神セレシアによって地上を守る使命を与えられた。星空の守り人ではなく、地上の守り人になったというわけだ。
それからというものの、リタはよく晴れた日に星空を眺めることを欠かさなかった。


「やけに明るいと思ったら、今日は満月だったか」


「うん、ウサギが餅つきしてるよ」


「……大きいハサミのカニとも言うな」


「女の人の横顔っていうのもあるよね」


その場所によって、月の見え方にもいろいろあるらしい。
アルティナが窓辺に寄ると、リタは少しだけ横にずれて場所を空けた。……満天の星空が目の前に広がっていた。
しばらく黙ってそれを眺めていた二人であったが、やがてリタがポツリと沈黙を破った。


「天使界のみんなはあの星の中のどれか、なんだよね……」


「……そうだな、」


ラフェット様、長老様、親友のフェリス、それからお師匠――イザヤール様。
世界を見守る星となった、大切な人達。

欄干に置く自分の手に力を込めると、頭にぽん、と何かが乗っかった。――大きい、アルティナの手だ。宥めるように優しく撫でられると、不思議と心が和む。されるがままになっていると、その手はそのままリタの髪を梳いた。銀色のクセのない髪は手に絡むことなくさらりと通り抜けていく。そして、おもむろに一房手に掬った。月光に反射して光り輝いている――星のようだと思った。
まだ旅を始めて間もない頃、リタがベクセリアで星を眺めていたのを思い出した。髪は肩につくくらいで切り揃えられていて……まだあどけなさが残っていた、あの頃。


「……長くなったな、髪」


「うん、ずっと切ってなかったから。そろそろ切ろうか、と……」


思ってた、と続けようとした言葉は、しかし途中で途切れてしまった。アルティナが、手に取った一束に口付けたのだ。


「、な……?!」


「切るな、もったいない」


みるみる顔が熱くなってきた。動悸も激しい。こういうことを平然とやってのけるのは勘弁してほしいと思う。しかも不意討ちで。心臓に悪すぎる。月光が明るいせいで、表情も相手にもろバレなのもいただけない。
案の定、リタの反応を楽しむように、アルティナは「どうした?」と意地悪い笑みを浮かべていた。からかわれる時によく見る顔だ。


「なっ、何でもない……」


「何でもないようには見えないんだが」


視線から逃れるようにそっぽを向く。分かっているくせに。こちらは、そんな余裕はこれっぽっちもない。


「う……か、からかわないでよ」


「からかってるつもりじゃないんだがな」


アルティナは髪をもてあそびながら喉の奥で笑った。嘘だ、嘘に決まっている。
真っ赤になりながらも、ふと前から疑問に思ったことを口にしてみた。


「えっと……アルは誰かとお付き合いしたことがあるの?」


「は? 何で」


「だって、何か慣れてる気がするから」


「そんなもんねぇよ。こうするのはお前の反応が面白いからだ」


きっぱり宣言されたことに思わずうなずきかけた、が。


「……って、やっぱりからかってるでしょ?!」


「バレたか」


あやうく脱力しそうになった。


「アルは私のこと何だと思ってるの」


「何だと思ってるも何も、お前は俺の恋人だろう」


「っ、またそういうことを……」


さらりと赤面必須なことを言ってくれる。今更始まったことではないけれど、こういうところは未だ慣れることが出来ない。


「違うか?」


「そ……その通り、だけど」


「だけど、何だ」


「…………恥ずかしい」


「慣れろ」


そんな無茶な、と思っているうちに肩を引き寄せられた。腰にまで腕を回され、抱きすくめられる形となる。これに慣れろ、ということだろうか。おずおずと背中に手を回すと、抱かれる腕の力が更に強くなる。…………何とも落ち着かないのだが。しかし、布越しに感じる体温はとても暖かくて、それだけが安心できた。


二人の影がかさなる、窓の外では星が夜空に瞬いていた。



終わり


―――――
お待たせしました、35000キリリク「くっついた後のリタとアルティナの話」でしたー。良かった、今回はちゃんと短編になりました←
ちなみに、クリア直後な設定です。くっついた後、二人はしばらくこんな感じなんだと思います。そして、くっついたので宿は堂々と同室にさせます← 明かりのない密室で二人きり……思えばなかなか危ないシチュエーション(^_^;)

ということで……リクエストされた方のみ、よろしければお持ち帰りくださいなー。あ、返品は可能ですので!
リクエストありがとうございました!

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