会長、転入生をスカウトする


「ええっ、何で!!」


「それは俺が聞きたいんだが。何でだ」


いきなり転入生呼び出して用心棒やれとは、どういう了見だ。
そんな声なき声が聞こえてきそうな表情をアルティナはしていた。


「いえっ、これには少々……いやかなり諸々と事情がありまして!」


「説明するのも面倒そうな事情に転入して間もない生徒巻き込むな迷惑だ」


間髪入れず突っぱねられた。全く誤魔化されてくれる隙はなさそうだ。
だが、欲しいのは正にそういった人材である。
とはいえ、用心棒を引き受けてもらうのは骨が折れそうだ。転入生アルティナを勧誘した張本人、生徒会長リタは困ったようにへにゃりと笑った。


「……そう、ですよね。いきなり言われても困りますよね……あっ、それじゃあ事情を教えるので用心棒引き受けていただけませんか!」


「ナイスアイデア!……みたいな顔してるが、それ目的と手段をすり変えただけだろうが」


「あ、バレました?」


「逆に、何でバレないと思った?」


ふざけているのかとアルティナが半目になりかけると、リタは笑顔のままであったものの、それは少し申し訳なさそうなものに変わった。


「すみませんが、事情とか理由は生徒会に入っていただかないと話せないんです」


「話せない?」


話さないのではなく、話せないと来た。そこはかとない面倒事が見え隠れしているような気がして、アルティナは思いきり顔をしかめた。学園に転入しただけでも災難だというのに、なぜ登校初日から胡散臭そうな事情とやらに巻き込まれなければならないのか。
そんなアルティナの迷惑顔にもめげず、リタは尚も懇願した。


「勝手なのは承知の上です。どうか用心棒やってください!」


「さっきも言ったが無理だ。何で俺がそんなことしなけりゃならねんだよ。他当たれ」


「お願いします、アルティナさん以上に適任がいなかったんです!」


「人選ミスだろ。他当たれ」


その後もリタは頼み込んだが、アルティナは終始“無理”の一点張りだった。
その様子を見ていた傍らの二人は、それまで黙っていたものの、ついに口を挟み出した。


「会長、これ以上はきっと無駄だよ」


「そうですわ、この人以外にも適任はいらっしゃいますわよ。例えばモザイオさんとか……」


まだ幼さが十分に残る顔立ちの少年は、生徒会書記のレッセ。お嬢様のような口調で話すのは、生徒会の副会長カレンである。
二人とも、アルティナを用心棒にするのはいろいろと不満があるようで、さきほどからアルティナに敵意があるような面持ちで控えていた。


「うーん、でもモザイオさんに用心棒やってもらうのは申し訳ないというか」


「俺は申し訳なくないのかよ」


「え? あ、そういうことではなくてですね、生徒会に入るなら部活をやめていただかなければならないので……」


どうやら部活に入っていると、生徒会の兼任は不可能らしい。だから、転入したばかりのアルティナに声がかかったということか。
ならば、手っ取り早く適当な部活に入ってしまえば向こうも諦めるのだろうか。


「とにかく、こんな無愛想でつれない人なんかより適任はたくさんいるに決まってます!」


「そうだよ、こんな協調性のカケラもなさそうな人が生徒会入ったってどうしようもないよ!!」


好き勝手言ってくれる二人に軽くイラっとしたアルティナだが、リタを説得してくれるのは好都合なので黙っていることにする。そのままもっと押せ。そして、早くここから解放して欲しい。
二人の説得が功を奏したのか、リタはふぅとため息をつき肩を落とした。


「分かりました。今日は諦めます」


「……絶対分かってないだろお前」


やりたくないものはやりたくない。用心棒なんて面倒なことはしたくはない。今日だろうが明日だろうが、いつだろうと心変わりなどしない。


「アルティナさんが部活入る前に、何としても用心棒引き受けてもらいますから!」


「そーかよ」


生徒会に入る気はないので、返事が投げやりになった。
やたらと部活動に拘るが、アルティナとしては出来るかぎり部活には入りたくないので入部しないに越したことはない。しかし、このまま生徒会の勧誘が続くなら、入部せざるを得ないだろうか。……入部したとしても、幽霊部員で通そうと思っているのだが。
そんなことを考えていると、おもむろにいけ好かないお嬢様風の副会長がアルティナに声をかけた。


「そうそう、部活入るならさっさと決めてしまってくださいね。少なくとも一週間以内には決めて欲しいところですわ。用心棒やるなら別に良いのですけれど。……まぁ、歓迎もしませんけれど」


生徒会に入るなオーラ全開だが、元より入る気もないので受け流そうとして……何か突っかかった。


「……部活はやらないといけないのか?」


そう、さきほどから部活動に入るか生徒会に入るかの二択しかないような口ぶりだった。疑問を口にすると、リタは「あれ、言ってなかったっけ?」と言うように首を傾げた。


「この学園、部活動には熱心なので。勉強はもちろん部活動にも力を入れていこうぜと言うのがモットーでして、幽霊部員とか兼部とかは校則に反しちゃうので、そのつもりでよろしくお願いしますね」


「…………」


「えーと、今ある部活は……」


リタが部の名前を一つ一つ読み上げた。が、そんなものアルティナの頭には一つとして入ってはこなかった。
部活に入らなければならないなど、聞いていない。
モットーとか制度とか、いろいろ文句を付けたいことがあるが、とりあえず一つ言えることがある。それは……


「ですから、なかなか用心棒を任命することも出来ず困ってたんです。生徒会と兼任するのは無理なので、部活やめさせるのも申し訳なくて……」


「待て、やる」


「え?」


熱心な部活をやっているなら、生徒会で用心棒をやっている方が遥かにマシそうだということ。

かくして、生徒会は新しく用心棒を迎えることとなった。


―――――
てことで、アルティナが半ば強引に生徒会の仲間入りを果たしたのでしたー。


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