狩猟部


「……で、用心棒って具体的に何やるんだよ」


問いかける声は半ばうんざりとした響きが混じっていた。
今、生徒会室にはリタとアルティナだけがいる。カレンとレッセも先程までいたのだが、二人は用事があるとかで出払っていた。
アルティナが無理矢理生徒会の用心棒に就任したのはつい先程のことである。無理矢理この学園に転入させられたのもつい先程のことだ。この目まぐるしすぎる学園生活に慣れる日は来るのだろうか。


「えーと、やって欲しいことは諸々あるんだけど……とりあえず学園のこと知って欲しいかな。部活動とかは特に」


「部活?」


「この学園、部活が特徴的というか……他の学校とは結構違うところあると思うんだよね。あ、噂をすれば……」


部屋の外から、耳を澄まさなくても足音が近づいてきているのが分かった。何やら騒々しいが、一体何事だ。アルティナは訝しげに扉の奥を見つめるが、リタは全く動じていない。どうやらこれは日常的に起こっているらしい。
程なくして、観音開きに扉が開いたかと思ったら、一人の男子生徒が中へと入ってきた。


「こんにちはリタさん! 今日も相変わらずお美しいですね……!!」


バターン、と大きな音を立てて扉を開きながらリタを褒めたのは、金茶の髪をした、いかにも軟派な男だ。制服を着ているので、この学園の生徒だとは分かるが、そうでなければ都会の街に繰り出していそうな雰囲気である。
先程まで静かだった生徒会室が、今ではこんなにも騒々しい。この男が乱入しただけで、こんなにも騒がしい空気に変わるとは。


「……えーと、とりあえず廊下は走っちゃダメですよ? カイリさん」


リタは、苦笑しながら出迎えた。アルティナはというと、「何だコイツ」というような呆れた視線を向けながら様子を窺っている。何だコイツ。


「すみません、リタさんに会えるかと思ったら抑えが効かなくなりまして……いやぁ、お恥ずかしい」


恥ずかしそうに頬を掻きながらのこの発言。とりあえず、照れながら言うことではない。


「では麗しの生徒会長さん、ここに署名をお願いしてもよろしいかな?」


「……カイリさん、書類に婚姻届を紛れ込ませるのは止めてください」


「やっべ、バレた?」


「…………」


いろいろとツッコミ所は満載だが、アルティナはリタが用心棒を雇いたがっていたのを何となく理解した。


「なるほど、仕事の内容はだいたい分かった。要はコイツを始末すれば良いんだな」


「えぇっ、よく分かったね! でも程々にお願いします!!」


察しが良く気が付いたアルティナを、リタは止めたりしなかった。今にも戦闘体制に変わろうとするアルティナに焦ったカイリが待ったをかける。


「わー!! 待って待って、ごめん俺が悪かったって!」


と、あっさり謝り、そそくさと扉の影に隠れた。それと同時に部屋の外からまたひょっこりと人影が現れる。今度は二人いた。


「あ、また失敗したのかカイリ先輩」


「これで一体何回目だよ?」


「あ、狩猟部の皆さん」


新たに入室してきたのは、黒髪を後ろにみつあみで束ねた男子生徒と、金髪で、制服を着崩したいかにも不良な男子生徒。リタが狩猟部と言ったが、どうやら天恵学園の部活の一つのようだ。


「紹介するね、こちら狩猟部の皆さん。カイリ先輩とナムジンさんとモザイオさんだよ」


「はぁ……狩猟部」


初っぱなからインパクトの大きい部である。狩猟部というもの珍しさも手伝って、忘れられそうにもない。


「あれ、お前見ない顔だな。新入りか?」


金髪の不良の方がアルティナを見て、首をひねった。モザイオだとかいう名前で紹介された方だ。
そこでリタはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに新しい生徒会の用心棒を紹介した。


「彼は今日から生徒会の用心棒となりました、転入生のアルティナくんです! 主に生徒会に出没する不届き者を追い出す役割を担ってます!」


「ああ、カイリ先輩のことですね、分かります」


「いやいや、何納得しちゃってんのかなナムジン?!」


さらっと何食わぬ顔で毒を吐いた後輩を先輩がたしなめた。が、後輩はそれを軽く黙殺してアルティナへ顔を向ける。


「はじめまして、狩猟部の部長を務めるナムジンです。活動は名前の通り、狩りをしてます」


「ナムジンさんはよく魔物を狩りに出掛けたりするんだって!」


リタがそう付け足すと、ナムジンはニコリと笑って頷いた。


「ええ、先程も狩猟に行ってきたばかりなんですよ」


「あ、そうだったんですか。何を狩ってきたんですか?」


「ええとですね、テンツクとスーパーテンツクとラストテンツクを少々……」


「テンツクばっかだな」


謎のテンツク三段活用にツッコまずにはいられなかった。テンツクに何か恨みでもあるのだろうか。
それを聞いたカイリは、負けじと手を挙げて自分の成果を発表した。


「はい! 俺は街で女の子達に声を掛けてきたけど全部失敗しました!」


「狩猟の意味が違う上に残念すぎるだろ」


狩りというか、ハンティングになっている。狩猟部的にこれは良いのだろうか。
カイリに触発されたのか、モザイオも自分の成果を発表しはじめた。


「ちなみに、俺は理事長から囲碁貸してもらってきたぜ!」


「それ、狩りじゃなくて借りじゃねーか」


使う漢字からして違うし、獲物が最早無機物である。
部員が良く分からない張り合いを見せたが、それはもはや狩猟と言えるのかすら疑問だった。


「……大丈夫か? この部活」


「うーん、多分……? まぁ、大喜利部に変更すべきなのかなぁと思うことはあるけど」


「……同感だな」


だが、まぁ本人達がそれで良いなら良いのかもしれない。アルティナはそれ以上追及することを放棄した。
部活動が特徴的だとは言っていたが、ここまでクセが強いとは思わなかった。先が思いやられる。

部活動でなく用心棒を請け負ったのは、割と正解だったかもしれない。アルティナは心からそう思った。



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狩猟部のカイリ、ナムジン、モザイオでした。勝手に入部させちゃいました、えへ←
部活動の他に委員会とかも作りたいけど、人手不足をどうしようか……(・・;)

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