第三章 15-1
「……もう充分です。とりあえずぼくの研究室に戻りましょう」
あらかたの家を訪ね終わると、ルーフィン達は研究室へと戻って行った。
「……ありがとうございます。おかげでエリザの言いたいことが分かったような気がします」
研究室へ戻った彼は、晴れ晴れとしていた。
戻ってくる前とは大違いだった。
「今までの僕は何をやるにも自分のことばかりで周りが見えていなかったんですね。だからエリザの体調がおかしいことすら気付かないで……まったく、情けない話です」
自嘲気味に笑うが、悲しみのどん底にいた時ほど、その表情は暗くない。
人は、どんなに辛く、苦しいことがあっても立ち直ることが出来る。
それはきっと、天使にも言えることで。
(私も、いつかきっと――)
そう願わずにはいられない。
「今日、町を回ってみて初めて自分がいかに多くの人と関わっているのか気付きました。……これからは、そのことを忘れずにこのベクセリアの人々と生きていこうと思います。
……皆に感謝されるのも悪くない気分ですしね」
最後、ぼそっと付け足したルーフィンの言葉に、リタは笑みを深めた。
「ルーくんを助けてくれてありがとうございます。おかげで私、死んでいるのに自分の願いを叶えることが出来ちゃいました」
振り返ると、エリザはお辞儀をし、満ち足りた笑顔を浮かべていた。
そして、その笑顔はルーフィンにも注がれていた。
「ルーくんのすごいところを町の皆に知ってもらうこと……そして、ルーくんにこの町を好きになってもらうこと……」
それが私の夢でしたから。
言い終わると同時に、エリザの体が仄かな光を放ち始める。
彼女も天に召される時が来たのだ。
「あわわっ……もう時間みたい。それじゃ、これでお別れです。どうか、お元気で……」
スッと、エリザの姿が静かに消えた。
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