第三章 15-2
ルーフィンの研究室をおいとまして外に出ると、満天の星空が広がっていた。
「さっきまで曇ってたのに……」
雲一つ無い空は、現在のこの町を現しているような気がする。
ベクセリアを覆っていた陰鬱な空気は、いつの間にか消えて失くなっていた。
さっきまで、あんなに暗かったのが嘘のように。
「町の人達が元気になったのは、きっとアルのおかげだね」
空を見上げながら、この町の人々の顔を思い浮かべる。
町長や宿のおばさん、病にかかった人達、それに……ルーフィンやエリザ。
皆もう、悲しげな顔をしてはいなかった。
「俺はただあの墓に学者の妻を見つけただけだ。町を変えたのは、お前だろ」
アルはリタの隣に並び、一緒になって空を眺めた。真面目に星空を見るのは久しぶりだと思いながら。
「人は、立ち直ることが出来る」
それは簡単なことではないけれど。
それを後押しするのが天使の役目、なのかもしれない。
「アル……今日はありがと」
さっきまでとは違う、大人びた笑顔。
「私、もっと勉強して、強くなって……立派な守護天使になれるように頑張るよ」
その不意打ちのような微笑みに、アルティナは思わず目を見張る。
「……そうか」
気の利いた返事をする余裕は、無かった。
わずかの間とは言え、少女の顔に見入ってしまったのだから。
そして少女の次の言葉によって、更に混乱することとなる。
「あれ、アル? 少し顔赤くない? もしかして……また熱でもあるの?!」
自覚すると、一気に顔に熱が集まった気がした。
「っ……そんなもん、知るか!!」
言い捨てて、ずかずかと宿に戻る少年と、これまた困惑する少女。
「私……なんか悪いこと言った……?」
思い至ることの無いリタは頭を抱えるばかり。
最近持て余すようになってきた感情の色に、アルティナは困惑せずにはいられなかった。
(それが意味することに、鈍感な戦士はまだ気付かない)15(終)
―――――
どっちも鈍感だとなかなか話が進まないという←
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